第43話:【43日目】究極の魔導マッサージチェアと、骨抜きにされた四天王
体験入社の二日目。
朝風呂を浴び、食堂で完璧な朝食(焼き立てパンと目玉焼き)を堪能したザンギュラを、俺は村役場のラウンジに招き入れた。
「どうだ、ザンギュラ。うちの村の待遇は」
「ふ、ふん……! まあ、悪くはねえが……俺様を本気で寝返らせたいなら、まだ足りねえな!」
強がるザンギュラを前に、俺は今朝カレンダーの「残り322日」から引いたとっておきのアイテムを指し示した。
『SSRアイテム【究極の魔導マッサージチェア】を獲得しました』
『※座る者の体型を自動スキャンし、蓄積された疲労や凝りを魔法の揉み玉で完全に解きほぐす至高の椅子です』
「ザンギュラ。風呂上がりにはこれだ。座ってみてくれ」
「ふん! 俺様の筋肉は鋼鉄よりも硬いんだぞ。こんな椅子で――」
ザンギュラがドカッと椅子に座った瞬間。
魔導マッサージチェアが起動し、彼の巨体に合わせて形を変え、肩甲骨の裏、腰、ふくらはぎの絶妙なツボに、魔法の揉み玉がググゥッと入り込んだ。
「ごほぉっ!?」
ザンギュラは変な声を出して、白目を剥いた。
「き、効く……! 何百年も溜まっていた肩こりが……! うおおおお、そこだ、そこをもう少し強く……ああっ……!」
四天王の威厳など完全に崩壊し、ザンギュラはマッサージチェアの上でだらしなく口を開けて完全に骨抜きにされてしまった。
福利厚生のコンボ。これに耐えられる社畜(労働者)は存在しない。
マッサージチェアで完全に疲労を抜かれたザンギュラは、ふかふかのソファで出されたフルーツ牛乳(セシル特製)を飲みながら、深く、深いため息をついた。
「……最高だった。この数百年間、俺は一体何のために働いていたのか、分からなくなるくらいにな」
「魔王軍ってのは、そんなにブラックなのか?」
「ああ……。魔王様は確かに偉大だが、復活に向けた計画が無茶苦茶なんだ。現場の状況も知らねえ幹部連中が『明日までに城を建てろ』だの『兵站を二倍にしろ』だの言ってくる。だが予算は下りねえし、部下たちは腹を空かせて不満を溜める一方だ」
ザンギュラは巨大な両手で顔を覆った。
「俺は四天王なんて呼ばれてるが、実態はただの『中間管理職』だ。上からの無茶振りと、下からの突き上げの板挟み。ストレスで胃に穴が開きそうだったぜ……」
その言葉に、俺の前世の記憶が強烈にフラッシュバックした。
――痛いほど分かる。
無能な上層部と、疲弊する現場の間に立たされるPMの苦悩。俺もそれで命を落としたようなものだ。
「……ザンギュラ」
俺は立ち上がり、彼の巨大な肩に手を置いた。
「あんたは、部下思いのいい上司だ。部下に腹いっぱい食わせてやりたくて、一人で責任を抱え込んでいたんだろう」
「タクト……」
「もう、魔王軍なんて辞めちまえ。俺のところで働け。あんたをこのホワイト村の『最高防衛責任者(CSO)』に任命する。あんたの部下百名も、全員うちの正規社員として迎え入れよう。理不尽な上司はもういない。あんたの裁量で、最高の防衛部隊を作ってくれ」
ザンギュラは、窓の外で部下たちが獣人たちと一緒に笑いながらジェラートを食べている姿を見た。
「……給料の代わりに、三食昼寝と温泉、だったな」
「ああ。残業はさせない。部下たちと一緒に、ゆっくり休んでくれ」
四天王ザンギュラは立ち上がると、俺の前に静かに片膝をついた。
「俺は今日から、魔王軍を抜ける。タクト村長……俺たちを、よろしく頼む」
こうして、魔王軍の幹部とその部下百名が、ホワイト村に転職(寝返り)することになった。
最大の脅威が、最大の防衛力に変わった瞬間だった。
(残り321日。明日は何が出る?)




