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第3話:【3日目】ワーカーホリックなドワーフと、ホワイトPMの説教

 翌朝、俺たちは圧倒的な「成果物」を目の当たりにしていた。


「……育つとは思ってたけど、まさかここまでとはな」


 昨日シルフィと一緒に耕した畑には、大人の背丈ほどもある立派な野菜がたわわに実っていた。

 真っ赤に熟した特大のトマトのような果実や、地面から顔を出す丸々とした芋類。どれもこれも、太陽の光を浴びて宝石のように輝いている。


「タクト様! 毒見は私が!」

「いや、世界樹の種に毒はないだろう。そのままいこう」


 俺は赤い果実を一つもぎ取り、湧き水で軽く洗ってからかぶりついた。

 ――美味い。

 瑞々しい果汁が口いっぱいに広がり、優しい甘さが空っぽの胃袋に染み渡っていく。前世で「10秒チャージ」と書かれたゼリー飲料を流し込んでいたあの朝食とは、文字通り次元が違った。


「ふふっ、本当に美味しいですね!」

「ああ。これで食糧のサプライチェーンは確立された。さて、腹も膨れたことだし、今日の業務連絡といこうか」


 俺は日めくりカレンダーの前に立った。

 現在の表示は「残り363日」。

 今日は何が排出されるのか。少し期待しながら、ペリッと紙をめくった。


 昨日と同じように光の粒子が収束し、今度は大柄な影がドスッと地面に着地した。

 現れたのは、筋骨隆々の体躯に、見事な赤髭を蓄えた男だった。身長は俺の胸あたりまでしかないが、横幅と腕の太さが尋常ではない。背中には巨大なハンマーを背負っている。

 ファンタジーの定番、ドワーフだ。


「ガハハハ! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 俺様は伝説の建築士にして鍛冶師、ドワーフのガルドだ! アンタが俺の新しい雇い主か!」


 声がでかい。元気なのはいいことだが。


『SSR人材【伝説のドワーフ・ガルド】を獲得しました』

『※建築・鍛冶のスペシャリスト。どんな素材からでも図面なしで最高品質の建造物を作ります』


 またしてもSSR。しかも今一番欲しかった「建築」のリソースだ。

 今の拠点(シルフィが作った土のドーム)は流石に仮設すぎる。これからの開拓を考えれば、しっかりとした住居とインフラが必要だった。


「初めまして、ガルド。俺はタクト。この村の……PMというか、村長だ」

「よろしく頼むぜ、村長! して、俺の仕事は何だ!? 城か!? 要塞か!? なんでも言ってくれ! 俺は三度の飯より仕事が好きでな! 前の職場じゃ三徹四徹は当たり前、寝る間も惜しんでハンマーを振るってたぜ!」


 ガルドは鼻息を荒くして、背中のハンマーをぶんぶんと振り回した。


「……ちょっと待て」


 俺はピクリと眉をひそめ、ガルドを真っ直ぐに見た。

 三徹四徹? 寝る間も惜しんで?


「ガルド。お前、前の職場での月間平均残業時間はどれくらいだった?」

「ざんぎょう? なんだそりゃ。俺たちゃ日が昇る前から月が沈むまで、永遠に働き続けてたぜ! 休むのはぶっ倒れた時だけだ! ガハハハ!」


 ……重度のワーカーホリック、あるいは完全なブラック企業ギルドの被害者だった。

 俺の前世の記憶が、トラウマと共にチクチクと痛む。

 このままでは、彼自身が潰れるだけでなく、村全体の労働環境が彼のペースに引っ張られて崩壊する。


「ガルド、よく聞け」

「おう! さっそく指示か!」


 俺はPMとしての、いや、このホワイト村の最高責任者としての絶対のルールを告げた。


「この村での労働時間は、原則1日8時間だ。残業は一切禁止。休日も週に最低2日は取ってもらう」

「……は?」

「そして、体調不良の時は絶対に休むこと。食事と睡眠の時間は削ってはいけない。これが、うちの村の就業規則だ」


 ガルドは目を丸くし、やがて大口を開けて反論した。


「ば、馬鹿言ってんじゃねえ! そんなヌルい働き方で、まともなモンが作れるかってんだ! 俺はもっと働きたいんだよ!」

「ダメだ」

「な、なんでだ!」

「長期的なパフォーマンスが低下するからだ。疲労はミスを生み、ミスは事故を生む。お前が倒れたら、誰がこの村の家を建てるんだ?」


 俺は一歩前に出て、ガルドの肩に手を置いた。


「俺は、お前の『伝説』の技術を1ヶ月で使い潰すつもりはない。何十年先も、お前に最高の仕事をしてもらうために、このルールを守ってほしい」

「……っ!」


 ガルドはハッとしたように息を呑んだ。

 おそらく、今までは「働け」としか言われてこなかったのだろう。


「……ふん。変な雇い主だぜ」


 しばらくして、ガルドは照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「わかったよ。アンタがそこまで言うなら、その『るーる』ってやつに従ってやる。その代わり、8時間の間は俺様の最高の技術を見せつけてやるからな!」

「ああ、期待してる。まずは、俺たち三人が快適に眠れる『家』の設計からお願いしたい」

「任せときな! 最高の一軒家をぶっ建ててやる!」


 かくして、ポンコツ気味な超有能秘書に続き、ワーカーホリックなドワーフの棟梁が俺のチーム(村)に加わった。

 タスク管理の難易度は上がりそうだが、これで一気に村のインフラ整備が進むはずだ。


「よし、今日も定時退社を目指して頑張ろう」


(残り362日。明日は何が出る?)

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