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第182話:【182日目】感情分析の足湯と、水浸しのピンポン大会

 極上温泉リゾートで迎えた、慰労合宿の二日目の朝。昨夜の狂乱の一気飲み大乱入劇の余波もどこへやら、澄み渡る秋空からは清々しい朝日が注ぎ込んでいた。俺は中庭の爽やかな風を浴びながら、卓上のクリスタルカレンダーへと手を伸ばした。


「よし、今日も社員たちのリフレッシュとエンゲージメントを高める完璧なアイテムを頼むぞ」


 人差し指で金色に輝くUIを軽やかにスワイプする!


 ──『残り183日 → 182日』!


 パァァァァァンッ!!


 黄金の粒子が舞い散り、カレンダーの底から木の香りが漂う優美な『檜の足湯桶』がドロップした!


 SSR【感情波動分析足湯(メンタル・フットスパ)】


『※檜の香りと鉱物エキスで足裏のツボを効果的に刺激する超快適な足湯です。入浴者の感情波動や疲労度をリアルタイムで測定し、自律神経の乱れを最適化します』


「よし! 温泉の合間に気軽に立ち寄れる絶好の癒やしスポットだな」


 俺はさっそく中庭の広々としたウッドデッキに『感情波動分析足湯』を設置した。ほんのりと湯気が立ち上る檜の湯船に足を浸し、絶景の庭園を眺めていると、パタパタと可憐な足音が近づいてきた。


「……あ、タクト様。こちらにいらっしゃったのですね」


 現れたのは、いつも淡々とオペレーター業務をこなしている最高情報責任者(CIO)のシオンだった。だが、今日の彼女はいつもの無機質な黒タイツ&軍服風衣装ではない。可憐な藍色の浴衣を身にまとい、細い帯をキュッと結んだ姿は、まるで絵画から抜け出してきたように清楚で美しい。


「シオンか。ちょうどいい、足湯を設置したんだ。旅の疲れを癒やしていかないか?」


「……はい。お言葉に甘えさせていただきます」


 シオンは少し頬を染めながら浴衣の裾を小さく持ち上げ、俺のすぐ隣へと腰を下ろした。すべらかな白い素足が湯船へと沈み、心地よい温湯が波紋を描く。


「……とても、温かいです。足裏から全身の血流が促進され、思考のノイズが消えていく感覚がいたします」


「そうだろう。旅先でのリラックスは、脳のメモリ解放と同じくらい重要だからな」


 俺が微笑むと、ふと湯船の中でシオンの爪先が俺の足に触れた。さらに、バランスを崩しかけた彼女の華奢な手が、俺の手と重なり合う。


「あ……っ」


 シオンの体に小さな電流が走ったかのように、肩がびくびくと跳ね上がった。彼女の空間に浮遊するホログラムモニターが、けたたましい警告音と共に赤く点滅し始める。


『警告:CIOシオンの生体モニタリング数値が異常上昇。心拍数200%オーバー。体温急上昇を検知』


「シ、シオン!? モニターが赤く点滅しているぞ! 大丈夫か!?」


「っ……! た、タクト様……。私……ずっと不思議だったのです」


 シオンは重なり合った手を解こうとせず、上気した顔でまっすぐに俺の目を見つめてきた。瞳の奥には、データや数式では到底表しきれない、熱く切ない感情の光が宿っている。


「全知監視網をいくら稼働させても……タクト様のお顔を間近で見つめ、こうして触れ合っている時の私の内部状態(ステータス)だけは、どうしても解析が不可能なのです……」


「解析不能……? ネットワークの障害か?」


「違います……。タクト様の手の温もりを感じるたび……私のCPU内部で『恋』という名の未定義のバグが発生し、論理回路が完全にフリーズしてしまうのです……っ」


 可憐な顔を真っ赤に染め上げ、うつむきながら絞り出すように告げられた、シオンの決定的なアプローチ!


 だが──!


(なに……っ!? CPU内部で『恋』という未定義バグ!? 論理回路のフリーズだと!?)


 CIOの深刻すぎるシステムエラー報告を受け、俺のPM脳は緊急警戒モードで高速回転を開始した!


(まさか温泉の水蒸気と高熱で、シオンの頭部情報処理ユニットが物理的な排熱不全(熱暴走)を起こしているのか!? 全知監視網のメインサーバーでもある彼女の脳内回路がフリーズしたら、会社全体の情報インフラが全停止してしまうぞ!!)


 俺はガバッと立ち上がると、シオンの肩を両手でしっかりと掴んだ!


「大変だシオン! 今すぐ足湯から上がって頭部ユニットを氷嚢で物理冷却するんだ! 俺がすぐ保冷剤と冷却プロトコルを準備するから、それまで絶対に意識を保ってくれ!」


「え……? あ、あの……タクト様? そうではなくて……私がお伝えしたいのは……っ!」


 顔を真っ赤にして必死に誤解を解こうとするシオン。


 だがその時──!


 ビューーーーーーンッ!!!!!


「喰らいなさい愚兄ーーーーッ! 超重力回転ピンポンスマッシュですわーーーーッ!!」


「ギャーーーーッ!? 打球が音速を超えてるぞベルーーーーッ!?」


 近隣の温泉卓球場から、壁を粉砕して音速のピンポン球がすっ飛んできた! さらに、そのボールを必死で追ってきた泥酔状態のネクロディアと黒崎が、勢い余って足湯へ向けて豪快にダイビングダイブ!


 ドッバアァァァァァァンッ!!!!!!


「ふははは! 卓球の王は我ですぞーーーーッ!」


「球は逃さねぇぇぇぇッ!」


 足湯から盛大な温泉の津波が巻き上がり、俺とシオンは頭からお湯を盛大に被った! ビショ濡れになったシオンの浮遊モニターには、『※水没および混乱によりシステム一時停止』というエラーメッセージが虚しく表示されるのだった……。


(残り182日。明日は何が出る?)

【182日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:2日目に『感情波動分析足湯』をドロップさせ、シオンからの愛ある告白を「熱暴走による深刻なシステムエラー」と大勘違い。大騒動の末にお湯を被った。


■ シオン(ホワイト株式会社 最高情報責任者(CIO)) 状況:浴衣姿で足湯に入り「恋という未定義のバグ」を告白寸前まで深めるも、タクトの勘違いと卓球大ダイブの津波を受け、システムが水没一時停止となった。


■ ベルゼリカ(ホワイト株式会社 特別イベント企画部(特別インターン)) 状況:温泉卓球で兄のリオン相手に手加減なしの超重力スマッシュを叩き込み、壁を破壊して足湯パニックを引き起こした。


■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:妹との激烈な温泉卓球対決で必死に命がけのレシーブを繰り広げ、足湯へと球を打ち込んでしまった。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:2日目も全社の温泉卓球大会と宴会の仕切り・タオル手配に東奔西走し、休みなく奮闘している。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:泥酔した勢いでピンポン球をキャッチしようと足湯へダイビングダイブを敢行し、盛大なお湯の津波を巻き起こした。


■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」と叫びながら卓球大会を大盛り上げし、足湯への豪快な飛び込みでシオンの感情ログを物理的にシャットダウンさせた。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と愛らしく鳴きながら、足湯の水浸し騒ぎを無邪気に楽しんで跳ね回った。

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