第73話:【73日目】アンデッドの有給休暇と、死者の尊厳
アンデッド軍団が村の前の「魔導足湯」でストライキを起こしてから、一夜が明けた。
73日目の朝。俺が村役場から結界の外を見ると、五百の骸骨やゾンビたちは、一晩中足湯に浸かりっぱなしで、完全に骨抜き(物理)になっていた。
「あぁ〜……芯まで染みるっす……」
「徹夜の行軍の疲れが、お湯に溶け出していくっす……」
「き、貴様らぁぁっ! 死体が労働条件に文句を言うな! 私の魔力による強制命令に従えぇっ!」
ネクロディアは一晩中怒鳴り続けていたようで、すっかり声(骨の鳴る音)がかすれている。
彼が必死に魔力を送り込むが、足湯の圧倒的なリラックス効果と浄化作用の前に、強制命令のプログラムは完全にエラーを吐いて無効化されていた。
俺は結界の中から、インカムのスピーカーを使ってネクロディアに話しかけた。
「ネクロディアさん。彼らはもう限界だ。あなたのやっていることは、死者の尊厳を踏みにじる『極限のやりがい搾取』だぞ」
「だ、黙れ人間! アンデッドはコストゼロの永久機関だ! これをこき使わねば、魔王城の建築ノルマも兵站も回らんのだ!」
ネクロディアの眼窩に焦りの炎が揺れる。
どうやら彼もまた、魔王軍の無謀なノルマに追いつめられ、部下を酷使せざるを得なかった「悲しき中間管理職」の一人らしい。
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り293日」の紙をめくった。
足湯で呪縛から解き放たれ、成仏(退職)の準備が整った彼らに、最後の「有給休暇(福利厚生)」を与えるためだ。
『SSRアイテム【魂の永住権・魔導霊園&慰霊碑】を獲得しました』
『※陽だまりのように暖かく、永遠の安らぎを約束する美しい公園型の霊園です。ここに登録された魂は、苦しみから解放され、自由に自然界へと還ることができます』
「アンデッドのみんな。君たちの過酷な労働は今日で終わりだ。この霊園で、ゆっくりと永久の休息(有給消化)に入ってくれ」
俺が村の端に霊園を展開すると、足湯に浸かっていた五百のアンデッドたちは、涙を流しながら(骸骨は目から光の粒子を流しながら)、俺に向かって深々と頭を下げた。
「村長さん……ありがとう。俺たち、やっと休めるんすね……」
「こんな温かい足湯で終わらせてもらえるなんて……最高の上司(PM)っす……!」
彼らの体は光の粒子となって解け、魔導霊園の慰霊碑へと吸い込まれ、安らかに天へと昇っていった。
雪原には、ヒノキの足湯と、ただ一人ポツンと取り残された骸骨の大魔導士だけが残された。
(残り292日。明日は何が出る?)




