第20話:【20日目】迷い込んだ行商人と、驚愕の特産品取引
娯楽施設も整い、村がますます活気づく19日目の朝。
俺は日課となっているカレンダーめくりを行った。
「残り346日」の紙が光となり、現れたのは、小さなガラス瓶がたくさん入った木箱だった。
『SSRアイテム【至高の魔導スパイス&調味料セット】を獲得しました』
『※振りかけるだけでどんな食材の旨味も限界まで引き出す、決して底を突かない魔法の調味料群です』
「よし、セシルが泣いて喜ぶやつだな。これで食堂のメニューがさらに充実する」
俺が調味料の箱を抱えて食堂へ向かおうとした時だった。
「村長! 結界の外に、人間の男が一人倒れてます!」
ルナの報告を受け、俺は広場へと向かった。
結界(透明なドーム)の外側、つまり村のすぐ目の前の荒野に、大きな荷物を背負った小太りの男がへたり込んでいた。
魔物に追われたのか、服はボロボロで息も絶え絶えだ。
「……助け、て……。水、を……」
「明確な敵意を持たない者」は結界を通過できる仕様だが、この男は極度の疲労と混乱で、透明な壁の前で立ち往生しているらしかった。
「シルフィ、結界を一部解除して彼を中へ」
「承知いたしました」
村の中に運び込まれた男は、セシルが用意したスープと水を飲むと、ようやく人心地ついたようだった。
「ぷはぁっ……! あ、ありがとうございます! 死ぬかと思いました……!」
「俺は村長のタクトだ。あんたは?」
「私は行商人(商人ギルド)のマルコと申します。隣国から西の街へ向かう途中、盗賊に襲われまして……命からがら逃げてきたら、こんな荒野のど真ん中に、見たこともない立派な村があって……」
マルコは目を丸くして周囲を見渡した。
「い、一体ここはなんなのですか!? こんな巨大な氷室や、見たこともない家屋……それに、エルフにドワーフ、獣人たちまでが一緒に、しかも笑顔で働いているなんて……!?」
外の世界の常識からすれば、亜人たちが人間(俺)の下で笑顔で働いている光景は異常なのだろう。
「うちは種族不問の完全実力主義、ホワイト環境を売りにしたスタートアップ(開拓村)だからな」
「ほわいと……すたーとあっぷ……?」
理解不能という顔をするマルコに、俺はビジネススマイルを向けた。
「マルコさん。あんた、商人なら『取引』ができるか?」
「と、取引ですか? ええ、荷物はほとんど盗賊に奪われましたが、香辛料や塩、それに日用品の布などは少し残っていますが……」
「十分だ。うちの村には、絶対的な『特産品』がある」
俺はルナに合図し、氷室から持ってきた「世界樹のトマト」と、ガルドが暇つぶしに作った「精巧な木彫りの装飾品(無限箱の高級木材使用)」をマルコの前に並べた。
そして、今朝カレンダーから出たばかりの【魔導スパイス】を、トマトに軽く振りかける。
「こ、これは……っ!?」
マルコは商人の目つきに変わり、スパイスのかかったトマトを一口かじり、木彫りを見つめて震え上がった。
「信じられない……! この果実、王族が食べる国宝級の味ですよ!? それにこの装飾品、国宝級の職人が数年がかりで作るレベルの代物だ……! これが、この村の特産品!?」
「ああ。これを適正価格で買い取って、代わりに塩や布、鉄などの日用品を売ってほしい」
「買います! 全財産をはたいてでも買わせてください!」
こうして、村に初めて「外部との経済ルート(サプライチェーン)」が開拓された。
マルコは大量のトマトと木彫りをリュックに詰め込み、「この村の噂、商人ギルドに大々的に広めてきます! 必ずまた来ますから!」と興奮気味に村を出て行った。
村の生産力は、すでに消費(内需)を上回っている。
これからは「輸出」によって資金を獲得し、村をさらに発展させることができるだろう。
(残り345日。明日は何が出る?)




