第6話:【6日目】自動化ツール導入と、腹ペコ獣人の来訪
異世界生活6日目。
拠点となる家が完成し、福利厚生としての露天風呂も稼働した。
プロジェクトは極めて順調だ。衣食住の「食」と「住」が確保された今、次なるステップは「業務の自動化」である。
「よし、今日も回そう」
朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、俺は『日めくりカレンダー』の6枚目をめくった。
光の粒子が形作るのは、金属製の奇妙な筒だった。先端にはシャワーヘッドのようなものが付いている。
『SSRアイテム【全自動・豊穣の魔導スプリンクラー】を獲得しました』
『※水源に繋ぐだけで、広範囲に最適な量の水と魔力を自動散布します。設定一つで作物の成長速度をコントロール可能です』
「キタキタキタ! これだよ、俺が求めていたのは!」
思わずガッツポーズが出た。
世界樹の種から育つ野菜は一晩で収穫できる超効率だが、毎朝水汲みをして水やりをするのは、畑が広がれば広がるほど単純作業になっていく。
だが、このスプリンクラーがあれば、そのルーティンワークを完全に自動化できる。
「ガルド! シルフィ!」
「はいっ!」「おう、どうした村長!」
「ガルドは昨日作った泉から畑まで、このスプリンクラーを繋ぐための導水管を作ってくれ。シルフィは管の接続部のコーティングと、水圧の調整を頼む」
俺の指示に、二人は即座に動いた。
ガルドが【万能建材の無限箱】から鉄材を取り出して一瞬でパイプを打ち出し、シルフィがそれを魔法で繋ぎ合わせていく。
ものの三十分で、泉から畑の中心へと伸びる自動散水システムが完成した。
「よし、テスト稼働だ」
俺がスプリンクラーの魔導スイッチを入れると、シュルルルッという小気味よい音と共に、ヘッドが回転し始めた。
キラキラと光る魔力を含んだ水が、広大な畑の隅々にまで均等に降り注いでいく。
「おおーっ! こいつは便利だ! いちいち水桶を運ばなくて済むな!」
「はい! 魔力も程よく混ざっていて、お野菜たちが喜んでいるのが分かります!」
二人の歓声を聞きながら、俺はメモ帳の「水やりタスク」に横線を引いて消した。
手作業を減らし、浮いたリソースを次の開拓に回す。これがPMの快感だ。
「さて、今日のメインタスクはこれで完了だが……」
スプリンクラーの稼働を見守っていた時だった。
――ぐきゅるるるるる。
突然、スプリンクラーの音に負けないほどの、盛大な「腹の虫」の音が響き渡った。
「ん? ガルド、腹減ったのか?」
「いや、俺様じゃねえぞ?」
三人が顔を見合わせていると、畑の向こう側――荒野と村の境界線あたりにある茂みが、ガサガサと揺れた。
「……何者ですか!」
シルフィが即座に杖を構え、ガルドが背中のハンマーに手を伸ばす。
ピリッとした空気が流れる中、茂みをかき分けて姿を現したのは――
「にゃ、肉の匂いが……した、ん、ですが……」
ボロボロの布を纏った、銀色の獣耳とふさふさの尻尾を持つ少女だった。
彼女はふらふらとした足取りで畑のふちまで歩いてくると、立派に実った特大トマトを前にして、そのままバタリと倒れ込んだ。
「おいおい! 行き倒れか!?」
「シルフィ、警戒は解け。ガルド、彼女を家の中へ運んでくれ! 俺は飯の準備をする!」
大慌てでリビングの長椅子に寝かせた少女は、栄養失調なのかひどく痩せ細っていた。
狼の獣人だろうか。耳と尻尾には土埃がこびりつき、足には擦り傷が絶えない。
俺は昨日の夕食の残りの特製スープを温め直し、少しだけスプーンで彼女の口に運んだ。
すると、少女の鼻がヒクヒクと動き、パチリと目を開けた。
「……スープ! あったかいスープの匂い……っ!」
彼女は跳ね起きるなり、俺の手からお椀を奪い取り、ものすごい勢いで飲み干し始めた。
「こらこら、ゆっくり飲め。むせるぞ」
「むぐっ、んぐっ……ぷはぁっ! お、おいじぃぃぃ!」
スープを平らげた少女は、大粒の涙をボロボロとこぼしながら泣き出した。
「な、なんて美味さなんだ……! もう三日も草と泥水しか口にしてなかったから、死ぬかと思った……!」
「落ち着いたか? 俺はこの村の村長、タクトだ。君は?」
俺が優しく問いかけると、少女は慌てて長椅子から降り、ペタンと正座をした。
「あ、アタシは狼獣人の族長の娘、ルナです! 人間の悪徳商人に騙されて一族の住処を追われ、ここまで逃げてきました……!」
ルナと名乗った少女は、悔しそうに耳を伏せた。
「助けていただいて、ありがとうございます。でも、アタシ、お金も何も持ってなくて……この恩は、アタシの体を売ってでも――」
「いや、体は売らなくていい。それより、うちの村で働く気はないか?」
「えっ?」
ルナはきょとんとした。
「ちょうど、業務が拡大してきて、人手が足りないと思っていたところだ。農業の収穫アシスタントや、村の警備見回りなんかを任せたい」
「は、働く……? アタシみたいな獣人を、雇ってくれるんですか?」
この世界では、獣人などの亜人は人間から差別され、奴隷のように扱われることが多いらしい。彼女が驚くのも無理はない。
「うちは種族不問、完全実力主義だ。それに――」
俺はルナの目を見て、はっきりと告げた。
「週休二日制、一日8時間労働、残業なし。三食のまかない付きで、いつでも入れる露天風呂(天然温泉)も完備してる。どうだ? 悪くない条件だと思うが」
「ろてん、ぶろ……? ざんぎょうなし……?」
ルナは初めて聞く単語に戸惑いながらも、「三食まかない付き」という言葉に尻尾を千切れんばかりに振った。
「や、やります! アタシ、何でもやります! だから、またあの美味しいご飯を食べさせてください!」
こうして、四人目の村人――狼獣人のルナが俺たちのプロジェクトにジョインした。
カレンダーからのドロップだけでなく、村の噂(あるいは匂い)を聞きつけて人が集まるようになったのだ。
村が、本格的に動き始めている。
(残り359日。明日は何が出る?)




