第62話:【62日目】社内報の創刊と、組織のサイロ化防止
冬の到来に伴い、屋内での作業や各施設での専門的なタスクが増えてきた62日目。
CIO(最高情報責任者)のシオンから、PMO(村役場)にて一つの課題がエスカレーションされた。
「タクト様。村の人口が二百人に迫り、各部門の専門化が進んだことで、『他の部門が何をしているか分からない』という声が上がり始めています」
「なるほど。組織の『サイロ化(縦割り現象)』の兆候だな」
企業が大きくなると必ず発生する問題だ。農業部門は防衛部門の苦労を知らず、事務部門は現場の成果が見えにくくなる。これが進むと、部署間の対立やモチベーションの低下に繋がる。
「お互いの仕事を知り、リスペクトし合える仕組み(インターナル・コミュニケーション)が必要だな」
俺は日めくりカレンダーの「残り304日」の紙をめくった。
現れたのは、大きなローラーがついた、アンティーク調の印刷機だった。
『SSRアイテム【全自動・魔導輪転機&取材ドローンカメラ】を獲得しました』
『※空飛ぶカメラが村中の日常を自動で撮影し、指定したレイアウトで魅力的な記事(社内報)を無限に印刷する魔法の出版システムです』
「完璧だ。これで『村の新聞』を発行しよう」
俺はシオンを『ホワイト村タイムズ』の初代編集長に任命し、創刊号の作成を指示した。
魔導輪転機は凄まじい効率で稼働し、夕方の食堂には、インクの匂いが新しい立派なタブロイド紙が全員分置かれていた。
「おおっ!? なんだこれ、紙に絵(写真)が動いて映ってるぞ!」
「ガハハ! 見ろ、一面はルナ嬢ちゃんたち警備部隊の『ゲレンデパトロール特集』だぜ!」
食堂で新聞を広げた村人たちが、口々に歓声を上げる。
創刊号のラインナップは以下の通りだ。
・特集:「警備部隊の舞台裏! 雪山の安全を守るルナ隊長の1日」
・コラム:「CFOグレイシアの『絶対にわかる村の予算(外貨)運用術』」
・料理コーナー:「セシル総料理長直伝! 身体の芯から温まる魔石オーブンの使い方」
・社長(村長)メッセージ:「冬の健康管理と、来月の昇給査定について」
「うおおっ! ルナさんたち、あの猛吹雪の森の奥まで見回りに行ってくれてるのか! 知らなかったぜ……」
「グレイシア様の予算管理のおかげで、マルコからの輸入物資がこんなに安く買えてたのね!」
記事を読むことで、村人たちは自分たちの見えないところで働いている仲間の「努力」と「成果」をリアルに知ることができた。
「タクト様。これは……素晴らしい情報統制ツールですね」
シオンが感心したように呟く。
「言い方が物騒だな。これはプロパガンダじゃなくて、『相互理解によるエンゲージメントの向上』だよ。仲間が頑張っている姿を知れば、自分も頑張ろうって思えるだろ?」
新聞には「今月のMVP(最も他者を助けた人)」の発表欄もあり、選ばれた者にはセシル特製ケーキが贈られる仕組みにした。
情報をオープンにし、互いに称賛し合う文化。
村の組織力は、分厚い雪の下でさらに強固な根を張り始めていた。
(残り303日。明日は何が出る?)




