第35話:【35日目】ホワイトな「罠」と、絶対非殺傷の制約
運命の35日目。
俺は朝一番でカレンダーの「残り330日」をめくり、『SSRアイテム【高精細・全天候型パブリックビューイングモニター】』を引き当てていた。
これを広場に設置し、シオンの監視ドローンの映像を大画面で映し出す。
昼下がり。
ポップコーンを片手にモニターを囲む村人たちの前で、いよいよ「その時」がやってきた。
『へへっ、辺境伯爵様も気前が良いぜ。あんな名もなき村を一つ潰すだけで、金貨百枚のボーナスとはな』
『噂じゃ、絶世のエルフや獣人の女がいるらしいぜ。捕まえて売り飛ばせばさらに大儲けだ』
画面の中では、五十人の武装した傭兵たちが、下品な笑い声を上げながら谷底のルートを進んできていた。
夏の暑い荒野を行軍してきたためか、彼らは皆、汗だくで疲労困憊の様子だ。
「タクト様。目標、設定した罠のエリアに完全に侵入しました」
「よし、クロエ。トラップ起動だ」
「了解〜! スイッチ・オン!」
クロエが手元の魔導端末を操作した瞬間。
傭兵たちが歩いていた谷底の地面が、広範囲にわたって一気に崩落した。
『な、なんだぁぁっ!?』
『うわああああああっ!?』
五十人の傭兵たちは、悲鳴を上げながら深さ十メートルの巨大な落とし穴へと転落していった。
だが、底にはガルドたちが敷き詰めた大量のフカフカな干し草があり、激突音は鈍いものだった。怪我人は一人もいない。
『い、いてて……。なんだこの罠は! 殺傷力ゼロじゃねえか!』
『舐めやがって! こんな壁、すぐに登って――』
立ち上がろうとした彼らの前に、穴の底で待機していた【慈愛の防衛ゴーレム】十体が立ちはだかった。
『ピー。侵入者、検知。ホカク、シマス』
ゴーレムたちは太い腕を広げると、抵抗する傭兵たちを次々と「ぎゅっ」と優しく抱きしめ始めた。
『な、なんだこいつら!? 剣が通じねえ! 離せ、離しやがれっ!』
『うおぉぉ、力が強すぎて身動きが取れねえ! ……ん? なんだ、この涼しい風は……?』
ゴーレムに拘束された彼らの足元から、クロエが設置した「心地よい冷気」と「微量の催眠魔力」が噴出する。
夏の暑い荒野を歩いて極限まで疲労していた彼らに、極上の涼しさと、柔らかい干し草、そしてゴーレムの力強くも優しい抱擁。
『あ……なんか、すげえ気持ちいい……』
『眠……い……』
ものの数分で、落とし穴の底からは、五十人の傭兵たちの安らかな寝息(大合唱)だけが響き渡るようになった。
「よし、ミッション・コンプリート(完全制圧)だ。一人も怪我をさせずに済んだな」
モニターの前で俺が満足げに頷くと、村人たちから拍手と歓声が沸き起こった。
武力ではなく、「快適さ」で敵の戦意を完全にへし折る。
ホワイト村の防衛力は、外の世界の常識を遥かに超越していた。
(残り329日。明日は何が出る?)




