第23話:【23日目】SSR「錬金術師」の少女と、潤沢な研究費
インカムの導入により、村の運営はさらに洗練された。
しかし、スプリンクラーやトラクターといった魔導具が増えてくると、シルフィ一人での魔力充填やメンテナンスには限界が見え始めていた。
「そろそろ、技術専門のエンジニアが欲しいところだ」
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り343日」の紙をめくった。
光が弾け、ドンッという軽い爆発音と共に、もくもくと黒煙が立ち込めた。
「げほっ、ごほっ……! あ、あちゃー、また配合を間違えちゃったよぅ」
煙の中から現れたのは、煤だらけの白衣を着た、丸眼鏡の少女だった。
ボサボサの緑色の髪に、大きなリュックサックを背負っている。
『SSR人材【天才魔導技師(錬金術師)クロエ】を獲得しました』
『※魔導具の開発・保守における異端の天才。寝食を忘れて研究に没頭するマッドサイエンティスト気質です』
「……またワーカーホリックの気配がするな」
俺がため息をついていると、クロエと名乗った少女はキョロキョロと周囲を見渡した。
「あれ? ここは王立研究所の地下室じゃない……? それに、なんだいあの見たこともない美しい構造のパイプ(スプリンクラー)は! ひええ、こっちの鉄の馬(トラクター)の魔力回路、どうなってるのさ!」
クロエは俺の存在を完全に無視し、スプリンクラーやトラクターに這いつくばって舐め回すように観察し始めた。
「こ、これは凄い! ボクがずっと提唱していた『魔力の自動循環システム』が完全に実用化されてる! ねえ、これ誰が作ったの!? 分解していい!?」
「分解は困る。俺は村長のタクトだ。君はクロエだな?」
俺が声をかけると、クロエはハッとして立ち上がり、少し警戒するような目つきになった。
「……またボクを『無駄飯食いの変人』って笑うのかい? 王立研究所のジジイたちみたいに、ボクの研究に予算は出せないって言うんだろ?」
どうやら彼女も、前職で不遇な扱いを受けていたらしい。
適正を評価されず、予算を打ち切られた悲しきエンジニア。PMとして、彼女のような技術者のモチベーションを上げる方法は一つしか知らない。
「クロエ。この村には、君が興味を持つ魔導具が山ほどある。そして、君の新しい研究を止める上司は誰もいない」
俺はメモ帳を取り出し、彼女に条件を提示した。
「君をこの村の『最高技術責任者(CTO)』に任命する。研究・開発の予算は無制限。素材は無限箱から使い放題。好きなだけ実験して、好きなものを作ってくれ」
「……え? よ、予算無制限!? 本当に何を作っても怒られないのかい!?」
「ああ、村の役に立つものなら大歓迎だ。ただし――」
俺はクロエの目を真っ直ぐに見据えた。
「徹夜の研究は禁止だ。1日8時間労働。食事と睡眠は必ず取ること。これが守れないなら、研究室は没収する」
「う……徹夜禁止は厳しいけど……でも、あの無限の素材と魔導具に触れるなら……!」
クロエはぐるぐると目を回して悩んだ末、俺の手をガシッと握った。
「わ、わかった! その条件で契約するよ、村長! ボクの天才的な発明で、この村を世界一の魔導都市にしてあげる!」
「期待してるよ、CTO」
こうして、ポンコツ秘書、ワーカーホリック大工、引退聖女、腹ペコ獣人に続き、研究オタクの錬金術師が仲間に加わった。
彼女の技術力が、村のインフラをさらに一段階引き上げてくれるはずだ。
(残り342日。明日は何が出る?)




