第176話:【176日目】兄妹喧嘩と、召喚された『怪獣ぬいぐるみ』
「ちょっと愚兄! わたくしのポテチ『うすしお味』を勝手に食べたでしょう!? 弁償しなさいな!」
「知るかよ! 俺が昨日買って置いておいた『コンソメ味』を全部食ったのはどこの誰だっ!? お互い様だろ!」
ホワイト株式会社の本社ビル、最上階の社長室。 今朝も朝一番から、ニートの兄リオンと「広報・イベント企画部」特別インターンのベルゼリカ(ベル)が、ポテチのフレーバーの所有権を巡って不毛きわまる大喧嘩を繰り広げていた。
「ハハ……朝から本当に賑やかだな」
俺――代表取締役PMのタクトは、苦笑しながら淹れたてのコーヒーを口に運んだ。 デスクの傍らに鎮座するクリスタルカレンダーの横では、秘書のシルフィが「あ、あはは……お二人とも、お菓子の好みだけは譲れないのですね」と困り顔で温かいお茶を配り、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんは手帳を開きながら冷静に告げる。
「不毛な感情のぶつかり合いね。需要予測と在庫管理すらできていない証拠よ。不生産的な争いはカットし、速やかにカレンダーの更新を行いなさい」
「げぇっ、レイカ姉さん、朝から正論すぎる……! よし、今日も俺がビシッと更新を――」
「させませんわ愚兄! 今日のドロップもわたくしがいただきますわ!」
俺が手を伸ばしかけた瞬間、ベルが俊敏な動きで割り込み、クリスタルカレンダーの輝く画面を強引にスワイプした!
残り189日 → 188日
カレンダーの画面から魔法の絵の具のような虹色の光が溢れ出し、デスクの上に一冊の可愛らしい革装丁の絵本と、輝く魔導クレヨンが転がり出た。
SSR【具現化絵本】
『※ページに描かれたイラストや物語の登場人物を、魔力を与えることで一時的に実体化・具現化させる高性能な教育補助用魔導絵本です。※具現化された存在の性格や特性は、描き手の感情やイメージに強く依存します』
「……はあ!? 描いた絵が本物になる絵本とクレヨンだとぉぉぉっ!?」
床でスネを押さえていたリオンが飛び起き、悲鳴を上げた。 レイカ姉さんも眼鏡のブリッジを押し上げ、興味深そうに観察する。
「なるほど。イメージをダイレクトに三次元空間へ出力するプロトタイピングのツールね。建築の概念モデル作成や、新規キャラクターグッズのアセット開発に絶大な威力を発揮するわ」
「ふふ〜ん! 見なさいな愚兄! この素晴らしいツールを使えば、わたくしの理想の『最強マスコット』を今すぐ形にできますわ!」
ベルは勝ち誇った顔でクレヨンを握りしめると、絵本の白紙ページにサラサラと勢いよく絵を描き始めた。
「ちょっと待てベル! 適当な怪獣とか描くなよ!? 碌なことにならないんだからな!」
「うるさいですわね! わたくしが描くのは、愚兄の大好きな『コンソメ味』を懲らしめる、世界で一番強くて可愛いコンソメ怪獣ですわっ!」
ベルが描いたのは、ポテチの袋のような四角い体から短い手足が生え、頭に鋭いツノと、トゲトゲのシッポを持った、なんともアンバランスで不格好な「コンソメ怪獣」のイラストだった。
「出来ましたわ! いでよ、わたくしのしもべ『コンソメゴジラちゃん』!」
ベルが勢いよく魔力を注ぎ込んだ次の瞬間――!
ブワッ……!!
絵本から濃密なコンソメスパイスの香ばしい匂気が立ち込め、描かれたイラストがズズズと立体化! 体長三メートルを超える、フワフワとしたフェルト生地の巨体を持った【コンソメ怪獣】が、社長室の真ん中に実体化したのだ!
「ガオォォォォンッ!! コンソメぇぇぇぇっ!!」
怪獣は激しい重低音の咆哮を上げると同時に、体から香ばしいスパイスの粉末をパッパと部屋中に撒き散らし始めた!
「ゲホッゲホッ!? なんだこの強力なスパイスの匂いはっ!? 目にしみるぅぅぅっ!」
「きゃああっ!? なぜかしら、わたくしのイメージより凶暴で、スパイスの匂いが凄まじいですわぁぁっ!」
「当たり前だろバカ妹っ!」 リオンが涙目で叫ぶ。 「お前が『うすしお味』を奪われた怒りと、『コンソメ味への憎しみ』を込めて描いたから、怪獣の感情ベクトルが超辛口スパイス攻撃に暴走してんだよぉぉっ!」
「ガオォォォンッ! コンソメこそ至高! うすしおなんて消え去るべしっ!」
コンソメ怪獣は暴れ回り、部屋にある書類やソファにコンソメスパイスを振り撒きながら、窓を突き破って本社ビル前の大広場へと跳び下りてしまった!
「大変ですわっ! 広場にコンソメ怪獣が逃げ出しましたわぁぁっ!」
「全社員へ緊急通達!」 俺は即座にインカムを起動し、冷静に指示を飛ばした。 「PMのタクトだ! 現在、感情の初期パラメータの偏りにより暴走した『コンソメ怪獣』が大広場に出現している! 危険性はないが、強力なスパイス攻撃で広場の物流が停滞する恐れがある! ただちに【味覚の多様性ダイバーシティ&極上Wパンチ和解プロジェクト】を開始する!」
インカムから、幹部たちの頼もしい声が次々と響き渡る。
『了解ですぞタクト殿! スパイス成分の分析完了! 単一の過剰な自己主張状態! うすしお成分との黄金比による緩和が極めて有効ですぞ!』 最高デジタル責任者《CDO》のネクロディアが爆速でコードを叩く。
『安全誘導ライン設置完了! 怪獣のフェルト生地は柔軟性が高いため、直接攻撃は無効! 衝撃を吸収されてしまいます!』 最高安全責任者《CSO》のザンギュラが大盾を構えて広場で指示を出す。
「よし! 黒崎さん、スー隊長! セシル総料理長と連携して、特製の『うすしお&コンソメWパンチ特大ポテチ』の緊急製造をお願いします!」
『おうよ社長! 単一の味に固執するから喧嘩になるんだ! 両方の美味さを融合させた最高の一品を作ってやるぜ!』 見習い清掃員の黒崎が、元ブラックCEOの熱い現場魂でセシルの厨房へ駆け込む。
「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」 清掃局長のスー(スライム)も、広場に飛び散ったコンソメスパイスの粉末をピカピカに吸着清掃しながら、元気に跳ね回る。
広場では、コンソメ怪獣が「コンソメぇぇっ!」と叫びながら暴れていたが、そこへリオンが勇気を振るい、特製ポテチの特大袋を抱えて前に踊り出た!
「おいっ! コンソメ怪獣! 聞こえろっ!」
「愚兄……! 危険ですわっ!」 ベルが息を呑む。
リオンは怪獣を真っ直ぐに見つめ、腹の底から声を張り上げた。
「俺はコンソメ味が大好きだ! だがな、うすしお味のシンプルな塩気とジャガイモ本来の美味さも知ってる! どっちか一つだけじゃダメなんだよ! お前が本当に求めてるのは、自分の価値を認められた上での『完璧な調和』だろっ!」
「ガ……ガオ……?」 コンソメ怪獣が動きを止める。
そこへ、黒崎とスーちゃんがセシル特製の『超特大・Wパンチ黄金ポテチ』を抱えて到着した! うすしおの旨味塩と、濃厚なコンソメスパイスが黄金比率(50:50)でまぶされた、焼き立てアツアツの特製ポテチだ。
「喰らいやがれっ! これがホワイト株式会社の誇る『ダイバーシティ(多様性)の味』だぁぁっ!」
リオンが特大ポテチを怪獣の口へ豪快に投げ込んだ!
パクッ……モグモグモグ……。
コンソメ怪獣がポテチを噛み締めた瞬間――その大きな目がキラキラと輝き出した!
「ガ……ガオオオォォォォン……っ♪(う、うまぁぁぁぁいっ! コンソメのコクとうすしおのキレが完璧に調和しているぅぅっ!)」
あまりの美味しさと幸福感に、怪獣の体から放出されていた刺々しいスパイス粉末が、甘く香ばしい極上のアロマへと変化! 怪獣はうっとりとした表情を浮かべ、広場にゴロンと横たわって気持ち良さそうにお腹を見せたのだ!
「「「うおおおおっ! 凄ぇぇぇっ! Wパンチポテチ、最高に美味そうだぁぁっ!」」」
広場の住人や作業員たちから、大歓声と拍手が湧き起こる!
「やったな、リオン!」 俺が肩を叩くと、リオンは気恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。
「へへっ……まあな! 俺だって伊達に毎日ポテチ食ってねぇぜ!」
そこへ、ベルがトコトコと歩み寄り、モジモジと下唇を噛みながらリオンを見上げた。
「愚兄……ううん、お兄様。わたくし……勝手に怒って変な怪獣を描いて、ごめんなさいですわ」
「ベル……」
「お兄様の言う通りですわ。うすしおもコンソメも、どっちも美味しいですわね。これからは、二人で分け合って食べますわ」
ベルが素直に謝ると、リオンは照れくさそうに笑い、ベルの頭をぽんぽんと乱暴に撫でた。
「おう! これからは『Wパンチ味』を二人で一袋ずつ山分けな!」
「きゃっ! 髪が崩れますわ愚兄! でも……ふふっ、約束ですわね!」
和解した二人の笑顔を見届け、コンソメ怪獣は満足そうに「ガオ〜♪」と鳴くと、光の粒子となって絵本の中へと静かに戻っていった。
「ふぅ……一件落着だな」
俺が温かいコーヒーを飲み干すと、レイカ姉さんが手帳を閉じ、満足そうに頷いた。
「見事なトラブルシューティングね、タクト。単一の主張を否定せず、シナジーを生む新商品開発へと繋げる……我が社の『お菓子事業ポートフォリオ』に素晴らしいアセットが追加されたわ」
「ハハ、みんなの協力のおかげだよ」
俺たちは顔を見合わせ、笑い合った。
(残り188日。明日は何が出る?)
【176日目時点の主要キャラクター紹介】
■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:ベルの絵本から現れたコンソメ怪獣の暴走を、味覚の多様性プロジェクトとして即座に再設計。兄妹の和解と新商品開発を見事に導いた。
■ ベルゼリカ(特別インターン) 状況:怒りに任せて描いたコンソメ怪獣を暴走させてしまうも、リオンの説得とタクトのPM力に救われ、兄と素直に和解してポテチを分け合う約束を交わした。
■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:ポテチの味を巡って妹と喧嘩するも、怪獣に対して兄としての情熱的な説得を展開。『Wパンチポテチ』で事態を解決し、兄の面目を保った。
■ シルフィ(社長秘書) 状況:スパイスの煙の中でも慌てず、全社員へのアナウンスとセシル厨房へのWパンチポテチ特急発注を見事にこなした。
■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:うすしおとコンソメの融合による『Wパンチポテチ』の市場価値を即座に試算し、新規ヒット商品としてのROIを高く評価した。
■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:怪獣のフェルト特性(衝撃吸収)を即座に見抜き、無駄な戦闘を避けて広場の安全確保を完璧に達成した。
■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂で怪獣のスパイス成分を爆速解析し、うすしお成分による緩和ロジックを提示して勝利に貢献した。
■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:Wパンチポテチの初回製造コストを即座に予算化し、全社員へのおやつ手当として経費処理を完了させた。
■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:全知監視網で広場内の安全避難ルートをリアルタイム案内し、二次被害ゼロを達成した。
■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:セシル総料理長と共に『Wパンチポテチ』の緊急製造を陣頭指揮し、熱い現場魂で最高のポテチを完成させた。
■ スー(清掃局長) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と元気に跳ねながら、広場に飛び散ったコンソメスパイスをピカピカに吸着清掃した。




