第183話:【183日目】大宴会の後始末と、二人きりの『約束』
狂乱の二日間が過ぎ、温泉リゾートは清々しい三日目の朝を迎えていた。青空の下、鳥たちのさえずりと滝のせせらぎが中庭に響いている。二泊三日の極上合宿も今日が最終日。俺は露天風呂から上がると、183日目の日めくりカレンダーへと手を伸ばした。
「さあ、合宿の締めくくりだ。最後もみんなが喜ぶアイテムを頼むぞ!」
クリスタルUIを爽やかにスワイプする!
──『残り182日 → 181日』!
パァァァァァンッ!!
空間が眩い銀色の粒子で満たされ、カレンダーから繊細なガラス彫刻のような『立体ホログラムの記憶球』がドロップした!
SSR【旅情記憶像】
『※滞在中の空間情報、社員たちの笑顔、共有された感情波動を完全記録し、高精細3Dホログラムとして永久保存する装置です。社内掲示板や福利厚生アーカイブとしていつでも回想可能です』
「よし……! 楽しかった二泊三日の思い出を、完璧な形で会社のアセットにできるドロップだな!」
俺が感心して頷いていると、パタパタと忙しない足音が回廊に響いた。
「タクト! おはよ……あ、ううん、おはようございます! 昨夜の宴会場の清掃チェックと、泥酔された幹部様がたへの酔い止めポーションの配布、すべて完了いたしましたわ!」
現れたのは、朝から元気に駆け回っている特別イベント企画部のベルだった。その後ろからは、あくびを噛み殺しながら兄のリオンが歩いてくる。
「ふわぁ……。妹の奴、朝から『企画部の初仕事として後始末を完璧にするのですわ!』って張り切りすぎなんだよ……。僕なんて卓球の筋肉痛で腕が上がらないのに……」
「何を言っておられますの愚兄! イベントは撤収と後始末が完了して初めて成功と言えるのですわ! タクト、わたくしの手際の良さ、評価してくださってもよろしいのよ?」
「ああ、完璧な手際だ。ベルもリオンも、本当に頼もしくなったな」
俺が二人の頭を撫でると、ベルは「ふふんっ!」と嬉しそうに胸を張り、リオンも照れくさそうに不器用な笑みを浮かべた。
◆
正午過ぎ、温泉リゾートからの撤収作業が完了し、社員たちが続々と帰路の超空間馬車へ乗り込んでいく。そんな中、俺はロビーのベンチで一人、小さな手帳を開いて運行スケジュールを最終チェックしている人物の姿を見つけた。秘書のシルフィだ。
「……シルフィ、温かいハーブティーだ。少し休むといい」
「あ……! タクト様! すみません、帰りの運行スケジュールの最終確認をしておりまして……」
慌てて立ち上がろうとするシルフィの肩を優しく抑え、俺は彼女の隣に腰を下ろした。彼女の目元には、微かに疲労の影が差している。
「シルフィ。この二泊三日、宴会のセッティングに泥酔者の介抱、卓球大会の仕切りに撤収の手配まで……君はずっと働き詰めだったろう」
「え……? 何がですか、タクト様?」
「何が、じゃない。全社員の福利厚生イベントにおいて、一番の功労者である社長秘書の君が、一番まともに休めていないじゃないか」
俺はハーブティーのカップを手渡しながら、申し訳なさと同時に、PMとしての強い危機感を口にした。
「これはマネジメント上の重大な不備だ。他者のウェルビーイングを支える人間自身がキャパシティを削られる構造は、絶対に持続しない」
「そんな……! 謝らないでください、タクト様!」
シルフィはパッと顔を上げ、心からの温かい笑顔を俺に向けた。
「私、ちっとも大変なんて思っていません。タクト様が作られたこの会社で、皆様が心から笑い合って、幸せそうにお湯に浸かっている姿を見られることが……私にとって、何よりの癒やしで、一番の報酬なんですから!」
己を後回しにして会社と社員を慈しむ、あまりにも健気で温かい献身。だが──俺は、その健気さに感銘を受けつつも、完全にPM&福利厚生責任者としての『業務改善思考』で返答を組み立てていた。
「ダメだ。君がどれだけ謙遜しようと、労働と休息のバランスが著しく欠如している事実に変わりはない」
「タ、タクト様……?」
「だから、これは社長命令だ」
俺はシルフィの手帳をそっと閉じさせると、彼女の小さな両手を真剣な眼差しで優しく包み込んだ。
「約束してくれ、シルフィ。今度、二人だけで有給を取って出かけよう」
「……えッ!?」
シルフィの息が止まり、頬が一瞬で綺麗な朱色に染まった。
「ふ、ふたりだけで……有給……ですか……!?」
「ああ。会社を離れたオフサイト空間で、君の疲労を完全に回復させる『完全プライベート・リカバリー』を実施する。……当然、業務メールや仕事の連絡は一切禁止の、二人だけの外出だ」
タクトとしては、頑張りすぎる秘書の疲労を完璧に取り除くための『仕事抜きのリフレッシュ指導』として、至極真面目に提案した言葉だった。しかし、それがシルフィの耳には──『タクト様からの、二人きりの特別なプライベートデートの誘い』として、甘く甘く響いていた!
「二人だけで……仕事抜きで……っ」
シルフィの胸が激しく高鳴り、大きな瞳からポロポロと感涙の雫がこぼれ落ちた。彼女は紅潮した顔を両手で覆いながら、飛び切りの笑顔で俺を見つめ返した。
「……はいっ……! はいっ、タクト様……!! 『今度』……二人だけでお出かけするお約束、絶対に忘れませんからね……っ!」
「よし、約束だな。これで君のメンタルヘルス管理も完璧だ」
無自覚に秘書を胸キュンで卒倒させつつ、タクトは「完璧な福利厚生マネジメントができた」と満足げに頷くのだった。
大歓声と笑顔に包まれた二泊三日の温泉慰労合宿は、未来への甘い約束と共に、大満足のフィナーレを迎えるのだった!
(残り181日。明日は何が出る?)
【183日目時点の主要キャラクター紹介】
■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:2泊3日の温泉合宿を無事に完遂。一番苦労をかけた秘書のシルフィへ、PMのメンタルヘルス管理として「今度二人だけで有給を取って出かけよう」と無自覚に最高のお誘いを交わした。
■ シルフィ(社長秘書) 状況:3日間の合宿の全手配と裏方を完遂。タクトから「二人きりの完全プライベート有給」を無自覚に申し込まれ、甘すぎるデートの約束に歓喜の涙を流して幸せに包まれている。
■ ベルゼリカ(ホワイト株式会社 特別イベント企画部(特別インターン)) 状況:最終日の撤収作業と後始末を完璧に指揮。「イベントは撤収までが仕事」とドヤ顔でタクトに褒められ、すっかり仕事の楽しさに目覚めている。
■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:妹の撤収作業を手伝い、卓球の筋肉痛と闘いながらも、兄としての成長と頼もしさを見せた。
■ グレイシア(ホワイト株式会社 最高財務責任者(CFO)) 状況:初日のキュンアプローチの気恥ずかしさを残しつつも、今回の福利厚生投資の完璧な費用対効果を試算して満足げに頷いている。
■ シオン(ホワイト株式会社 最高情報責任者(CIO)) 状況:足湯での感情ログ計測不能トラブルから復旧。思い出を記録する『旅情記憶像』のデータアーカイブ化を完了させた。
■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:生まれ変わって初めて体験した「人間の温もりある社員旅行」に涙し、明日からの清掃業務への英気を養った。
■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」と叫びながら旅の思い出を熱く語り合い、新たな魔導開発へのモチベーションを最高潮に高めた。
■ スー(清掃局長) 状況:言葉は話さず「ぷるる〜〜ん♪」と愛らしく鳴きながら、最後まで社員たちのアイドルとして温泉旅を満喫した。




