表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/90

第6話:【6日目】自動化ツール導入と、腹ペコ獣人の来訪

 異世界生活6日目。

 拠点となる家が完成し、福利厚生としての露天風呂も稼働した。

 プロジェクトは極めて順調だ。衣食住の「食」と「住」が確保された今、次なるステップは「業務の自動化オートメーション」である。


「よし、今日も回そう」


 朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、俺は『日めくりカレンダー』の6枚目をめくった。

 光の粒子が形作るのは、金属製の奇妙な筒だった。先端にはシャワーヘッドのようなものが付いている。


『SSRアイテム【全自動・豊穣の魔導スプリンクラー】を獲得しました』

『※水源に繋ぐだけで、広範囲に最適な量の水と魔力を自動散布します。設定一つで作物の成長速度をコントロール可能です』


「キタキタキタ! これだよ、俺が求めていたのは!」


 思わずガッツポーズが出た。

 世界樹の種から育つ野菜は一晩で収穫できる超効率だが、毎朝水汲みをして水やりをするのは、畑が広がれば広がるほど単純作業ボトルネックになっていく。

 だが、このスプリンクラーがあれば、そのルーティンワークを完全に自動化できる。


「ガルド! シルフィ!」

「はいっ!」「おう、どうした村長!」

「ガルドは昨日作った泉から畑まで、このスプリンクラーを繋ぐための導水管パイプを作ってくれ。シルフィは管の接続部のコーティングと、水圧の調整を頼む」


 俺の指示に、二人は即座に動いた。

 ガルドが【万能建材の無限箱】から鉄材を取り出して一瞬でパイプを打ち出し、シルフィがそれを魔法で繋ぎ合わせていく。

 ものの三十分で、泉から畑の中心へと伸びる自動散水システムが完成した。


「よし、テスト稼働だ」


 俺がスプリンクラーの魔導スイッチを入れると、シュルルルッという小気味よい音と共に、ヘッドが回転し始めた。

 キラキラと光る魔力を含んだ水が、広大な畑の隅々にまで均等に降り注いでいく。


「おおーっ! こいつは便利だ! いちいち水桶を運ばなくて済むな!」

「はい! 魔力も程よく混ざっていて、お野菜たちが喜んでいるのが分かります!」


 二人の歓声を聞きながら、俺はメモ帳の「水やりタスク」に横線を引いて消した。

 手作業を減らし、浮いたリソースを次の開拓に回す。これがPMの快感だ。


「さて、今日のメインタスクはこれで完了だが……」


 スプリンクラーの稼働を見守っていた時だった。


 ――ぐきゅるるるるる。


 突然、スプリンクラーの音に負けないほどの、盛大な「腹の虫」の音が響き渡った。


「ん? ガルド、腹減ったのか?」

「いや、俺様じゃねえぞ?」


 三人が顔を見合わせていると、畑の向こう側――荒野と村の境界線あたりにある茂みが、ガサガサと揺れた。


「……何者ですか!」


 シルフィが即座に杖を構え、ガルドが背中のハンマーに手を伸ばす。

 ピリッとした空気が流れる中、茂みをかき分けて姿を現したのは――


「にゃ、肉の匂いが……した、ん、ですが……」


 ボロボロの布を纏った、銀色の獣耳とふさふさの尻尾を持つ少女だった。

 彼女はふらふらとした足取りで畑のふちまで歩いてくると、立派に実った特大トマトを前にして、そのままバタリと倒れ込んだ。


「おいおい! 行き倒れか!?」

「シルフィ、警戒は解け。ガルド、彼女を家の中へ運んでくれ! 俺は飯の準備をする!」


 大慌てでリビングの長椅子に寝かせた少女は、栄養失調なのかひどく痩せ細っていた。

 狼の獣人だろうか。耳と尻尾には土埃がこびりつき、足には擦り傷が絶えない。


 俺は昨日の夕食の残りの特製スープを温め直し、少しだけスプーンで彼女の口に運んだ。

 すると、少女の鼻がヒクヒクと動き、パチリと目を開けた。


「……スープ! あったかいスープの匂い……っ!」


 彼女は跳ね起きるなり、俺の手からお椀を奪い取り、ものすごい勢いで飲み干し始めた。


「こらこら、ゆっくり飲め。むせるぞ」

「むぐっ、んぐっ……ぷはぁっ! お、おいじぃぃぃ!」


 スープを平らげた少女は、大粒の涙をボロボロとこぼしながら泣き出した。


「な、なんて美味さなんだ……! もう三日も草と泥水しか口にしてなかったから、死ぬかと思った……!」

「落ち着いたか? 俺はこの村の村長、タクトだ。君は?」


 俺が優しく問いかけると、少女は慌てて長椅子から降り、ペタンと正座をした。


「あ、アタシは狼獣人ウルフファングの族長の娘、ルナです! 人間の悪徳商人に騙されて一族の住処を追われ、ここまで逃げてきました……!」


 ルナと名乗った少女は、悔しそうに耳を伏せた。


「助けていただいて、ありがとうございます。でも、アタシ、お金も何も持ってなくて……この恩は、アタシの体を売ってでも――」

「いや、体は売らなくていい。それより、うちの村で働く気はないか?」

「えっ?」


 ルナはきょとんとした。


「ちょうど、業務が拡大してきて、人手が足りないと思っていたところだ。農業の収穫アシスタントや、村の警備見回りなんかを任せたい」

「は、働く……? アタシみたいな獣人を、雇ってくれるんですか?」


 この世界では、獣人などの亜人は人間から差別され、奴隷のように扱われることが多いらしい。彼女が驚くのも無理はない。


「うちは種族不問、完全実力主義だ。それに――」


 俺はルナの目を見て、はっきりと告げた。


「週休二日制、一日8時間労働、残業なし。三食のまかない付きで、いつでも入れる露天風呂(天然温泉)も完備してる。どうだ? 悪くない条件だと思うが」


「ろてん、ぶろ……? ざんぎょうなし……?」


 ルナは初めて聞く単語に戸惑いながらも、「三食まかない付き」という言葉に尻尾を千切れんばかりに振った。


「や、やります! アタシ、何でもやります! だから、またあの美味しいご飯を食べさせてください!」


 こうして、四人目の村人――狼獣人のルナが俺たちのプロジェクトにジョインした。

 カレンダーからのドロップだけでなく、村の噂(あるいは匂い)を聞きつけて人が集まるようになったのだ。


 村が、本格的に動き始めている。


(残り359日。明日は何が出る?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ