第58話:【58日目】魔王軍・第二の刺客と、魔導コタツの魔力
村が冬の装いに包まれていた58日目の朝。
俺は日めくりカレンダーの「残り308日」の紙をめくった。
『SSRアイテム【極楽・魔導コタツ&無限の甘味ミカン】を獲得しました』
『※一度入ると出られなくなる至高の暖房器具。使用者の疲労を芯から溶かし、永遠の安らぎを与えます。魔力で保温されるため火災のリスクはゼロです』
「ついに来たか、日本人の冬の最終兵器……!」
俺は即座に村の広場の休憩スペースや、村役場のラウンジにこの魔導コタツを設置した。
コタツ布団は極上のふかふか素材で、テーブルの上にはつやつやとしたオレンジ色のミカンが山盛りに置かれている。
――同じ頃。
村の上空、雪雲が立ち込める荒野の空に、一つの冷たい影が浮かんでいた。
「……ここが、ザンギュラの奴が消息を絶ったという南の果てか」
冷気をまとい、氷で作られた美しい杖を握るその女性は、魔王軍四天王の一人、『氷将』のグレイシアであった。
冷徹な彼女は、行方不明となったザンギュラの捜索と、彼を打ち破ったであろう「未知の勢力」の偵察(あるいは殲滅)を命じられてはるばる北の魔王城から飛んできたのだ。
「フン。強力な結界が張られているようだが……私の絶対零度の魔力なら、少しの間なら透過できる。内部から凍てつかせてやろう」
グレイシアは結界の魔力の薄い部分を見極め、自らを氷の粒子に変えて、音もなく村の広場へと潜入した。
だが、潜入した直後、彼女を待っていたのは「戦場」ではなく、強烈な「違和感」だった。
「なんだ、この暖かい空間は……? それに、あの木造の家々や、巨大な塔は一体……」
警戒しながら広場を進むグレイシア。
その時、彼女の目に、広場の休憩スペースで不思議な「四角い布の塊」に入り込んでいる数人の男たちの姿が映った。
「(あれは……魔王軍の鎧!? ザンギュラの部下たちか!?)」
グレイシアが息を潜めて近づくと、かつての凶悪な魔族の兵士たちは、フリースを着込み、四角いテーブルのようなものの下で足を伸ばし、完全に腑抜けた顔でミカンを剥いていた。
「あぁ〜……。もう俺、一生ここから出たくねぇ……」
「わかる。コタツとミカン、最強すぎる。午後からのパトロール、ルナの部隊に代わってもらえねえかなぁ」
その堕落しきった光景に、グレイシアは怒りでワナワナと震えた。
「貴様らぁぁっ! 魔王軍の誇りを忘れ、このような奇妙な布の中で腑抜けるとは何事だ!」
グレイシアが姿を現し、氷の杖を突きつける。
突然の四天王の登場に、魔族の兵士たちは「ひっ!?」と悲鳴を上げた。
「グ、グレイシア様!? なぜここに!」
「ザンギュラはどうした! 貴様ら、人間に洗脳でもされたのか! その奇妙な魔法の罠から今すぐ出ろ!」
「わ、罠じゃありません! これはコタツです! グレイシア様も、長旅で冷えたでしょう! どうか、騙されたと思って一度足を入れてみてください!」
「戯れ言を! 私がそのようなものに――」
グレイシアがコタツを蹴り飛ばそうと一歩踏み出した瞬間、コタツから漏れ出た「極上の温もり」が、北の極寒の地で冷え切っていた彼女の足をふわりと包み込んだ。
「……っ!?」
それは、ただの熱ではない。細胞の隅々まで染み渡るような、優しい魔法の温もりだった。
「……す、少しだけだぞ。敵の魔法道具の解析は、幹部の務めだからな……」
グレイシアは震える手でコタツ布団をめくり、そっと足を入れた。
「あ…………ぁ…………」
数分後。
村役場からのんびりと歩いてきた俺が目にしたのは、魔族の兵士たちに挟まれ、肩までコタツに潜り込んで白目を剥きながらミカンを咀嚼する、氷の四天王の姿だった。
(残り307日。明日は何が出る?)




