第4話:【4日目】超効率の家づくりと、定時退社の美学
異世界生活4日目の朝。
今日のミッションは「まともな家を建てること」だ。
「よし、カレンダーをめくろう」
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り362日」のページをめくった。
光の粒子と共に現れたのは、木製の重厚な宝箱のような箱だった。
『SSRアイテム【万能建材の無限箱】を獲得しました』
『※最高品質の木材・石材・鉄材などが、必要な分だけ無限に取り出せる魔法の箱です』
「おお! こりゃすげえ!」
ガルドが箱の中を覗き込み、歓声を上げた。
「節のない香木に、傷一つない大理石……! これならいくらでも上質な家が建てられるぞ、村長!」
「完璧だな。資材調達の工数がゼロになったのはデカい。これで建築だけにリソースを全振りできる」
俺はメモ帳を開き、今日の工程表を素早く書き出した。
ガルドの能力は未知数だが、「今日中に建てる」という彼のモチベーションを活かすなら、無駄な待機時間を徹底的に削る必要がある。
「全員、業務連絡だ」
俺の声に、シルフィとガルドがピシッと姿勢を正した。
「今日の目標は、日没前までに三人が住めるログハウス風の家を完成させること。役割分担を発表する」
俺はメモ帳を指差しながら指示を飛ばす。
「ガルドはメインの建築・組み立てに専念してくれ。木を削り、組み上げる。ただそれだけに集中しろ」
「おう! 得意分野だぜ!」
「シルフィ。君の魔法は非常に強力だが、今日はサポートに回ってほしい。ガルドが指定したサイズの木材を箱から出し、風魔法で彼の足元まで運搬するんだ」
「承知いたしました、タクト様! 精密な魔力操作はお任せを!」
「そして俺は、全体の進捗管理と、作業に詰まりが生じないかどうかの監視(ボトルネックの解消)を行う。さあ、作業開始だ!」
俺の合図と共に、異世界の常識を覆す超効率の建築作業が幕を開けた。
「シルフィ嬢ちゃん! 太さ五寸の柱を十本、そっちの右側に頼む!」
「はいっ! 【風の運び手】!」
ガルドが声を上げた次の瞬間には、シルフィの風魔法によって指定された木材がふわりと宙を舞い、ガルドの手元に寸分違わず届けられる。
「しゃあっ!」
ガルドが巨大なハンマーと手斧を振るうと、まるで豆腐を切るように木材が加工され、釘一本使わずに見事な木組みが出来上がっていく。
俺の前世の現場でも、プログラマーがコードを書く際に「仕様書の確認待ち」や「サーバーの再起動待ち」で時間をロスすることが多々あった。
だが今は違う。
資材の運搬という一番のタイムロスをシルフィがゼロにし、ガルドはただ「創る」ことだけを行っている。
「……なんだこれ」
昼休憩の際、汗を拭いながらガルドが呆然と呟いた。
「どうした、ガルド。どこか痛むか?」
「いや、逆だ村長。……やりやすすぎる。前の現場じゃ、石材が届くのを半日待ったり、足場を作るだけで一日潰れたりしてた。それが……俺が『欲しい』と思った瞬間に資材が手元にある。手が、思考に追いついていくんだ」
ガルドは自分の両手を見つめ、震える声で言った。
「こんなに気持ちよくハンマーを振れたのは、生まれて初めてだぜ……!」
「タスクを整理して、職人が100%の力を発揮できる環境を整える。それがPMである俺の仕事だからな」
俺が水筒の水を渡すと、ガルドはゴクゴクと飲み干し、ニカッと笑った。
「あんた、ただの口うるさい奴かと思ったが、最高の現場監督じゃねえか! よぉし、午後もぶっ飛ばしていくぜ!」
午後も凄まじい勢いで作業は進み――太陽が西の空に傾きかけた頃。
荒野の真ん中に、立派な平屋の木造家屋が完成していた。
木の温もりが感じられる外観に、広々としたリビング、そして三つの個室。
「……できた」
俺たち三人は、完成した家を見上げて息を吐いた。
たった一日で、これほど立派な家が建つとは。SSR人材の恐ろしさを改めて実感する。
「よしっ! 次は内装だ! ベッドと机をちゃっちゃと作っちまうぜ! 徹夜すりゃ朝には完璧な——」
「ストップ」
ハンマーを振り上げようとしたガルドの腕を、俺はガシッと掴んだ。
「今日の作業はここまで。時刻は17時、定時退社の時間だ」
「なっ、なんだって!? まだやれるぜ村長! 俺の創作意欲は今まさに最高潮だぞ!?」
「ダメだ。どんなに気分が乗っていても、ルールはルールだ。それに、今日は家が建ったという大きなマイルストーンを達成した。これ以上の労働は蛇足だ」
不満げに頬を膨らませるガルド。俺はそんな彼を宥めるように肩を叩いた。
「その有り余るモチベーションは、明日の朝イチの業務にぶつけてくれ。今日は、この新しい家で美味い飯を食って、ゆっくり休むんだ」
「……ちぇっ。わかったよ」
ガルドがハンマーを下ろしたのを見て、シルフィが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「タクト様! 夕食の準備ができております。今日は畑のトマトと、カレンダーから出た塩を使った特製スープです!」
「ありがとう、シルフィ。よし、みんなで食卓を囲もうか」
まだ家具の少ないリビングだったが、床に座り込んで三人で食べる夕食は、前世の高級レストランの味すら凌駕するほど美味かった。
定時で働き、定時で終わる。
そして、美味しいご飯を食べて、温かい家で眠る。
俺の求める「最強のホワイト村」への第一歩は、確実に踏み出されていた。
(残り361日。明日は何が出る?)




