第63話:【63日目】吹雪の遭難者(勇者一行)と、陰陽魔導鍋
63日目。この日は朝から、一寸先も見えないほどの猛吹雪が荒野を覆っていた。
もちろん村の中は結界とロードヒーティングのおかげで快適そのものだが、結界の外はマイナス十度を下回る死の世界だ。
俺がPMOで熱いコーヒーを飲んでいると、監視モニターを見ていたシオンが声を上げた。
「タクト様! 結界の外、南東一キロの地点に、倒れている人影が複数あります。この吹雪で遭難したようです!」
「なんだって!? すぐに救助隊を出すぞ!」
俺はインカムでザンギュラとフレイアを呼び出し、魔導キャンピングキャリッジを出動させた。
遭難地点に到着し、雪の中から掘り起こされたのは、青い唇をして完全に凍え切った四人の若い男女だった。
豪華な聖剣を握りしめた金髪の青年、杖を持った魔法使いの少女、重装備の騎士、そして弓使い。
「……こいつら、ただの冒険者じゃねえぞ。この剣……聖なる加護を帯びてやがる」
ザンギュラが目を細めて呟いた。
「急いで村に運ぶぞ! 大浴場は刺激が強すぎる。まずは内側から温めないと」
俺は村役場のラウンジに彼らを運び込み、今朝カレンダーの「残り303日」から引いたばかりのSSRアイテムをテーブルにセットした。
『SSRアイテム【極楽・陰陽魔導鍋(火鍋セット)】を獲得しました』
『※中央で二つに仕切られた魔法の鍋です。片方は体の芯から燃え上がる「情熱の旨辛スープ」、もう片方は心身を優しく包み込む「慈愛の白湯スープ」。食べた者の生命力を限界突破させます』
セシルが即座に世界樹の野菜と魔猪の薄切り肉を用意し、鍋がぐつぐつと煮え立った。
俺は意識のない金髪の青年に、慈愛の白湯スープをスプーンで少しずつ口に流し込んだ。
「ごくっ……こ、これは……」
スープが食道を通った瞬間、青年の顔にみるみるうちに血の気が戻り、凍りついていたまつ毛の氷が溶けていった。
彼だけでなく、他の三人も次々と目を覚まし、鍋から漂う暴力的なまでに美味そうな匂いに釘付けになった。
「あ、温かい……! それに、なんていい匂い……」
「ここは……天国、でしょうか?」
「いや、村役場のラウンジだ。凍死寸前だったんだぞ、あんたたち。とりあえず、腹に肉と野菜を入れて暖を取れ」
俺が取り鉢を渡すと、四人は無言で猛烈な勢いで鍋をつつき始めた。
旨辛スープで汗をかき、白湯スープで息を吐く。究極のサウナのようなサイクルが、彼らの命を雪の底から引き上げ引き上げた。
「うおおおおっ! 美味い、美味すぎる! 三週間ぶりの温かい飯だぁぁぁ!」
「涙が止まらないわ……。雪を食べて飢えを凌いでいた日々が嘘みたい……」
鍋が空になる頃には、彼らの生命力(HP)は完全に全快していた。
「ぷはぁっ……! 助けていただき、本当にありがとうございます」
金髪の青年が深く頭を下げた。
「俺はアーサー。実は俺たち……王国の命を受け、魔王を討伐する旅をしている『勇者パーティー』なんです」
「「「…………」」」
俺の背後で腕を組んでいたザンギュラ(元・魔王軍四天王)とグレイシア(元・魔王軍四天王)が、微妙な顔を見合わせた。
吹雪の遭難者の正体は、まさかの『勇者一行』だったのだ。
(残り302日。明日は何が出る?)




