第174話:【174日目】わがまま姫の『1日社長』ごっこ
「ちょっと愚兄! わたくしの特製おやつゼリー、勝手に一口食べたでしょう!?」
「食ってねぇよ! なんで俺がベルの怪しい色のゼリー食わなきゃなんねぇんだよ! 俺はポテチ食ってんだろ!」
ホワイト株式会社の本社ビル、最上階の社長室。 今朝も朝一番から、ニートの兄リオンと「広報・イベント企画部」特別インターンのベルゼリカ(ベル)が、おやつの争奪戦を繰り広げていた。
「ハハ……まあ二人とも落ち着け。そろそろ朝のカレンダー更新の時間だぞ」
代表取締役PMの俺――タクトは苦笑しながら、デスクの傍らに戻ってきたクリスタルカレンダーへと視線を向けた。 横では秘書のシルフィが「ふふ、お二人とも本当に賑やかですね」と温かい紅茶を注ぎ、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんは手帳を開いたまま冷静に告げる。
「不必要な口論は時間の無駄よ、リオン、ベル。投資効率の観点から言えば、1分の遅延は会社全体の生産性を削ぐわ。タクト、さっさと更新を終わらせなさい」
「ああ、よし。本日のアップデートを開始する――」
俺が手を伸ばしかけた瞬間、ベルがサッと横から割り込み、クリスタルカレンダーの輝く画面を強引にスワイプした。
「させませんわ! 今日のドロップもわたくしがいただきますわ!」
残り191日 → 190日
カレンダーの画面から、絢爛たる金と紫の光があふれ出し、デスクの上に一個の重厚な黄金のバッジがコロンと転がり出た。 鷲の紋章と王冠がデザインされた、いかにも高貴で威厳あふれるブローチのようなバッジだ。
SSR【絶対権限バッジ】
『※装着者に二十四時間限定で、組織における最高意思決定者としての絶対的な指揮権限を付与する特殊魔導バッジです。※発令された命令は臨時会社規約として登録され、全構成員に強制適用されます』
「……はあ!? 絶対権限バッジぃぃぃ!?」
床でポテチを食っていたリオンが飛び起き、目玉を飛び出させんばかりに叫んだ。
「ちょっと待てベル! それは絶対に胸につけるな! ヤバすぎるアイテムだぞっ!?」
「ふふ……ふははははっ! 天はわたくしに味方しましたわ!」
高笑いを上げたベルは、リオンの制止を完全に無視して、バッジを自分のドレスの胸元にパチンと装着した!
瞬間、バッジから眩い黄金の光が放たれ、社内通知システムを通じて全社員の端末に緊急アナウンスが響き渡った。
『最高権限発令:本日限定で、ベルゼリカ特別インターンが「臨時代表取締役社長」に就任いたしました。社長指示は全社最優先タスクとなります』
「今日からこのわたくしが、ホワイト株式会社の『1日社長』ですわッ!」
ベルは胸を張り、社長デスクのレザーチェアにドカッと深々と腰掛けた。
「さて、社長としての最初の指示を発令しますわ! 第一! 全社員は1時間ごとに高級スイーツを食べることを義務付けます! 第二! 本日の定時退社時刻は14時とします! 第三! 午後までに村の大広場に巨大なテーマパークを作りなさい!」
「む、無茶苦茶だぁぁぁっ!?」
リオンが頭を抱えて叫んだ。
社内通信システムを通じてベルの指示が全村に伝わると、広場や作業現場から地響きのような大歓声が巻き起こった。
「「「うおおおっ! 1時間ごとにスイーツ支給!? しかも14時退社!? ベル新社長最高だぁぁぁっ!!」」」
「ちょっとタクト! みんな大喜びしてるけど、こんなの絶対に現場が崩壊するぞ! 14時に全員上がったら、今日納期の建設資材も物流ラインも全部止まっちゃうだろ!?」
リオンが焦りまくって俺の服の袖を引っ張る。
俺は冷静に手帳を開き、ベルの発令した三つの指示をタスク化して分析した。
「大丈夫だ、リオン。一見無茶苦茶に見える指示だが、ちゃんとPMのフレームワークで組み替えれば、会社にとって絶大なメリットに変えられる」
「……なんですって?」
社長チェアにふんぞり返っていたベルが、驚いたように目を丸くした。
俺はインカムを起動し、全社緊急ラインを開いた。
「全幹部、ならびに全社員へ通達! PMのタクトだ! ベル新社長の指示に基づき、ただちに【超集中スプリント&ホワイト・スイーツ試食R&Dプロジェクト】を開始する!」
幹部たちから即座にレスポンスが跳ね返ってくる。
『了解ですぞタクト殿! 14時退勤を実現するため、ポモドーロ・テクニックを応用した「4時間超集中開発スプリント」を全開発ラインにデプロイ! 無駄な会議と待ち時間を完全排除し、生産性を200%へ引き上げますぞ!』 最高デジタル責任者《CDO》のネクロディアが、骨の指を爆速で叩きながら答える。
『ふふ、面白いわね。1時間ごとのスイーツ試食は、セシル総料理長が開発中の「新ブランド・ホワイトスイーツ」の全社モニタリングテストとして位置付けるわ。全社員のフィードバックデータを回収し、明日からの外部外販スキームへ組み込めば、ROI 250%の新規事業になるわ』 最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんも、眼鏡を光らせて計算シートを書き換えている。
『テーマパークの建設も問題ありません! 白馬の騎士と警備隊で安全エリアを即座に区画整理! シオンの全知ホログラムとスー隊のモップがけで、一時間で巨大ポップアップ・アトラクションを組み上げます!』 最高安全責任者《CSO》のザンギュラが、豪快に笑いながら指示を出した。
「よし! 黒崎さん、各現場の進捗管理と、14時ピッタリ退勤のための交通整理をお願いします!」
『おうよ社長! 14時定時退勤なんて最高じゃないか! 元ブラックCEOの意地にかけて、一分の遅延もなく全員を定時で上がらせてやるぜ!』 モップを担いだ見習い清掃員の黒崎が、熱い現場魂で声を張り上げた。
「な……なんなのですかこれは……!?」
ベルはポカンと口を開けて、俺の顔とホログラムモニターを交互に見つめた。
自分が出したはずのわがままな指示が、タクトの手によって一瞬にして「超効率スプリント」「新規事業のR&D」「福利厚生イベント」へと完璧に再設計されていく。
午前中の4時間、全社員は100%の集中力を発揮して日常業務を爆速で完了させ、1時間ごとに配給される美味しいスイーツを味わいながらフィードバックを端末に入力。
そして14時ちょうど――。
「「「14時定時退社だーっ! ベル社長ありがとーっ!」」」
全社員が無事に業務を完了し、村の大広場に完成した巨大なポップアップ・テーマパークへと笑顔で繰り出したのだ!
広場には全知ホログラムによる巨大迷路や、スーちゃんのモチモチ滑り台、美味しいスイーツの屋台が立ち並び、村全体が祭りのような歓喜に包まれた。
「う……嘘でしょう……? わたくしの無茶苦茶な指示が、どうして全部うまくいっていますの……?」
広場の特設ステージで、全社員からの大歓声を浴びながら、ベルは呆然と立ち尽くしていた。
「これがPMの仕事だよ、ベル」
俺はベルの隣に歩み寄り、優しく微笑んだ。
「どんなに突飛に見えるアイデアやわがままでも、否定せずに『どうすれば実現できるか』を考えて組み替える。それができれば、わがままは最高のイノベーションの種になるんだ」
「タクト……」
「今日一日、社長お疲れ様。君のおかげで、新しいスイーツ事業のデータも集まったし、社員のモチベーションも最高潮だ。最高の1日社長だったよ」
俺が優しく頭を撫でると、ベルは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「う、ううっ……! わたくしを子供扱いしないでくださいたまに……! でも……少しだけ、楽しかったですわ……っ!」
24時間が経過し、胸のバッジが光を失って静かに消滅していった。
「ふぅ……社長って、すごく頭を使うし疲れるのですわね……。わたくし、やっぱりイベント企画の見習いが性に合っていますわ……」
疲れた様子でポテチを齧るベルの姿に、リオンも「へっ、少しは苦労が分かったかよ」と笑いながら、炭酸水のボトルを手渡した。
(残り190日。明日は何が出る?)
【174日目時点の主要キャラクター紹介】
■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:ベルの『1日社長』による無茶苦茶な指示を、超効率スプリントと新規事業R&Dへと見事に再設計。社内のエンゲージメントと生産性を極大化させた。
■ ベルゼリカ(特別インターン) 状況:『絶対権限バッジ』で1日社長に就任し無茶振りをするも、タクトの神アレンジと社員の笑顔に感銘を受け、PMの凄さを再認識した。
■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:妹の暴走にヒヤヒヤしながらも、14時退勤とテーマパークを満喫。少しずつ兄としての気遣いを見せ始めている。
■ シルフィ(社長秘書) 状況:1日社長となったベルのサポートを手際よくこなし、全社へのアナウンスとスイーツ試食データの回収を完璧に統括した。
■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:1時間ごとのスイーツ試食を新商品『ホワイトスイーツ』のR&Dテストとして位置付け、ROI 250%の新規事業化スキームを即座に構築した。
■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:14時からのポップアップ・テーマパーク建設において安全区画を完璧に整理し、事故・怪我人ゼロでイベントを大成功させた。
■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂でポモドーロDXスプリントを全ラインにデプロイし、無駄な待ち時間を削ぎ落として4時間で全業務を完了させた。
■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:新規スイーツ事業の見込み収益と、超効率スプリントによる残業代削減コストを合算し、最高の決算予測を叩き出した。
■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:全知ホログラムをテーマパークのアトラクション(巨大迷路・立体映像)として提供し、子どもたちや社員を大喜びさせた。
■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:14時定時退勤のための現場交通整理を徹底指揮。「定時退勤こそ現場の誇り」と熱く現場を引っ張った。
■ スー(清掃局長) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と元気に跳ねながら、テーマパークのモチモチ巨大滑り台として大活躍し、イベント後の清掃もピカピカに仕上げた。




