第53話:【53日目】魔導音楽室と、村のカルチャーライフ
知識のインフラ、健康のインフラが完璧に整った今、次に満たすべきは「精神的な彩り」だ。人はパンのみにて生くるものにあらず。
以前の夏祭りの花火や、魔導プロジェクターでの映画鑑賞で娯楽の味を知った村人たちから、「自分たちでも音を奏でてみたい」「表現する喜びを知りたい」という声が上がり始めていたのだ。受動的な娯楽から、能動的な創造への欲求のシフトである。
「よし、今日のドロップは芸術関係で頼むぞ」
53日目の朝。俺は「残り313日」の紙をめくる。
光と共に現れたのは、美しい装飾が施された大小様々な楽器の数々と、吸音材が仕込まれた防音壁のパネルだった。
『SSRアイテム【多機能・魔導音楽室&楽器セット】を獲得しました』
『※弾けない者でも心で念じるだけで名演奏が可能な魔法の楽器セットです。絶対防音・録音・空間配信機能付き』
「完璧だ。これで『ホワイト村・軽音楽部』を結成できるな」
広場の一角に防音室を完備した音楽スタジオを作ると、村人たちが次々と集まってきた。
楽器の経験など全くない彼らだが、魔法の楽器は彼らの「こんな音を出したい」「こんな感情を表現したい」という意思を汲み取り、プロ顔負けの音色を響かせる。指使いや息継ぎの技術的な壁を越え、純粋な「表現力」だけが抽出されるのだ。
夕方の終業後。
ガルドが即興で製作した重低音のウッドベースを弾き鳴らし、ルナが野生の勘を活かして元気いっぱいにドラムを叩き、シルフィが流れるような美しいハープの音色を響かせる。
ボーカルは、なんと元・暗殺者のシオンだった。血生臭い過去を背負う彼女の、どこか切なくも澄んだ歌声が、マイクを通じて村の夜空に心地よく響き渡る。
「おおーっ! なんだか心がウキウキして、胸が熱くなるぜ!」
「アタシ、音楽って大好きです! 叩いてるだけで嫌なことが全部吹き飛びます!」
念じるだけで完璧な演奏ができるため、失敗や不協和音を恐れずに全員が純粋に「音を楽しむ」ことができている。
観客として聴いているザンギュラたちやフレイアも、焚き火を囲みながら手拍子をして楽しそうだ。種族の壁を越え、一つの音楽で心が繋がっていく。
「みんな、これでまた一つ『人生を豊かにするタスク』が増えたな」
仕事以外の「趣味の時間」や「自己表現の場」を充実させること。それこそが、長期的なプロジェクトを精神的摩耗や燃え尽き症候群なしで完走する秘訣である。
(残り312日。明日は何が出る?)




