第74話:【74日目】ネクロディアの降伏と、CDO(最高デジタル責任者)の誕生
「バ、バカな……! 私の……私が三日徹夜して組み上げたアンデッド制御の術式が……たった一つの足湯で、すべてパァに……!?」
74日目の朝。
村の結界の外で、ネクロディアは膝から崩れ落ちていた。
昨日から徹夜で部下を怒鳴り続けた挙句、五百の軍勢をすべて失い、完全に戦意を喪失した四天王。俺は結界を開き、彼を村役場のラウンジへと招き入れた。
「……殺せ。魔王軍の幹部として、人間の施しを受けるくらいなら、いっそこの骨を粉々に砕くがいい」
コタツの前に座らされたネクロディアが、カタカタと顎の骨を鳴らしながら強がる。
しかし、俺は彼を殺す気など毛頭ない。
今朝「残り292日」のカレンダーから引いたアイテムを、彼に差し出した。
『SSRアイテム【カルシウムたっぷり・魔導ホットミルク&至高の骨磨きセット】を獲得しました』
『※魂に染み渡る温かく甘いミルクと、骨の隅々まで輝きを取り戻す魔法のケアセットです。疲弊したメンタルを優しく修復します』
「ネクロディア。冷えただろう、まずはこれを飲んでくれ」
「ほ、骨に飲み物など……って、なんだこれは!? ミルクが骨に直接染み込んで……す、すさまじいカルシウムの充実感だ……!」
ホットミルクの魔力により、ネクロディアのくすんでいた骨が内側からポワァッと温かな光を放ち始めた。
さらに、俺が【至高の骨磨きセット】の魔法のブラシで彼の肩の骨を磨いてやると、彼は「ヒョッ!?」と変な声を上げた。
「ああっ……! そこ、そこは……! あぁぁ、何百年も手入れしていなかった肩甲骨の裏側が、ピカピカに……!」
ミルクの温もりと骨磨きの心地よさに、四天王の威厳は跡形もなく崩れ去った。
「ネクロディア。あんた、魔王軍のシステム(魔力網)の管理や、アンデッドの自動制御を一手に引き受けていたんだな?」
「……そうだ。魔王軍のシステムは数百年前の古い魔力回路のままだ。誰も仕様書を残しておらん! それを私が毎日手動でパッチを当て、アンデッドというマクロを組んで、無理やり兵站を回していたのだ!」
ドバババッと溢れ出す、ITエンジニア(インフラ管理者)の悲痛な叫び。
前世の俺も、誰も仕様を知らない社内システムの保守で地獄を見たことがある。彼の絶望感は痛いほどわかった。
「……典型的な『技術的負債』だな。上層部はシステムの重要性を理解せず、現場のエンジニアに全てを押し付ける」
「その通りだ! カーミラめ、自分は『アナログな暗殺の方が確実』などと言って、私のサーバー(魔力炉)管理を手伝おうともせんのだぞ!」
「ネクロディア。もう、そんな古いシステムにしがみつくのはやめろ。うちの村に来ないか」
「……何?」
「うちの村には、カレンダーから出た大量の最先端インフラ(魔導具)がある。だが、それらを連動させるネットワークの構築が今後の課題だ。あんたを『最高デジタル・データ責任者(CDO)』に任命したい」
俺は骨磨きの手を止め、彼に提案した。
「あんたの魔法構築スキルがあれば、この村はもっと快適になる。労働時間は1日8時間。残業なし。徹夜のデバッグなんて絶対にさせない。毎日、この骨磨きとホットミルクを提供する」
ネクロディアは、自分のピカピカになった両手(骨)を見つめ、そしてコタツの温もりを噛み締めた。
「……新しいシステムを、ゼロからモダンな環境で構築してよいのだな?」
「ああ。予算(魔力)も潤沢に用意する」
ネクロディアは深くため息をつき、コタツの上のミカンを骨の指で器用に剥き始めた。
「……負けた。タクト村長……私の術式、このホワイト村のために再構築してやろう」
こうして、魔王軍の頭脳である大魔導士が、ホワイト村のITインフラ責任者として寝返った。
残る四天王は、あと一人である。
(残り291日。明日は何が出る?)




