第39話:【39日目】夏祭りの終わりと、四天王の影
熱狂の夏祭りが明けた翌朝。
俺は少し早起きをして、村の広場へ向かった。
祭りの後の静けさが漂う中、すでに清掃局長のスライム・スーがぽよぽよと跳ね回りながら、落ちているゴミ(焼きそばのパックなど)を綺麗に消化してくれていた。
「おはよう、スー。偉いな」
「ぷるるっ!」
俺はスーの頭を撫でてから、日めくりカレンダーの前に立った。
「残り327日」の紙をめくる。
今日は、祭りの翌日ということもあり、体調不良者が出ないか心配していたところだった。
『SSRアイテム【万能の魔導健康診断器】を獲得しました』
『※対象にかざすだけで、疲労度、栄養状態、潜在的な疾患を瞬時にスキャンし、最適な休養・食事メニューを提案する魔導具です』
「素晴らしい。社員の健康管理こそ、ホワイト企業の要だからな」
手の中におさまった、小さな鏡のような魔導具。
これで、目に見えない疲労やストレスも可視化できる。俺は早速、村人たち全員に「年に一度の定期健康診断」を義務付けるタスクをメモ帳に書き込んだ。
村が着実に豊かになり、管理体制も盤石になりつつある。
だが、この世界には「365日後に復活する魔王」という、避けられない特大のバグ(脅威)が存在していることを、俺は決して忘れてはいなかった。
――その頃。
ホワイト村から遥か遠く、北の果てにある暗黒の山脈。
瘴気が立ち込める魔王軍の仮拠点に、ひとつの巨大な影が立っていた。
身の丈は三メートルに迫り、全身を赤銅色の筋肉と棘の生えた鎧で覆った巨漢。魔王直属の幹部である四天王の一人、ザンギュラである。
「……昨夜、南の果ての空に、奇妙な『光の爆発』が連続して上がったという報告があったな」
ザンギュラは、手元の荒野の地図を太い指でなぞりながら、配下の魔族に低い声で尋ねた。
「はっ。偵察のガーゴイルによれば、名もなき荒野のど真ん中に、巨大な光の華が咲いていたとのこと。何者かの強力な魔法陣の起動実験か、あるいは……」
「辺境伯爵の私兵どもが、その近くで行方不明になったという情報もある。……面白ぇ」
ザンギュラはニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、巨大な戦斧を肩に担いだ。
「我らが魔王様が復活されるまで、あと一年足らず。復活の地として、強力な魔力脈がある拠点を確保する必要がある。その『光の上がった土地』……我ら魔王軍の新たな拠点として接収してやろう」
「ザンギュラ様、自ら赴かれるので!?」
「ああ。最近はデスクワーク(兵站管理)ばかりで体が鈍ってやがる。たまには現場で、俺様の斧の錆を増やしてやるのも悪くねぇ」
脳筋にして無類の戦好きとして知られるザンギュラだが、実は彼もまた、魔王軍というブラック組織の中で「拠点構築」や「部下の管理」というタスクに追われる中間管理職であった。
「野郎ども、出陣の準備をしろ! 目標は南の果て、謎の光の震源地だ!」
魔王軍の幹部が、ついにホワイト村に向けて動き出した。
しかし、ザンギュラはまだ知らない。
彼が向かおうとしている土地が、血を洗う戦場などではなく、極上の温泉とジェラート、そして「残業なし」の超ホワイト環境が待つ、魔の『労働者パラダイス』であることを。
平和な村に忍び寄る、秋の陣の気配。
タクトと四天王の、全く噛み合わない対決の時が迫っていた。
(残り326日。明日は何が出る?)




