第56話:【56日目】迫る冬の足音と、全自動魔導温室
盛大な55日記念の祝祭から一夜明けた朝。
俺が村役場(PMO)の窓を開けると、冷たい風がヒュッと頬を撫でた。
「……急に冷え込んできたな」
異世界の荒野にも、確かな季節の移り変わりが存在する。
夏は乾燥した酷暑だったが、どうやらこの地域の冬は、骨の髄まで冷えるような厳しい寒さが訪れるらしい。
広場を見渡すと、朝のラジオ体操に集まる獣人たちやガルドが、身を縮こまらせて白い息を吐いている。
「タクト様、おはようございます。温かいハーブティーをお持ちしました」
「ありがとう、シルフィ。助かるよ」
少し厚手のカーディガン(以前マルコから買った布で作ったもの)を羽織ったシルフィからカップを受け取り、一口飲む。温かさが胃の腑に染み渡る。
「そろそろ、冬に向けたリスク管理(防寒対策)が必要なフェーズだな」
農業部門を統括するガロ族長からも、『霜が降りれば、世界樹の野菜であっても成長に影響が出るかもしれない』とエスカレーション(報告)が上がっていた。
食糧の安定供給は、プロジェクトの生命線だ。
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り310日」の紙をめくった。
光の粒子が形作るのは、透明な半球状の巨大なドームのミニチュアだった。
『SSRアイテム【全自動・魔導温室展開キット】を獲得しました』
『※任意の農地を覆い、太陽光の透過率と内部の温度・湿度を一年中「最適な春」の状態に保つ魔法のビニールハウスです。害虫の侵入も完全に遮断します』
「よし! これぞ農業インフラの究極形だ!」
俺は早速、ガロ族長とガルドを呼び出し、村の主力農地にこのキットを展開した。
ガルドが四隅に魔石の杭を打ち込み、シルフィが魔力を流し込むと、透明で強靭な魔力膜が広大な畑をすっぽりと覆い尽くした。
「おおおおっ! なんだこれは! 中に入ると、春のようにぽかぽかしているぞ!」
「ガハハ! 冷たい風が全く入ってこねえ! これなら真冬でもシャツ一枚で農作業ができるぜ!」
温室内に入った獣人たちは、その快適さに歓声を上げた。
トラクターの稼働も問題なく、スプリンクラーの水が凍る心配もない。
これで「冬の食糧不足」という最大の不安要素は完全に排除された。
「よし、農業の越冬準備は完了だ。次は……居住空間と個人の防寒だな」
俺は温室の中で青々と育つトマトを見つめながら、次なるタスクに思考を巡らせた。
(残り309日。明日は何が出る?)




