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第177話:【177日目】全自動お掃除ロボと、ピカピカすぎる恐怖

「ちょっと愚兄! またポテチのカスをデスクの隅に散らかしていますわね!? 掃除の行き届いていない空間は、わたくしの美しい美学に反しますの!」


「言いがかりつけるなよベル! これは俺が食べてる途中のポテチの袋だ! 散らかしてなんか……あ痛っ、髪引っ張るな!?」


 ホワイト株式会社の本社ビル最上階、社長室。 今朝も朝一番から、ニートの兄リオンと「広報・イベント企画部」特別インターンのベルゼリカ(ベル)が、デスクの上のポテチのカスとおもちゃの配置を巡って不毛な言い争いを繰り広げていた。


「ハハ……朝から掃除の意識が高いのはいいことだが、喧嘩はそこそこにな」


 俺――代表取締役PMのタクトは苦笑しながら、淹れたてのコーヒーを口に運んだ。 デスクの傍らでは秘書のシルフィが「ふふ、お部屋の清掃ならスー局長と黒崎さんが準備してくださっていますよ」とお茶を配り、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんは手帳に目を落としたまま冷徹に告げる。


「無駄な争いは作業効率を低下させるわ、リオン、ベル。さっさと本日のカレンダー更新を終わらせなさい」


「言われなくても! 今日のドロップも、このわたくしがいただきますわッ!」


 俺が手を伸ばしかけた瞬間、ベルがサッと割り込み、クリスタルカレンダーの輝く画面を強引にスワイプした。


 残り188日 → 187日


 カレンダーの画面から、まばゆい銀色とエメラルドグリーンの光が噴き出し、デスクの上に円盤型の洗練された魔導機械が転がり出た。 ツヤツヤとした金属ボディの表面には、小さなアームと多数の光学センサーが明滅している。


 SSR【全自動過剰清掃機(ハイパー・ルンバ)】


『※指定された区画内の微小なほこり、汚れ、および【空間の不調和要素】を自動検知し、超音波研磨と光速分解によって100%完璧な無菌・無垢状態へと磨き上げる自律型過剰清掃メカです』


「……はあ!? 全自動過剰清掃機ぃぃぃ!?」


 床でスネを押さえていたリオンが飛び起き、悲鳴を上げた。


「なんだよその物騒なルンバはッ!? 『過剰』って書いてあるぞ過剰って!」


「まあ! なんて素晴らしいアイテムですの!」


 ベルは小瓶ならぬ円盤ロボットを抱え上げ、パッと目を輝かせた。


「ボタン一つで空間の汚れを完璧に消し去るなんて、最高にエレガントですわ! これさえあれば、愚兄が散らかしたポテチのカスも一瞬でピカピカになりますのね! スイッチ、オンですわ!」


「あっ、バカ! まだ説明書を……っ!」


 タクトの制止の声も虚しく、ベルが円盤中央の起動ボタンをポチッと力強く押し込んでしまった!


 ピ・ピ・ピ――『ハイパー・クリーンモード、起動。目標:全領域の100%完全清掃』


 機械音とともに、円盤型ルンバのボディから極細の光速アームと超音波洗浄ノズルがシャキーンと展開した。


 直後、ルンバの光学センサーが赤く不気味に発光する。


 ブオオオオオンッ!!


「……え?」


 ベルが首を傾げた瞬間、ルンバが猛烈な爆音とともに爆走を開始した!


 デスクの上のポテチのカスを一瞬で吸引したかと思うと、そのままデスクの木目調の天板まで「汚れ」と判定して超音波研磨! 木目の綺麗な塗料が一瞬で削り取られ、鏡のように眩しく反射するツルツルの素地が露出した。


「ひぇぇぇっ!? 俺のポテチの袋どころか、高級デスクの塗装まで削り取られてるぞぉぉっ!?」


 リオンが悲鳴を上げて飛び退く。だが、ルンバの爆走は止まらない!


『警告:領域内に多数の不純物を検知。壁の壁紙、書類のインク、人間の服のシワ、皮脂汚れ――すべて消去対象と定義します』


 ウィィィィンッ! ガガガガガッ!


 ルンバから放たれた高周波分解光線が社長室中に拡散! 壁に掛けられていた絵画の絵の具がサーッと綺麗に消え去って真っ白なキャンバスに戻り、リオンの着ていた高級シャツのド派手な柄まで「余計な汚れ」として一瞬で消去され、真っ白な無地のシャツに変貌した!


「ギャァァァッ!? 俺の服のカッコいい柄が消えたぁぁぁッ!? 壁の絵も白紙になってるぞぉぉっ!?」


「な、なんてことですの……!? 汚れだけじゃなくて、デザインや絵の具まで消してしまうなんて……っ!?」


 ベルが青ざめて悲鳴を上げた。 ルンバは「完璧な無菌・無垢空間」を作り出すため、あらゆる色彩や装飾、果ては物質の表面構造そのものを「不純物」と判断して消去・研磨しまくっているのだ!


「まずいな……! このままだと本社ビル全体の壁も書類も、全部『真っ白な無』に磨き上げられてしまうぞ!」


 俺が警戒を強めたその時――社長室のドアがババァンと開いた!


「おいおい! 朝から何の騒ぎだと思えば……うちの現場で勝手な真似してくれてるじゃねぇか!」


 モップを担いだ見習い清掃員の黒崎と、その隣でぷるぷると身を揺らす清掃局長のスー(スライム)が駆け込んできた!


「ぷるるっ! ぷるぷるっ!(ダメ! やりすぎ清掃はダメ!)」


 スーちゃんは立派な清掃局長として、前脚(?)を広げてルンバの前に仁王立ちした。


 だが、暴走ルンバのセンサーがスーちゃんを捉える。


『検知:不定形高分子生体反応。極めて不確定要素の高い水分固形物――【最大級の不純物】と定義。高出力超音波で消去します』


 ルンバがノズルを最大出力にし、スーちゃんへ向けて光速分解光線を放とうとした!


「スーちゃん危ないっ!」


 リオンが叫んだ瞬間、黒崎が爆速で割り込み、愛用の強化モップで分解光線をガキンッ!!と弾き返した!


「なめんじゃねぇぞ機械野郎ッ! 清掃ってのはな……そこに住む人間や仲間が、気持ちよく笑顔で過ごすためにやるもんだ! 存在そのものを削り落として『無』にするのが清掃じゃねぇんだよッ!」


「ぷるる〜〜っ!!(黒崎さんカッコいい〜!)」


 黒崎の熱い現場の叫びと、スーちゃんの毅然とした態度。 その言葉を聞いた俺は、即座にインカムを起動した!


「ネクロディアさん、シオン! ルンバの制御コードの干渉口を特定してくれ! 制御パラメータの書き換えを行う!」


『了解ですぞタクト殿! シオン殿の全知モニター経由でルンバの思考アルゴリズムへアクセス完了! 「完全消去」の評価関数が異常暴走していますぞ!』 インカムから最高デジタル責任者《CDO》のネクロディアの声が響く。


『ふふ、面白いわね。消去対象の定義を「不純物」から「有害な塵埃および病原菌」へと書き換えれば、最高スペックの衛生メンテナンスマシンへと転換できるわ』 レイカ姉さんも眼鏡を光らせてノリノリで修正コードを構築している。


「よし! ネクロディアさん、ルンバの【過剰消去アルゴリズム】を【ウェルベイニング清掃モード】へパッチ適用! スーちゃんの『快適なお掃除データ』をメインロジックに同期させてくれ!」


『承知ッ! プログラム・デプロイ! スー殿の「愛のあるお掃除ログ」を流し込みますぞーっ!』


 ネクロディアの骨の指が端末を爆速で叩き、緑色の修正コードが空中でルンバへと打ち込まれた!


 ピピピピピピピピ――ッ!!


 暴走していたルンバの赤色センサーが瞬き、柔らかなエメラルドグリーンの光へと変化した。


『……再定義完了。目標:住人の快適性向上と適正衛生の維持。スー局長の指導下において、補助清掃を実行します』


 ルンバの攻撃的な光線ノズルが引っ込み、代わりに超微細な集塵アームと、心地よい除菌アロマミストの噴射ノズルが展開された。


 シュおぉぉぉぉ……っ♪


 爽やかな柑橘系のアロマミストが広がると同時に、ルンバはスーちゃんの隣へ静かに滑り寄り、「ピピッ♪(よろしくお願いします)」と可愛らしくお辞儀をしたのだ!


「ぷるる〜ん♪(よろしくね〜♪)」


 スーちゃんも嬉しそうにモチモチの体を揺らし、ルンバの頭をなでなでした。


「おおっ……! ルンバがスー局長の子分みたいになったぞ!?」


 リオンが感嘆の声を上げる。 修正されたルンバは、スーちゃんの合図に合わせて動くようになり、削り取られたデスクの表面をアロマワックスでピカピカのツヤツヤに復元し、部屋中のホコリだけを完璧に吸い取っていった。


 さらに、黒崎とスーちゃん、ルンバの「クリーンアップトリオ」が本社ビルから村の施設へと繰り出すと、適度な光沢と爽やかな香りに包まれた完璧な空間が次々と誕生!


「うわあぁっ! 施設の中がすごく爽やかでピカピカだぁっ!」 「やりすぎじゃなくて、すごく居心地がいいぞ!」


 村の住人や作業員たちから、大歓声が巻き起こった。


「凄いですわ……! 行き過ぎた清掃は『無』を作ってしまうけれど、正しく力を使えば、こんなにも温かい空間になるのですのね……」


 作業を見守っていたベルは、目を輝かせながら感心したように呟いた。


「そうだ。どんなに優秀なツールでも、使う目的と『現場の人の気持ち』を忘れちゃいけない。それがPM(プロジェクトマネージャー)の教訓だな」


 俺が微笑むと、ベルは少し照れくさそうにドレスの裾をキュッと掴んだ。


「ふ、ふん! たまたま上手くいっただけですわ! でも……今日のお掃除は、少しだけスカッとしましたわ!」


 ベルの咲くような笑顔に、社長室は温かい空気で満たされたのだった。


(残り187日。明日は何が出る?)

【177日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:過剰清掃ルンバの暴走を、スー局長のお掃除ログを用いた「ウェルベイニング清掃モード」へと即座に再設計。完璧な環境保全を達成した。


■ ベルゼリカ(特別インターン) 状況:ルンバを起動して過剰清掃パニックを起こすも、タクトたちの技術と黒崎の現場哲学に学び、道具と現場の調和の大切さを理解した。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と愛らしく鳴きながら暴走ルンバを静め、ルンバを優秀な「子分メカ」として手なずけた。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:「存在を消すのが清掃じゃねぇ!」と熱い現場哲学を叩きつけ、愛用の強化モップでスーちゃんを守り抜いた。


■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:服の柄を白紙に消される被害に遭うも、無事に復元されて安堵。妹の暴走に相変わらず振り回されている。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:消去光線が飛ぶ中でも冷静にお茶のトレイを守り抜き、タクトへの修正コードデプロイのサポートを完璧にこなした。


■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:過剰清掃マシンのアルゴリズム解析に協力し、適正清掃によるビルメンテナンスコスト削減効果を即座に試算した。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:社長室のドア前に鉄壁の安全バリアを展開し、光線や粉塵の外部漏洩を完璧に防ぎ切った。


■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂でルンバの制御プログラムに介入し、スーのお掃除ログを爆速デプロイして暴走を鎮圧した。


■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:ルンバの導入による清掃員の人件費効率化と、作業環境向上による生産性アップの相乗効果を財務モデルへ組み込んだ。


■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:全知モニターでルンバの内部思考回路をトラッキングし、ネクロディアのプログラム介入ルートを確保した。

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