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第184話:【184日目】温泉帰りの朝と、カレンダーVer.3.0始動

 二泊三日の温泉慰労合宿が明け、爽やかな朝の光がホワイト株式会社の本社ビルを包み込んでいた。社員食堂からは香ばしい焼き魚と味噌汁の匂いが漂い、廊下を行き交う社員たちの表情は、合宿前とは比べものにならないほど晴れやかで活力に満ち溢れている。完全にリフレッシュを完了した組織の熱量(モチベーション)は最高潮に達していた。


「ふう……素晴らしい朝だな」


 社長室のデスクに向かった俺──代表取締役PMのタクトは、淹れたてのコーヒーを一口含み、感無量といった心境で溜息を吐いた。そこへ、トレイに乗せた書類を持った秘書のシルフィが、どこか甘く照れくさそうな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「タクト様、おはようございます! 温泉合宿の全行程、無事に清算と振り返り(レトロスペクティブ)が完了いたしました」


「ありがとう、シルフィ。合宿中、一番裏方で頑張ってくれた君のおかげだ」


「ふふ……! い、いえ! 私なんて……。あ、あの……タクト様」


 シルフィは小さな胸に書類を抱え、頬を綺麗な朱色に染めながら、上目遣いで俺を見つめてきた。


「昨日の……『今度、二人だけで有給を取って出かけよう』というお約束……私、本当に楽しみにしておりますからね……っ!」


「ああ、勿論だ。君のメンタルヘルス管理と疲労回復(リカバリー)は社長秘書室の最優先タスクだからな。業務メール一切禁止の完全オフサイト・プログラムを組むから覚悟しておいてくれ」


「はい……っ! 仕事抜きで……タクト様と二人きり……っ♪」


 シルフィはうっとりと瞳を潤ませ、嬉しそうに何度も頷いていた。よし、秘書のウェルビーイング向上に対する動機付け(インセンティブ)もバッチリだな。


 俺が満足げに頷き、卓上のクリスタルカレンダーへと手を伸ばした、その時だった。


 ──ピキィィィィィンッ!!!!


 突然、カレンダーの透明なクリスタル画面が激しい七色の光を放ち始めた!


「っ……!? な、なにが起きたのですか!?」


「何事だ!?」


 あまりの光量に、シルフィと俺が思わず目を細める。カレンダーのホログラム画面に、これまで見たこともない巨大なシステムUIが浮かび上がった。


『──通知:カウントダウン折り返し(残り181日突破)を検知』 『──組織スケール拡大に伴い、基幹システム・メジャーアップデートを実行します』 『──カレンダーVer.3.0(エンタープライズ)への移行を完了しました』


「Ver.3.0……!? メジャーアップデートだと!?」


 驚く俺の目の前で、カレンダーのUIが劇的な進化を遂げた。透明なクリスタル画面の横に、世界地図を模した広域空間モニターが展開され、カレンダーの台座からは手のひらサイズの薄型ガラスカードがパラパラと三枚排出されたのだ。


「よし……まずは本日の日めくりスワイプだ!」


 俺は高鳴る胸を抑え、新しくなった金色と七色のグラデーションUIを指先で軽やかにスワイプした!


 ──『残り181日 → 180日』!


 パァァァァァンッ!!


 空間を眩い虹色の粒子が満たし、カレンダーの底からずっしりと重厚な水晶の羅針盤がドロップした!


 SSR【広域遠隔配置陣(リモート・ターゲット)】


『※カレンダーVer.3.0の基幹機能です。本社から遠隔地の座標を指定し、ドロップした施設やアセットをピンポイントで現地へ即時転送します。出張PM用子機端末を発行し、現地の労働環境診断や課題解決特化カテゴリーのドロップ確率上昇が可能です』


「遠隔配置(リモート・デプロイ)に、出張PM用のサブ端末だと……!?」


 俺がその圧倒的なシステム性能に目を見張っていると、ドアが賑やかに開かれ、幹部たちが続々と社長室へ雪崩れ込んできた。


「失礼しますわ、タクト! なんですの今の凄い光は!?」


「タクト、緊急のシステム反応を検知したぞ! 何が起きたんだ!?」


 駆け込んできたのは、特別イベント企画部のベルとリオン、そしてレイカ姉さん、グレイシア、シオン、ネクロディアたちだった。


「みんな、ちょうどいいところに来てくれた。カレンダーがVer.3.0へアップデートされたんだ。これまでの『ホワイト村の現場にドロップする』機能に加え、離れた異種族国家や遠隔地の現場へ、ピンポイントで支援アセットを転送できるようになった」


「なんですって……!? 遠隔地への即時デプロイメント機能だなんて……! これがあれば、物流コストとタイムラグをゼロにして世界規模の事業展開が可能になるわね!」


 レイカ姉さんが目を見開き、元外資系MDとしての知略の光を瞳に宿らせる。グレイシアも電卓を弾きながら興奮気味に頷いた。


「ええ! 海外支社や現地プロジェクトへの初期投資リスクが激減しますわ! 完璧な資本効率(アセット・ライト)経営ですわね!」


 その時──シオンの空間モニターが、けたたましいアラート音と共に赤く点滅し始めた。


『警告:全知監視網より緊急広域SOSを受信。発信源、世界各地の異種族国家領域』


「シオン、どうした!?」


「……タクト様。温泉慰労合宿の噂と、我が社の『ホワイト経営』の噂が、超空間物流ネットワークを通じて世界全土へと拡散された模様です。その結果……」


 シオンがホログラム画面を空中へ拡大表示する。そこには、世界各地の異種族国家から届いた、切実で痛切な悲鳴のメッセージが溢れかえっていた。


『助けてくれ! ドワーフの鉱山帝国では、過酷な不眠不休の手掘り作業で毎日大勢の職人が倒れている!』 『龍族の武闘派国家では、精神論としごきによるパワハラが横行し、若者が使い潰されている!』 『海洋商業都市では、無制限のサービス残業と闇市による借金漬けで、街全体がブラック企業化している!』


 画面を流れる過酷な労働実態に、幹部たちの顔が引き締まる。黒崎が「くそッ……! かつての俺と同じような、使い捨ての泥沼経営じゃねぇか……!」と拳を握り締め、ネクロディアも「命を削る開発など言語道断ですぞ!」と骨の眉をひそめた。


「タクト。これは我がホワイト株式会社にとって、世界市場における国際標準(デファクト)を確立する最大のチャンスよ」


 レイカ姉さんが腕を組み、不敵で頼もしい笑みを浮かべた。


「世界中に我が社の『ホワイト労働規格』を導入させ、不当な搾取を行うブラック資本を駆逐する。あなた、どう動くの?」


「決まっているさ、姉さん」


 俺はデスクから立ち上がり、幹部たちを見渡した。


「本日をもって、新たな世界戦略プロジェクトを開始する! 名付けて──『世界ホワイト労働規格(ISO―WHITE)普及プロジェクト』だ!」


「「「おおおおおッ!!!」」」


「出張PMチームを結成し、ドワーフ鉱山、龍族国家、海洋商業都市の三拠点へ同時に幹部を派遣する! 本部からは俺がこのカレンダーVer.3.0の遠隔デプロイ機能で全力バックアップする!」


 タクトの力強い宣言に、社員たちの歓声が社長室を揺らした。


「180日目の折り返しを過ぎ、俺たちの戦いは村の開拓から『世界全土の労働環境改革』へと進化した! 365日目に魔王すらも就職させるため、世界中のブラック労働を徹底的にホワイト化するぞッ!」


 こうして、前半戦を完走したホワイト株式会社の、より壮大で熱い後半戦の幕が切って落とされたのだった!


(残り180日。明日は何が出る?)

【184日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:カレンダーVer.3.0への進化を完了させ、世界規模の労働改革『ISO-WHITEプロジェクト』を発足。本部の司令塔(リモートPM)として、遠隔デプロイ機能で現地チームを強力支援する。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:温泉合宿の清算を完了させ、タクトと交わした「二人きりの有給デート」の約束に胸を躍らせながら、世界規模のプロジェクトの秘書業務を完璧に支えている。


■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(CIO)) 状況:元外資系金融MDの知略を発揮し、世界ホワイト規格(ISO-WHITE)による市場制覇とルール形成戦略を提案。タクトの頼もしい参謀として睨みを効かせる。


■ ベルゼリカ(ホワイト株式会社 特別イベント企画部(特別インターン)) 状況:出張PMチームの結成に「わたくしも出張現場で手腕を揮って見せますわ!」とやる気満々で意気込んでいる。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:ドワーフ鉱山帝国の劣悪な労働環境を知り、元ブラック経営者としての反省から「現場の命を守る」ために出張チームへの参加を志願した。


■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」と叫びながら、カレンダーVer.3.0のシステム構造に大興奮。遠隔デプロイと子機端末の連携アーキテクチャを即座に解析した。


■ グレイシア(ホワイト株式会社 最高財務責任者(CFO)) 状況:遠隔デプロイ機能による投資効率(ROI)の爆発的向上を試算し、世界展開の財務戦略を完璧に組み立てている。


■ シオン(ホワイト株式会社 最高情報責任者(CIO)) 状況:全知監視網で世界各地からの緊急SOSを受信。広域情報ネットワークのオペレーターとして多国籍DXを支える。

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