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第185話:【185日目】世界からの悲鳴と、課題のバックログ化

 世界規模の労働環境改革『ISO―WHITEプロジェクト』の宣言から一夜明けた、185日目の朝。社長室(PMO)のドアを開けた俺──代表取締役PMのタクトは、そこに広がっていた異様な光景に思わず足を止めた。


「な、なんだこれは……!?」


 広大な社長室の床から応接セットの上に至るまで、見たこともない形状や材質の『羊皮紙』『石板』『竜の鱗に刻まれた書状』が山のように積み上がっていたのだ。中央で頭を抱えていた秘書のシルフィが、青ざめた顔で跳ね起きる。


「タクト様! お疲れ様です! 昨日の世界全知監視網でのSOS受信と、超空間ドローン物流網の稼働に伴い……世界各地の現場で苦しむ人々から、直接救済を求める『悲鳴の親書(SOS・レター)』がひっきりなしに届いているのです!」


「これほどまでの数か……!」


 積まれた書状の山は、一千通を軽々と超えている。そこへ、モーニングコーヒーを手にした最高財務責任者のグレイシアと、最高投資責任者のレイカ姉さん、最高情報責任者のシオンが足早に入ってきた。


「おはよう、タクト。朝から凄まじい情報過多(オーバーロード)ね。紙のアナログデータがこれほど氾濫しては、正常なプライオリティの設定すら不可能だわ」


 レイカ姉さんが眉をひそめ、シオンもモニターを操作しながら苦笑する。


「全知監視網のデータと実物の書状が混在し、情報の統合管理が追いついておりません。手作業での分類には莫大な工数がかかります」


「よし、まずは本日の日めくりスワイプで、状況を打破するソリューションを引き当てるぞ!」


 俺は卓上のクリスタルカレンダーへと向かい、新しくなったグラデーションUIに指を滑らせた。


 ──『残り180日 → 179日』!


 パァァァァァンッ!!


 空間に眩い七色の光が弾け、カレンダーの台座から精密なレンズとホログラムスキャナーを備えた真鍮製の箱がドロップした!


 SSR【課題自動整理箱(チケット・ソーター)】


『※世界中から届く膨大な悲鳴や要望書を瞬時にスキャンし、課題の緊急度・重大度・カテゴリ別に分類してホログラムのバックログへ可視化する魔法のアナリティクス装置です』


「キタ! これぞ膨大な非構造化データを一元管理する最強のツール!」


 俺は即座に【課題自動整理箱(チケット・ソーター)】を設置し、社長室に積まれた一千通以上の親書を投入させた。ウィーンと静かな機械音が響き、スキャナーから青い光線が放たれると、羊皮紙や石板が次々と吸い込まれてデータ化されていく。


 数分後──社長室の中央に巨大な立体ホログラムの『タスク管理ボード(バックログ)』が浮かび上がった!


「すごい……! 世界中の悲鳴が、見やすく整理されていきますわ!」


 シルフィが感嘆の声を与える。


 ホログラムボードには、緊急度(高・中・低)と課題カテゴリ別に分類されたグラフが映し出されていた。その中でも、特に赤い警告マークが点滅している『最優先改善領域(トップ3)』がくっきりと浮かび上がる。


『①【ドワーフ鉱山帝国】:危険作業・不眠不休の手掘り搾取(推定労災率:100%)』 『②【龍族武闘派国家】:精神論・体罰・若手使い捨て(推定パワハラ度:測定不能)』 『③【海洋商業都市】:無制限サビ残・闇市債務・粉飾決算(推定違法労働率:98%)』


「……ひどい有様だな。どれも命や人権を無視した劣悪な労働環境だ」


 俺がボードを見つめていると、ドアの隙間からノック音が響き、見習い清掃員の黒崎が顔を出した。


「失礼します、社長! ……おいおい、なんだありゃあ!?」


 黒崎はホログラムに表示されたドワーフ鉱山の『労災率100%』や龍族の『体罰しごき』の文字を見るや、顔を真っ赤にして怒脈を浮き立たせた。


「ふざけやがって! 労働者を安全対策もなしに危険な坑道に放り込むなんざ、元ブラック経営者の俺から見ても最低最悪の三流経営だッ! 現場の人間は使い捨てのコマじゃねぇんだぞ!」


「黒崎……」


 かつて自分が犯した過ちを深く反省している黒崎だからこそ、現場を蔑ろにするブラック経営に対する怒りは誰よりも強い。


「タクト。課題の定量的な可視化は見事ね」


 レイカ姉さんが美しい口元に知的な笑みを浮かべ、ホログラムの数値をタップした。


「次は、この膨大な課題に対して、我が社がどのような『客観的労働基準値』を提示するか……つまり、世界標準となる評価指標(メトリクス)の定義が必要よ」


「ああ、その通りだ、姉さん」


 俺は頷き、全員を見渡した。


「感性や情だけで助けに行っても、根本的な構造改革にはならない。労働時間の適正化、労災ゼロ、メンタルヘルスの保証……これらを明確な数値として規定し、世界に提示する」


 俺は熱く燃える胸を抑え、デスクの端末へ向かった。


「明日、我がホワイト株式会社の全知性を結集し、世界の労働環境を一変させる『世界ホワイト労働規格(ISO―WHITE)』の具体的仕様書を策定するぞ!」


「「「はいッ!!!」」」


 一千通の悲鳴から見出された明確な課題。世界中の働く人々を救うための歴史的な第一歩が、いま着実に踏み出されようとしていた。


(残り179日。明日は何が出る?)

【185日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:世界中から届いた一千通以上の悲鳴の親書を『課題自動整理箱(チケット・ソーター)』で即座にデータ化。課題のバックログ化を完了させ、ISO-WHITE仕様書の策定へ向けて指揮を執る。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:山のように届く悲鳴の親書の受付整理に奮闘。タクトの鮮やかなデータ管理手腕に再び惚れ直している。


■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(CIO)) 状況:元外資系金融MDとして、非構造化データのバックログ化を高く評価。定量的評価指標(メトリクス)の定義を助言する。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:ドワーフ鉱山帝国の労災率100%の惨状に激怒。「現場の命を守らない経営は三流」と、元ブラック経営者としての熱い正義感を燃やす。


■ シオン(ホワイト株式会社 最高情報責任者(CIO)) 状況:全知監視網とチケット・ソーターの連携を円滑にサポートし、世界各国のリアルタイムデータ解析を担う。


■ グレイシア(ホワイト株式会社 最高財務責任者(CFO)) 状況:データ化された各国の不当労働による経済損失を試算し、ホワイト化による市場成長性を算出し始める。

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