第29話:【29日目】最初の観光客(冒険者)と、魔導コンシェルジュデスク
迎賓館とリゾートプールが完成し、村が完全に「観光地」の様相を呈してきた29日目。
マルコが西の街で噂を広めてくれたおかげで、ついに「彼ら」がやってきた。
『村長! 結界の外に、武装した人間たちが五人ほど来てます! なんだかボロボロです!』
ルナからのインカム通信を受け、俺は村の入り口へと向かった。
透明な結界の外にいたのは、剣や杖を持った、いかにも「冒険者パーティ」といった風体の若者たちだった。道中の魔物との戦闘で消耗したのか、肩で息をしており、防具も汚れている。
「た、助けてくれ……! 商人のマルコから聞いて来たんだ……! この先に、オアシスのような村があるって……!」
「だが、何もないぞ……? やっぱりあの商人のホラ話だったんだ……」
彼らには結界の内側の「真の姿」が見えていないらしい(結界には迷彩機能もついている)。
俺は結界の入り口を少しだけ開き、彼らに声をかけた。
「よく来たな、冒険者たち。マルコの紹介なら歓迎するよ」
「えっ!? な、なんだ!? 空中の壁に穴が開いて、人が……!?」
彼らが恐る恐る結界の中へ足を踏み入れた瞬間――その目の前に、巨大な氷室、トラクターが走る農地、三階建ての豪華な迎賓館、そして水しぶきを上げるリゾートプールが現れた。
「「「…………は?」」」
五人の冒険者たちは、完全にフリーズした。
無理もない。死に物狂いで荒野を越えてきたら、そこは最先端のリゾート地だったのだから。
「えっと……俺たち、死んで天国に来ちまったのか……?」
「ほっぺつねって……痛い、生きてる」
混乱する彼らをスムーズに案内するため、俺は今朝カレンダーから引いたばかりのアイテムを取り出した。
「まあ落ち着け。まずはチェックイン(受付)からだ」
俺が指差した先には、木製のスマートな受付カウンターが設置されている。
『SSRアイテム【魔導コンシェルジュ・デスク】を獲得しました』
『※受付に特化した魔導具。言語の自動翻訳、身分証の真贋判定、宿泊手続きの自動化を完璧にこなします』
「ギルドカードを出して、そこにタッチしてくれ」
「は、はい……」
リーダーらしき剣士がカードをカウンターの水晶玉に触れさせると、「ピロッ」という軽快な音が鳴り、空中に『ランクC・身元保証あり』の文字が浮かび上がった。
「よし、身元確認完了。ようこそ、ホワイト村へ。一泊二食、大浴場とプール付きで銀貨一枚だ。支払いはマルコ経由のギルド送金でもいいぞ」
「ぎ、銀貨一枚!? こんな天国みたいな場所で、そんな安くていいのか!?」
王都の高級宿なら金貨数枚は飛ぶ設備だが、うちはインフラの維持費が実質ゼロなので、これでも十分な黒字だ。
「さあ、シルフィ。彼らを迎賓館へ案内してやってくれ」
「はいっ! お客様、まずは大浴場で汗を流して、それから冷たいジェラートをどうぞ!」
一時間後。
迎賓館のテラスで、風呂上がりにふかふかのバスローブを着て、冷たいトマトジェラートを口に運ぶ冒険者たちの姿があった。
「……美味すぎる」
「俺、もう王都には帰りたくない……一生ここにいたい……」
「戦うのが……バカバカしくなってきたな……」
危険と隣り合わせで戦ってきた彼らの「戦意」と「帰巣本能」は、ホワイト村の圧倒的な快適さによって完全に破壊されていた。
これが、観光業の恐ろしい力である。
(残り336日。明日は何が出る?)




