↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
175/183

第175話:【175日目】重力崩壊トイと、空中フライング作業

「ちょっと愚兄! 朝からわたくしの高級ポテチを勝手に袋ごと持って行こうとしないでくださりませ!」


「持って行こうとしてねぇよ! 俺のコンソメ味とベルの塩味が混ざりかけてたから仕分けてたんだよ! 髪を引っ張るな痛ぇっ!?」


 ホワイト株式会社の本社ビル、最上階の社長室。 今朝も朝一番から、ニートの兄リオンと「広報・イベント企画部」特別インターンのベルゼリカ(ベル)が、ポテチの袋を挟んでドタバタと不毛なキャッチボールを繰り広げていた。


「ハハ……毎朝本当に元気だな、二人とも」


 俺――代表取締役PMのタクトは苦笑しながら、淹れたての温かいコーヒーを口に運んだ。 デスクの傍らに戻ってきたクリスタルカレンダーの横では、秘書のシルフィが「ふふ、お二人とも本当に仲がよろしいですね」とお茶を淹れ直し、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんは手帳に目を落としたまま冷徹に告げる。


「不毛な戯れはそこまでにしなさい。1分の無駄な争いは朝のパフォーマンスを削ぐわ。さっさとカレンダーを更新しなさい」


「げぇっ、レイカ姉さんは今朝も容赦ないな……。よし、今日も俺がサクッと更新を――」


 俺が手を伸ばしかけた、その瞬間。 ベルがすばしっこく割り込み、クリスタルカレンダーの輝く画面を強引にスワイプした。


「させませんわ愚兄! 今日のドロップもわたくしがいただきますわッ!」


 残り190日 → 189日


 カレンダーの画面から、青銀色に輝く無数の星屑のような光が吹き出し、デスクの上に一個の金属製のおもちゃのようなコマが転がり出た。 精密なジャイロ機構が組み込まれており、中心部では青い魔導結晶がクルクルと高速回転している。


 SSR【重力無効ジャイロ(ゼロ・グラビティ)】


『※周囲の空間に存在する万有引力場を一時的に無効化し、一定範囲内の物体や生物を完全無重力状態へと転換する、高精度魔導空間制御デバイスです。※出力ダイヤルによって無重力エリアの半径を調整可能です』


「……はあ!? 重力無効ジャイロぉぉぉ!? なんだよそのヤバそうな物体はッ!?」


 床に倒れ込んでいたリオンが飛び起き、悲鳴を上げた。 レイカ姉さんも眼鏡のブリッジを細い指で押し上げ、鋭い分析眼でジャイロを見つめる。


「ほう。万有引力を遮断する空間干渉デバイスね。正しく制御すれば、超高層建築の資材吊り上げコストや、重量物の搬送エネルギーを理論上ゼロに抑えられる極めて価値の高い技術アセットだわ」


「ふふ〜ん! 流言はおやめなさいなレイカお姉様! こんなに綺麗にクルクル回るおもちゃ、もっと面白く使って見せますわ!」


 ベルは面白がってジャイロを手に取ると、側面に付いていたゴールドの小さなツマミを『最大出力』へとカチリと回してしまった!


「あっ、バカ! 適当にダイヤルを回すな――!?」


 リオンの静止の声も虚しく、ジャイロの中心部が「キュイイイーンッ!」と澄んだ高音を奏で、半径数百メートルを包み込む青銀色の力場が爆発的に広がった!


 フワッ…………!


「……え?」


 直後、社長室にあったすべての物体――デスク、チェア、書類、ポテチの袋、さらにはタクトたち全員の体が、フワリと浮き上がり始めた!


「きゃあああぁぁっ!? から、身体が浮きますわぁぁぁっ!?」 「うおぉぉっ!? ポテチが空中を舞ってるぅぅっ!? 俺のコンソメ味がぁぁっ!?」


「静かにしなさい! 足をバタバタさせても推進力は得られないわ!」 レイカ姉さんすらも浮遊しながら、冷静に姿勢制御を試みている。


 だが、大騒動は社長室だけ留まらなかった。 崩れた窓の外を見下ろすと、本社ビル周辺の広場や、現在建設中だった大規模な複合商業施設ゾーン全体にまで無重力エリアが拡大していたのだ!


「ひぇぇぇっ!? 身体が浮くぞーっ! 落ちるぅぅ……じゃなくて浮いてるぅぅっ!?」 「材木や石材がふわふわ飛んでいくぅぅっ! 助けてくれぇっ!」


 現場で高所作業や資材搬入を行っていたオークの作業員たちや、資材を積んだリアカー、さらには通行人たちまでが、ふわふわと上空数十メートルの空中へ浮かび上がり、大パニックになりかけていた。


「な、なんてことですの……! わたくし、ただコマを回してみただけですのに……っ!」


 空中で手足をバタバタさせながら、ベルが青ざめた顔で半泣きになった。


「どうしよう……! 建設中の建物も作業員さんも、みんなお空へ飛んでいってしまいますわぁぁっ!」


「落ち着け、ベル!」


 俺は泳ぐように空中を掻き、浮遊していた柱を掴んで姿勢を固定した。 そして、眼下の空中へ浮かび上がる現場の状況を素早く観察する。


 重力は完全にゼロになっているが、風は穏やかだ。作業員たちに怪我はなく、ただ足場を失って空中を漂っているだけ。 さらに、重い石材や鋼鉄の資材が無重力によって「指一本で楽々動かせる状態」になっている!


「これは……パニックになる必要はない! むしろ、超高層の建設作業において『重量と落下の危険』が完全に消えた最高のチャンスだ!」


 俺は即座にインカムを起動し、全社緊急ラインへ指示を飛ばした。


「全幹部、ならびに現場作業員へ通達! PMのタクトだ! 現在、一時的な『無重力エリア』が発生している! 危険性はない! ただちに【全自動・空中フライング建設&修繕プロジェクト】を開始する!」


 インカムから、幹部たちの声が次々と跳ね返ってくる。


『了解ですぞタクト殿! 重力遮断フィールドの安定度100%! 重力酔いを防ぐための超極小平衡バッファを全端末にデプロイしましたぞ!』 最高デジタル責任者《CDO》のネクロディアが、空中に浮かびながら爆速でキーボードを叩いて答える。


『現場の安全確保、完了した! 「白馬の騎士」の飛空艇三隻を上空に展開! 作業員全員に安全ロープ(命綱)を接続し、相互命綱バリアを構築した! 怪我人はゼロだ!』 最高安全責任者《CSO》のザンギュラが、大盾を抱えて空中で堂々と仁王立ちしながら指示を出す。


『ふふ、見事だわタクト。重量ゼロなら大型重機の燃料費を100%カットできるわ。商業施設の建設工期を、一気に三日短縮できる計算よ!』 レイカ姉さんもノリノリで試算シートを更新している。


「よし! アーサー、飛空艇から資材のベクトル制御をお願いします! 黒崎さんとスーちゃんは小物の回収ラインを!」


『おうよ社長! 無重力だろうが現場の整理整頓は俺たちの領域だ! スー局長、いくぜ!』 『ぷるるっ! ぷるぷるっ!』 モップを持った黒崎とスーちゃんが、散らばった小物を空中ダンスのような連携で手際よく回収していく!


「さあ、作業員のみんな! 重力がない今なら、どんなに重い資材も羽毛みたいに軽々と運べるぞ! 空中フライング作業開始だ!」


 タクトの呼びかけに、最初はおどおどしていたオークの作業員たちが、浮かび上がる巨大な石柱を指一本でスイスイと運べることに気づき、目を輝かせた。


「す、すげぇぇっ! トラック三台分の石材が、指先ひとつで空を飛ぶぞっ!」 「足場がいらねぇ! 高所作業の恐怖がゼロだぁぁっ!」


 飛空艇からのワイヤーと命綱で安全を完璧に確保された作業員たちは、空中で自由自在に身を踊らせながら、巨大な建築フレームを組み立てていく。 まるで空中サーカスのような、華やかで超効率的なフライング建設作業が繰り広げられたのだ!


「すごいですわ……! 重力がなくなって大惨事になるどころか、みんな空を楽しそうに飛びながら、お城みたいな建物をあっという間に組み立てていますわ……!?」


 ベルは、目を丸くしてその夢のような光景を見つめていた。


「どんな予期せぬ制約や環境の変化も、発想の転換とタスク管理で『最大の強み』に変える。それが俺たちPMの仕事さ」


 俺は空中でベルの隣へ漂い寄り、温かい笑みを向けた。


「ベルの好奇心が、工事の遅れていた商業施設の建設を一気に進めてくれたんだ。ありがとうな」


「タクト……っ」


 やがて、数日分の建設作業をわずか二時間で終わらせた頃、ジャイロの魔力エネルギーが安全に分散・消化された。


「重力復元プロトコル、段階的に開始しますぞ!」 ネクロディアの操作により、重力がふんわりと優しく地上へと戻っていく。


 フワリ……と全員が安全に地面や完成したばかりの商業施設デッキへと着地した。


 広場からは、地上と空中を制覇した作業員たちの大歓声が沸き起こった!


「「「うおおおっ! 楽しかった上に仕事が三日分も終わったぞぉぉっ! ホワイト会社最高ッ!」」」


「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」 スーちゃんも無事に回収したポテチの袋をリオンへ手渡し、嬉しそうに身を弾ませた。


「ふぅ……今日も無事に収まったな」


 俺が汗を拭うと、ベルは自分のジャイロを大切そうに抱え、少し顔を赤くして下唇を噛んだ。


「……また、わたくしの軽はずみな行動でご迷惑をおかけしましたわ、タクト。でも……とっても凄かったですわ!」


「ああ! 明日もまた素晴らしいイベントを一緒に創ろう、ベル」


 俺が微笑んで頭を撫でると、ベルは「はいですわっ!」と嬉しそうに咲くような笑顔を見せた。


(残り189日。明日は何が出る?)

【175日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:無重力空間の発生を『高層フライング建設の好機』と即座に再定義。工期三日短縮と作業員の安全確保を見事に両立させた。


■ ベルゼリカ(特別インターン) 状況:ジャイロのダイヤルを回して無重力パニックを起こすも、空中建設の大成功とタクトの柔軟なPM力に感服し、さらに素直さを増している。


■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:空中に舞ったポテチを回収しようと必死に空中を泳ぎ、無事にスープラスーちゃんの連携で回収されて安堵した。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:無重力下でも姿勢を崩さず、空中で温かいお茶のトレイを水平にキープする驚異的な秘書スキルを発揮した。


■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:無重力環境による重機燃料費カットと工期短縮効果を弾き出し、商業施設ゾーンの早期収益化スキームを完成させた。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:飛空艇と命綱バリアによる「完全無重力安全プロトコル」を即座に構築し、怪我人ゼロの鉄壁防衛を達成した。


■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂で無重力環境用・平衡バッファコードを爆速デプロイし、作業員の重力酔いを防ぎ切った。


■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:工期短縮によって削減された人件費と重機レンタル費を、全作業員への『フライング特別安全手当』として即座に還元した。


■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:全知監視網で空中の全資材の慣性ベクトルを計算・トラッキングし、衝突事故のない超安全な空中作業をナビゲートした。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:モップを足に括り付けて空中を滑空し、散らかった書類や資材を完璧に回収・整理整頓してみせた。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と愛らしく鳴きながら空中で球体状になり、黒崎と共に散らかった小物を完璧にお掃除した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。