第32話:【32日目】CIO(最高情報責任者)の働きと、魔導ホログラム会議
ホワイト村に潜入し、あっけなく胃袋と超絶ホワイトな待遇で陥落したダークエルフの暗殺者、シオン。
彼女を村の『最高情報責任者(CIO)』に任命して迎えた32日目の朝。
俺は村役場(PMO)で、朝のルーティンである『日めくりカレンダー』の前に立っていた。
「さあて、今日は何が出るかな」
「残り334日」の紙をめくると、光の粒子が集まり、重厚な円卓が具現化した。
テーブルの中央には、青白く光る巨大な水晶玉が埋め込まれている。
『SSRアイテム【全天候型・魔導ホログラム円卓】を獲得しました』
『※遠く離れた場所にいる人間を立体映像として投影し、リアルタイムで遅延のない会議を行うことができる魔法のデスクです。資料の空間共有機能付き』
「おお……! これは前世の俺が喉から手が出るほど欲しかった究極のリモート会議システムじゃないか!」
インカムでの音声通話も便利だが、複雑な図面や地図を見ながら複数人で話し合うには、やはり視覚情報が必須だ。
俺が感動していると、役場の扉が開いて、湯上がりで肌をツヤツヤに輝かせたシオンが入ってきた。昨日までの殺伐とした雰囲気は消え失せ、村で支給したゆったりとしたルームウェアを着ている。
「おはようございます、タクト様。朝風呂をいただいておりました。あの霊泉……素晴らしいですね。徹夜と絶食で荒れ果てていた私の肌が、一晩で十代の頃のハリを取り戻しました……っ」
「それは良かった。しっかり休めたなら、早速CIOとしての初仕事を頼みたい」
「はいっ! 情報分析ならお任せを。実は、昨日の【魔導監視ドローン】の映像記録と、私が辺境伯爵の館で盗み聞きしていた情報をすり合わせた結果、一つ懸念事項が浮かび上がりました」
シオンの目つきが、プロのそれに変わる。
俺はすぐさま、各部門のリーダーたち(シルフィ、クロエ、ガルド、ガロ、ルナ)にインカムで連絡を入れ、「ホログラム円卓での朝礼」をセットした。
円卓の水晶玉に魔力を流すと、ポンッ、ポンッと小気味よい音と共に、村のあちこちにいるリーダーたちの立体映像がテーブルの上の席に等身大で投影された。
『おおっ!? なんだこれ、村長! 俺様の手が透けてるぞ!』
『タクト様! これなら畑にいながらタクト様のお顔が見られます!』
「よし、全員揃ったな。早速だが、新任のCIOであるシオンから、共有事項がある」
俺が促すと、シオンは少し緊張した面持ちで、円卓の機能を使って空中に「周辺地域の地図」を投影した。
「皆様、初めまして。情報管理を担当するシオンです。……結論から言います。三日後、西の辺境伯爵が雇った私兵(ゴロツキの傭兵団)約五十名が、この村を襲撃します」
『なんだと!?』
ガルドのホログラムが身を乗り出した。
「目的は、この村の豊富な物資の略奪と、村人の奴隷化です。辺境伯爵は、商人マルコが王都で売り捌いた『特産品』の出所を突き止め、武力で制圧しようと目論んでいます」
『ふん、舐められたものだな。タクト様、私が風魔法で全員まとめて宇宙の彼方へ吹き飛ばしてきましょうか?』
「待てシルフィ、穏便にいこう」
物騒な秘書を制止し、俺は顎に手を当てた。
「結界があるから村の中には入ってこられないが……結界の外でうろうろされて、商人たちの出入りを邪魔されるのは営業妨害だ。撃退する必要があるな」
「はい。ですが、相手は戦い慣れた傭兵です。まともにぶつかれば、こちらも無傷では……」
「シオン。この村のコンセプトは『誰も血を流さないホワイト環境』だ。迎撃はするが、怪我人は出さない。相手にも、うちの社員にもな」
俺はメモ帳を開き、迎撃のためのタスク(罠の構築)をリストアップし始めた。
完璧な情報があれば、戦いは始まる前に終わらせることができるのだ。
(残り333日。明日は何が出る?)




