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第178話:【178日目】タイムループ時計と、終わらない『ランチタイム』

「ちょっと愚兄! 本日の社員食堂の『日替わり特製ローストビーフランチ』、わたくしが先に並んでいたのですから、最後の一皿はわたくしのものですわ!」


「冗談言えよベル! 俺は今朝の広場清掃で腹ペコなんだよ! 妹なら兄に譲るのが礼儀だろっ!」


 ホワイト株式会社の本社ビル、一階に広がる大空間社員食堂『ホワイト・ダイニング』。 正午のチャイムが響き渡る中、本日も朝一番の業務を終えた社員たちで賑わう食堂の券売機前で、ニートの兄リオンと特別インターンのベルゼリカ(ベル)が、限定ローストビーフランチの食券を巡って火花を散らしていた。


「二人とも、昼休みだからって大声で争わないでくれ……。並んでいる他の社員の迷惑になっているぞ」


 代表取締役PMの俺――タクトは、苦笑しながら二人の間に割って入った。 秘書のシルフィが「あ、あはは……お二人とも、ローストビーフでしたら総料理長のセシルさんが追加で仕込んでくださっていますよ」と温かいお茶の入ったトレイを手に微笑み、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんは手帳を開いたまま冷静な視線を向ける。


「無意味な不毛な争いは福利厚生の満足度を損なうわ。食事によるエネルギー補給は午後の生産性を左右する重要タスクよ。さっさと食券を買って着席しなさい」


「げぇっ、レイカ姉さん……。分かったよ、ベルと半分こにするよ……」


 リオンが降参の溜息をついたその瞬間、ベルの目がキラリと光った。 彼女の胸元には、朝一番でカレンダーから強奪スワイプして手に入れた、怪しく輝く砂時計型のアイテムがぶら下がっていた。


 残り187日 → 186日


 SSR【時間輪廻砂時計(タイム・ループ)】


『※指定した一定範囲の局所的空間時間を、最大一時間前へと強制的に巻き戻し、同一の時間を何度でも復元・ループさせる高位局所時間制御魔導具です。※精神的ストレスの蓄積を防ぐため、物理的疲労感はリセットされますが記憶は維持されます』


「ふふ〜ん! なにもローストビーフを譲り合う必要なんてありませんわ! この砂時計の力を使えば、美味しくて幸せな『ランチタイム』を何度でも無限にやり直せばよろしいのですわッ!」


「あっ、バカ! ベル、そのツマミを回すな――!?」


 タクトとリオンの制止の声も虚しく、ベルはドヤ顔で砂時計の上の黄金ダイヤルをカチリと一回転させてしまった!


 キィィィィィィン……ッ!!


 砂時計から黄金色の時間光線が放出され、社員食堂『ホワイト・ダイニング』全体をすっぽりと包み込んだ。


「あ……れ? 食券が戻ってる……?」 「ローストビーフが……一口食べる前の綺麗な状態に復活してるぞ!?」


 食堂にいた数百人の社員たちが一斉にざわめいた。 時計の針が、正午ちょうどへと一時間巻き戻ったのだ。


「凄いですわ! お肉もスープも、一口食べる前の出来立てアツアツに戻りましたわ! これで何度でもローストビーフが食べられますわッ!」


 ベルは大喜びで二皿目のローストビーフを頬張り始めた。 しかし、大爆笑していたのも束の間――一時間が経過した午後一点ちょうど。


 カチリ……!


「……え?」


 空間が歪み、世界が一瞬で正午ちょうどへと再び巻き戻された! テーブルの上の皿は出来立てのローストビーフに戻り、正午のチャイムが再び高らかに鳴り響く。


「な、なんでまた正午に戻っているんですの……!?」


「当たり前だろバカ妹ぉぉぉっ!! 砂時計のダイヤルを解除しない限り、一時間ごとに正午へタイムループし続けるんだよぉぉっ!」


 リオンが悲鳴を上げた。 一回、二回、三回、四回……。 正午から午後一点までの『完璧で幸せなランチタイム』が、無限に繰り返され始めたのだ!


「うぐぐ……いくら美味しくても、連続で五回も同じローストビーフを食べるのはキツいぞ……!」 「お腹は苦しくないのに、頭が『もうローストビーフは見たくない』って悲鳴を上げてる……!」


 社員たちがテーブルに突伏し始めた。 砂時計の仕様により、肉体的な満腹感や疲労感はリセットされるものの、「ローストビーフを食べ続けた記憶」は残るため、精神的な「飽き」と「無限ルーティン地獄」のストレスが限界に達しつつあったのだ。


「た、タクト……っ! どうにかしてくださいましぇんかぁぁっ! わたくし、もうローストビーフは一年分食べましたわぁぁっ!」


 ベルが涙目でタクトの服の袖にしがみついてきた。


「落ち着け、ベル。パニックになるな」


 俺は即座に立ち上がり、冷静に時間を計測しながらインカムを開いた。


「全幹部へ緊急通達! PMのタクトだ。現在、社員食堂エリアが『一時間限定の局所タイムループ現象』に巻き込まれている。脱出の解除キーは、ループが巻き戻る『一時間経過の瞬間』に発生する因果率の歪みを捉えることだ!」


 インカムから、幹部たちの頼もしい声が返ってくる。


『了解ですぞタクト殿! シグナル解析完了! 砂時計の中心核に、時間固定のアンカーコードを打ち込めばループは停止しますぞ!』 最高デジタル責任者《CDO》のネクロディアが、骨の指を爆速で叩きながら答える。


『ただし、一時間という短いスパンの中で、全社員の精神的ストレスを回避しつつコードを構築・適用・デプロイしなければならないわ。超過密なタイムマネジメントが求められるわね』 最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんが、手帳に分単位のタイムスケジュールを素早く書き込んでいく。


「よし! この無限の『一時間』を逆手に取るぞ! 【一時間超集中アジャイル・ランチ復興プロジェクト】を開始する!」


 俺は即座にタスクを各幹部へアサインした。


 メニューのバリエーション化(セシル&黒崎): 連続で同じ料理を食べ続けるストレスをゼロにするため、総料理長セシルと黒崎が、ループごとに『和食』『中華』『イタリアン』『超特製スイーツコース』へと即座にメニューを変更!

 安全領域の固定(ザンギュラ&アーサー): 時間巻き戻りの衝撃で怪我人が出ないよう、ザンギュラが『時間干渉防壁』を展開し、衝撃を完全吸収!

 因果率アンカーのデプロイ(ネクロディア&シオン&スー): シオンの全知監視網で時間の歪みを可視化し、ネクロディアが解除プログラムを生成。スライム局長のスーちゃんが、粘着体質で砂時計のダイヤルをガッチリ固定して巻き戻しを物理的に阻止!

「全員、次のループ(第十回目)がラストチャンスだ! 完璧な連携で一分以内にアンカーを叩き込むぞ!」


「「「オーーーッ!!」」」


 そして――第十回目の正午が訪れた。


「いまだ、セシルさん! メニュー切り替え!」


「はいシェフ特製! 今度は口当たりの爽やかな『極上フルーツパフェ&ハーブティーセット』です!」


 セシルたちが提供した冷たいスイーツに、社員たちの精神的ストレスが一瞬で吹き飛ぶ!


「う、うまぁぁぁいっ! 生き返るぞぉぉっ!」


「よし、ネクロディアさん、シオン! アンカーコード・デプロイ!」


『了解ッ!【タイム・アンカー・パッチ】デプロイですぞーっ!』


 ネクロディアが打ち込んだ青銀色の魔導コードが、砂時計を包み込む!


「ぷるる〜〜っ!!(ダイヤル固定ーっ!)」


 スーちゃんが巨大化させたモチモチの体で砂時計のダイヤルをガッチリと挟み込み、時間の逆回転を力任せにストップさせた!


 カチリ……ッ!!


 砂時計の光が静かに収まり、食堂の壁時計の針が、午後一点を超えて『午後一点一分』へと正しく進み始めた!


「あ……時間が出口に繋がった……! ループが抜けたぞぉぉぉっ!」 「やったぁぁぁっ! 午後の仕事に戻れるぞぉぉっ!」


 社員食堂全体から、割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こった!


「ふぅ……無事にタイムループを破砕できたな」


 俺が汗を拭うと、ベルが自分の小さな手を見つめ、心底申し訳なさそうに肩を落とした。


「うぅ……ごめんなさいですわ、タクト。わたくしの欲張りのせいで、みなさんを大変な目にあわせてしまいましたわ……」


「気にしなくていいよ、ベル」


 俺はベルの頭を優しく撫で、微笑みかけた。


「君のおかげで、一度にいろんな新メニューのモニタリングテストができたし、時間短縮のタイムマネジメントのいい訓練になったよ。失敗を次の改善に活かすのが、ホワイト会社のやり方だ」


「タクト……っ! はいですわ! わたくし、もっと時間の使い方を勉強しますわ!」


 ベルはパッと顔を輝かせ、元気いっぱいに頷いた。


(残り186日。明日は何が出る?)

【178日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:砂時計による局所タイムループ現象を『新メニュー大規模モニタリング&タイムマネジメント訓練』へと昇華させ、見事にループを破砕・解決した。


■ ベルゼリカ(特別インターン) 状況:砂時計で無限ランチタイムを起こしてしまい猛省するも、タクトの温かいフォローとPM力に救われ、時間管理の大切さを学んだ。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と愛らしく鳴きながら、モチモチの体で砂時計のダイヤルを物理固定し、タイムループ阻止に大貢献した。


■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:妹の引き起こした無限ローストビーフ地獄に悶絶するも、最後のパフェコースで復活。妹を心配する兄らしさも見せた。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:タイムループ中も混乱せず、全10回のループすべてのメニュー変更と社員への案内手配を完璧にサポートした。


■ セシル(総料理長) 状況:一時間ごとのループに合わせて『和食』『中華』『極上パフェ』と爆速でメニューを変更し、社員たちの精神的疲労を完全に癒やした。


■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:タイムループ下での新メニューテストデータを収集し、「1回の試食会で10回分のR&Dデータを回収できた」と高い投資対効果を評価した。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:時間巻き戻り時の衝撃から社員を守る『時間干渉防壁』を展開し、怪我人・事故ゼロを達成した。


■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂で時間アンカープログラムを爆速構築し、シオン・スーと共にタイムループを完全鎮圧した。


■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:ループ中に消費された食材の会計処理を整理し、福利厚生費としての特別予算枠で完璧に経理処理を完了させた。


■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:全知監視網で時間軸の歪みをリアルタイムトラッキングし、ネクロディアのアンカー打ち込みタイミングを寸分違わずナビゲートした。

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