第2話:【2日目】SSRの種と、エルフ秘書のオーバースペックな土木作業
異世界での記念すべき第一夜は、シルフィが土魔法でサクッと作ってくれた簡易ドームの中で明かした。
寝袋もない雑魚寝だったが、前世でオフィスの床に段ボールを敷いて寝ていた日々に比べれば、土の匂いがするだけよっぽど健康的だ。
「おはようございます、タクト様! 本日のスケジュールはいかがいたしましょうか!」
朝日で目を覚ますと、すでに身支度を終えた様子のシルフィが、目をキラキラさせて待機していた。
エルフの朝は早いらしい。というか、元気すぎる。
「おはよう、シルフィ。まずは朝のルーティンからだな」
俺はドームの外に出ると、空中に鎮座している『日めくりカレンダー』の前に立った。
現在の表示は「残り364日」。
「今日のドロップ、何が出るか……」
少しの緊張とともに、俺はペリッと2枚目をめくった。
カレンダーの紙が光の粒子となり、今回は人の形ではなく、俺の手の中に小さな麻袋として具現化した。
「種……?」
袋の中には、金色に淡く光る種が数十粒入っていた。
『SSRアイテム【世界樹の豊穣種】を獲得しました』
『※どんな荒れ地でも1日で育ち、極上の栄養価を持つ作物が収穫可能。種を採取して無限に増やせます』
脳内に直接アナウンスが響く。親切設計だ。
「……なるほど。食糧問題はこれで一発クリアってわけか。さすがSSR」
「おお! それは伝説に聞く世界樹の派生種! 素晴らしい引きです、タクト様!」
「よし。今日の最優先タスク(クリティカルパス)は『畑作り』と『水源の確保』に決定だ」
俺はポケットからメモ帳を取り出し、今日の工程表をざっくりと書き込む。
1.土壌の開墾(担当:シルフィ&俺)
2.水源の確保と水路の整備(担当:シルフィ)
3.種の作付け(担当:俺)
4.休憩・昼食(必須)
「シルフィ、君の魔法でこの辺りの土を耕すことはできるか?」
「お任せください。この程度の荒野、私の魔法で一瞬にして沃野に変えてみせます!」
シルフィが杖を掲げると、周囲の魔力が一気に収束していくのが肌で感じられた。
ちょっと待て、魔力量がおかしくないか?
「【大地の息吹】!」
ズドォォォォン!!
地響きとともに、目の前のカサカサだった荒野が、半径100メートルにわたってボコボコと裏返り、ふかふかの黒土へと変貌した。
おまけに、俺の足元から少し離れた場所に、ドーム状の岩が隆起し、そこから清らかな水がこんこんと湧き出し始めた。
「……えっと、水源まで?」
「はい! 地下深くの清流を汲み上げ、自噴する泉を生成いたしました。これで水には困りません!」
シルフィは「どうですか!」と言わんばかりに胸を張る。
すごい。凄すぎる。重機数台と作業員数十人が数日がかりでやる土木工事を、たったの数秒で終わらせてしまった。
これがチート人材(SSRリソース)。前世の俺が見たら、あまりの作業効率に泣いて喜ぶだろう。
「完璧だ、シルフィ。素晴らしい仕事ぶりだよ」
「えへへ、タクト様に褒められると、魔力がさらに湧いてきそうです!」
「よし、それじゃあ次は――」
「はい! 次はどこを吹き飛ばしましょうか!?」
杖をぶん回して意気込むシルフィ。
だが、俺はそこでストップをかけた。
「――次は『休憩』だ」
「……はい?」
シルフィはぽかんと口を開けた。
「今の魔法で、少なからず魔力と体力を使ったはずだ。俺たちはこれから364日、長いプロジェクトを共に走り抜けるんだ。初日から飛ばしすぎてダウンされたら、プロジェクトはそこで頓挫する」
「で、ですが、私は精霊術師の端くれ。これくらいで休むなど……」
「ダメだ。これはPM(俺)の命令だ。しっかり休んで、持続可能なパフォーマンスを維持すること。それが俺のチームの絶対のルールだ」
俺は湧き出した泉の水を両手ですくい、シルフィに差し出した。
「まずは水を飲んで、少し座ろう。作付けは俺がやるから」
「タクト様……」
シルフィは少し戸惑いながらも、俺の手から水を飲み、岩陰に腰を下ろした。
その瞳には、今まで見たことのないような、不思議な熱がこもっていた。
「(……なんて、お優しい方なのでしょう。ご自身の作業より、使い魔である私の体調を優先してくださるなんて。前の主たちとは、まるで違う……!)」
シルフィが一人で感動しているとは露知らず、俺はふかふかの土に『豊穣の種』を等間隔で植えていった。
土の感触は心地よく、誰にも急かされない自分のペースでの作業は、驚くほど心が安らいだ。
「よし、これで今日の必須タスクは完了だ」
種を植え終え、泉の水をかけてやる。
すると、目を疑うような光景が広がった。
水を吸った土から、あっという間に緑の芽が顔を出し、ぐんぐんと成長し始めたのだ。
「明日の朝には収穫できそうだな。本当に規格外のカレンダーだ」
「タクト様の魔力と管理能力があってこそです。……あの、タクト様」
「ん?」
「私、貴方様にお仕えできて、本当に良かったです!」
満面の笑みを浮かべるシルフィを見て、俺も自然と笑みがこぼれた。
前世では「ありがとう」なんて言葉、職場で聞いた記憶がない。
この世界なら、俺が理想とする「誰もが幸せに働けるホワイト環境」を作れるかもしれない。
そんな確信を抱きながら、俺は異世界での2日目を終えた。
(残り363日。明日は何が出る?)




