第44話:【44日目】中間管理職の苦悩と、CSO(最高防衛責任者)の誕生
マッサージチェアで完全に疲労を抜かれたザンギュラは、ふかふかのソファで出されたフルーツ牛乳(セシル特製)を飲みながら、深く、深いため息をついた。
「……タクト、と言ったな」
「ああ。村の待遇は気に入ってもらえたかな?」
俺が尋ねると、ザンギュラは天井を仰ぎ見て、ポツリとこぼした。
「……最高だった。この数百年間、俺は一体何のために働いていたのか、分からなくなるくらいにな」
「魔王軍ってのは、そんなにブラックなのか?」
「ああ……。魔王様は確かに偉大だが、復活に向けた計画が無茶苦茶なんだ。現場の状況も知らねえ幹部連中が『明日までに城を建てろ』だの『兵站を二倍にしろ』だの言ってくる。だが予算は下りねえし、部下たちは腹を空かせて不満を溜める一方だ」
ザンギュラは巨大な両手で顔を覆った。
「俺は四天王なんて呼ばれてるが、実態はただの『中間管理職』だ。上からの無茶振りと、下からの突き上げの板挟み。ストレスで胃に穴が開きそうだったぜ……」
その言葉に、俺の前世の記憶が強烈にフラッシュバックした。
――痛いほど分かる。
無能な上層部と、疲弊する現場の間に立たされるPMの苦悩。俺もそれで命を落としたようなものだ。
「……ザンギュラ」
俺は立ち上がり、彼の巨大な肩に手を置いた。
「あんたは、部下思いのいい上司だ。部下に腹いっぱい食わせてやりたくて、一人で責任を抱え込んでいたんだろう」
「タクト……」
「もう、魔王軍なんて辞めちまえ。俺のところで働け。あんたの苦労は俺が一番よく分かっている」
俺は今朝カレンダーから引いた分厚い本を、ザンギュラの前に置いた。
『SSRアイテム【鉄壁の魔導防衛・運用マニュアル】を獲得しました』
『※村の防衛システムを完全に掌握し、どんな部隊でも最高の効率で運用できる魔法の戦術書です』
「ザンギュラ。あんたをこのホワイト村の『最高防衛責任者(CSO)』に任命する。あんたの部下百名も、全員うちの正規社員として迎え入れよう。理不尽な上司はもういない。あんたの裁量で、最高の防衛部隊を作ってくれ」
ザンギュラはマニュアルを見つめ、そして自分の部下たちが広場で獣人たちと一緒に笑いながらジェラートを食べている姿を窓から見た。
「……給料の代わりに、三食昼寝と温泉、だったな」
「ああ。残業はさせない。部下たちと一緒に、ゆっくり休んでくれ」
四天王ザンギュラは立ち上がると、俺の前に静かに片膝をついた。
「俺は今日から、魔王軍を抜ける。タクト村長……俺たちを、よろしく頼む」
こうして、魔王軍の幹部とその部下百名が、ホワイト村に転職(寝返り)することになった。
最大の脅威が、最大の防衛力に変わった瞬間だった。
(残り321日。明日は何が出る?)




