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第31話:【31日目】監視ドローンと、ブラック企業の回し者(暗殺者)

冒険者たちが帰還し、王都に「お土産」が持ち込まれたことで、ホワイト村の噂は周辺の領主や貴族たちの耳にも届き始めていた。


「どうやら、うちの村の存在を面白く思わない連中もいるようだな」


31日目の朝。

俺は村役場(PMO)のデスクで、今朝引いたばかりのSSRアイテムが映し出す空中のモニター(ディスプレイ)を眺めていた。


『SSRアイテム【全天候型・魔導監視ドローン(×5機)&モニター】を獲得しました』

『※空飛ぶ不可視の魔法の眼。広範囲の映像と音声をリアルタイムでモニターに送信し、不審な魔力反応を検知・警告します』


モニターには、上空から見下ろした荒野の映像が映し出されている。

そして今、その画面の端で赤く点滅している「警告アラート」があった。


『ピーッ。ピーッ。村の南東2キロ地点、高レベルの隠密スキルを持つ侵入者を検知しました』


「ふむ。ルナ、ちょっと来てくれ」

「はい、村長! どうしましたか?」

「モニターのこの座標に、誰か隠れているらしい。結界があるから中には入れないが、様子を見てきてくれないか。ガルドも護衛でついていってくれ」

「了解です! 不審者ですね、とっ捕まえてきます!」


数十分後。

ルナとガルドに両腕を拘束され、村役場に連行されてきたのは、黒いピッチリとした装束に身を包んだ、紫色の髪の少女だった。

ダークエルフの暗殺者アサシンといった出立ちだ。


「放せ! この野蛮な獣人とドワーフめ! 私は誇り高き『影の刃』のシオンだぞ!」

「村長、こいつ、結界の外側でウロウロしながら、村の様子を羊皮紙に書き留めてやがったぜ」


ガルドが没収した羊皮紙を机に置く。そこには村の設備や、トラクターの動線などが細かくスケッチされていた。

完全にスパイ(産業スパイ)である。


「シオン、と言ったな。あんた、どこかの領主の回し者か?」


俺が尋ねると、シオンは鋭い目で俺を睨みつけた。


「ふん! 拷問にかけても無駄だ! 私は西の辺境伯爵様に拾われた恩義がある! あの御方のために、貴様らのような不気味な村の弱点を探り、必ず滅ぼして――きゅるるるるぅ」


シオンの勇ましい啖呵は、彼女自身の盛大な腹の音によって見事に遮られた。


「…………っ!」

シオンの顔が、耳まで真っ赤に染まる。


「お前、三日くらい何も食べてないな?」

「う、うるさい! 隠密任務において、数日の絶食など常識だ! 辺境伯爵様は『任務が終わるまで食料の支給はない』と仰ったのだ! 私は誇りを持って飢えている!」


……またか。

また、ブラック経営者の洗脳(やりがい搾取)を受けた被害者か。


俺は深くため息をつき、インカムのボタンを押した。


「セシル。至急、胃に優しくてとびきり美味しい『まかない』を一人前、村役場に持ってきてくれ。熱々のやつだ」

『はいっ! ただちにお持ちします!』


数分後。セシルが運んできた「世界樹のトマトと卵のふわふわ雑炊」の匂いが部屋に充満すると、シオンの強がりは一瞬で崩壊した。


「な、なんだその匂いは……!? 毒か!? 毒を入れて私を暗殺する気だな!」

「いいから食え。話はそれからだ」


俺が拘束を解いてやると、シオンは数秒葛藤した後、本能に負けてスプーンをひったくり、雑炊を口に放り込んだ。


「あむっ……!? んぐっ、はふっ……!? あ、あ、甘い……温かい……! 卵が、ふんわりしてて……っ!」


シオンはボロボロと大粒の涙をこぼしながら、あっという間に丼を空にした。


「……美味しかったか?」

「う、うむ……。だが、これで私が情報を吐くと思ったら大間違い――」


俺はメモ帳を取り出し、彼女の鼻先に突きつけた。


「シオン。お前、辺境伯爵の下で月給はいくら貰ってた?」

「げ、げっきゅう? そんなものはない! 寝床(藁のベッド)と、週に一度の固パンが報酬だ! それが『影』の生き様だ!」

「うちの村で働かないか。役職は『最高情報責任者(CIO)』だ」


「……は?」


「労働時間は1日8時間。残業なし、週休二日。さっきのレベルの食事が三食つきで、毎日天然温泉に入れるし、冷たいジェラートも食べ放題だ。もちろん、ふかふかのベッドもある」

「…………」


シオンの瞳孔が開いた。


「な、なんだその狂った条件は……!? そんな天国みたいな場所、存在するわけが……!」

「ここがそうなんだよ。俺は社員(村人)に無理はさせない。お前の隠密スキルと情報収集能力は、うちの村のセキュリティ管理に喉から手が出るほど欲しい。どうだ?」


シオンは俺の顔と、空になった丼を交互に見つめ――そして、床に手をついて深々と土下座した。


「……一生、タクト様に尽くします。辺境伯爵の城の隠し金庫の暗証番号から愛人の数まで、すべて吐きます。どうか、私を雇ってください……っ!」


また一人、ブラック企業から優秀な人材を引き抜いてしまった。

こうして、村の防衛力インテリジェンスは、敵対勢力からのヘッドハンティングによって完璧なものとなったのだった。


(残り334日。明日は何が出る?)

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