第71話:【71日目】冬の朝の布団から出られない問題と、魔導床暖房
開拓70日記念の盛大なプロジェクションマッピング・ショーから一夜明けた、71日目の朝。
村の外は、一晩中降り続いた雪により、完全に膝下まで埋まるほどの深い銀世界と化していた。
俺がタワーマンションの自室で目を覚ますと、室内は【全自動・魔導温室】の応用技術である空調によって適温に保たれている……はずだった。
しかし、足元から這い上がってくる冷気が、どうにも無視できないレベルに達している。
「……寒い。空調の暖かい空気は上に溜まるから、どうしても足元が冷えるんだな」
前世の冬の朝、エアコンをつけても足先が氷のように冷たく、ベッドから出るのに三十分以上かかっていた「あの現象」である。
このままでは、社員たちの朝の始動に多大な影響が出る。遅刻者が続出すれば、それは個人の怠慢ではなく、環境を整備していないPMの責任だ。
俺は分厚いフリースを羽織り、リビングの日めくりカレンダーの前に立った。
今日のカレンダーが示す数字は「残り295日」。
「足元からの冷え(ボトルネック)を解消する、最高の暖房設備を頼む」
ペリッ、と紙をめくる。
光の粒子が床に吸い込まれるように広がり、村中の建物の図面と、小さな魔石のコントローラーが現れた。
『SSRアイテム【全自動・魔導床暖房システム&快適ルームシューズ】を獲得しました』
『※建物の床下に魔法の熱伝導ネットワークを構築し、足元から陽だまりのような温もりを提供します。ルームシューズは歩くたびに足裏をマッサージします』
「キタ! 冬の最強インフラ、床暖房!」
俺がコントローラーのスイッチを入れた瞬間。
足の裏から、じんわりと、そして確かな「極上の温もり」が伝わってきた。
冷え切っていたフローリングが、まるで春の芝生のようにぽかぽかとした感触に変わっている。
「おおお……! これは、たまらないな……」
俺はすぐさま、ルームシューズを履いて村役場(PMO)へと向かった。
すると、役場のラウンジでは、いつもなら元気に走り回っているはずのルナたち獣人が、床にペターッと寝そべって、文字通り「溶けて」いた。
「ああぁぁ……。床が、床が温かいですぅ……。アタシ、もう一生ここから立ち上がりたくない……」
「わかるぜ、嬢ちゃん。背中から伝わるこの熱、極上の岩盤浴みたいだ……ガハハ……」
ガルドまでもが大の字になって床の温もりを堪能している。
「みんな、おはよう。床暖房は気に入ってくれたみたいだな」
「タクト様! おはようございます! お茶をお持ちし……あっ」
キッチンから駆け寄ってきたシルフィも、ルームシューズの「足裏マッサージ機能」が作動したのか、変な声を出してその場にへたり込んだ。
「ああっ……足の裏のツボが……すごく気持ちいいですぅ……」
「(ルームシューズの効能が少し強すぎたか……?)」
足元が温まることで、全身の血流が良くなり、免疫力も向上する。
遅刻の危機(朝のモチベーション低下)は見事に回避され、社員たちは最高のコンディションで冬の業務へと向かっていった。
――しかし、村がぽかぽかと温まっているその頃。
北の荒野からは、一切の熱を持たない「死の軍団」が、音もなくホワイト村へと進軍してきていたのだった。
(残り294日。明日は何が出る?)




