第171話:【171日目】魔王城のわがまま姫と、奪われた日めくり
ホワイト村が完全復旧を果たし、新体制での『グランドリオープン』から一夜が明けた、清々しい朝。
ホワイト株式会社の本社ビル最上階・社長室には、いつもの温かい日常が戻っていた。
「社長、本日の朝礼準備および全ラインの稼働チェック、完了いたしました!」
秘書のシルフィが、淹れたてのハーブティーをトレイに載せて報告してくれる。
「ありがとう、シルフィ。今日も絶好のオフィス日和だな」
窓の外ではオークやゴブリンの作業員たちがラジオ体操に励み、食堂からはセシルさんの焼くパンの香ばしい匂いが漂っている。
デスクの傍らには、戻ってきたクリスタルカレンダーが朝日に反射して虹色の光を放っていた。
「へっへー! やっぱり社内の空気は最高だな! ポテチ食いながらゲームするのも、平和があってこそだぜ!」
ニートの見習い社員リオンが、ソファでコンソメ味のポテチを口に放り込んでいる。 隣では、最高投資責任者《CIO》のレイカ姉さんがスマートタブレットでROI(投資対効果)をチェックしながら溜息を吐いていた。
「リオン、勤務時間中に横になるのは規律違反よ。あとで成果報告書を提出しなさい」
「げぇっ!? レイカお姉様、相変わらず厳しすぎるって……!」
和やかなやり取りを眺めながら、俺は手帳を開いた。
「よし、それじゃあ171日目の日めくりをやるか」
俺がカレンダーへ手を伸ばした、まさにその瞬間だった。
――ズギャァァァンッ!!
重厚な破裂音が響き、社長室の空間が紫色の魔導光とともに引き裂かれた。
「な、なんだ!? 空間転移……!?」
ザンギュラCSOが瞬時に大盾を構え、黒崎さんとスー局長も警戒態勢に入る。
亀裂の中から飛び出してきたのは、ド派手なフリルをまとった高慢な笑みの少女だった。
「おーほほほほっ! 見つけましたわよ、愚兄リオンッ!」
「ぶっ!? ゲホッ……! べ、ベル!? なんでここにいるんだよぉっ!?」
ポテチを詰まらせるリオン。現れたのはリオンの実の妹――ベルゼリカだった。
「兄がホワイト会社でぬくぬくポテチを食べてるなんて許せませんわ! 妹のわたくしを置いて、自分だけホワイトな生活を送るなんて万死に値しますのよッ!」
「知るかよ! 俺は仕事としてポテチ食ってんだよ! お前こそ魔王城で宿題してろッ!」
不毛な兄妹喧嘩を始める二人。だが、ベルゼリカの赤い瞳がカレンダーを捉えた。
「あら……? これが噂の『確定ドロップカレンダー』ですのね? フフン、面白そうな魔導具じゃない!」
「あっ、触るなベル! それはタクトの――」
リオンの制止も聞かず、ベルゼリカは素早い動きでカレンダーを奪い取った!
「わたくしは魔王城の誇り高き姫! このカレンダーにふさわしいのはわたくしですわ! いきますわよッ!」
「待つんだ、ベルちゃん!」
俺の制止も届かず、ベルゼリカの指先が画面を力強くスワイプした!
残り194日 → 193日
ゴォォォォッ……!!
輝く黄金の光の中から現れたのは、ド派手な赤と金の彫刻が施された魔導メガホンだった。
SSR【広域魔導メガホン】
『※吹き込んだ音声や主張を広域へ拡散し、聴衆の脳内へ最優先タスクとして強制通知する高品質な魔導メガホンです』
「きゃははっ! 金ピカのメガホンが出ましたわ!」
ベルゼリカは目を輝かせると、思い切り息を吸い込んだ。
「全村の愚民ども、聴きなさいッ! 本日からこの村の主役は、このわたくしベルゼリカですわ! 今すぐわたくしに『最高級のお菓子とおもちゃ』を献上しに来なさいッ!!」
「しまっ――! 使っちゃ駄目だッ!」
音波のリングが本社ビルを突き抜け、村全体へ拡散した。
キィィィン……!
村中で作業していた住民や作業員の頭上に、一斉に真っ赤な緊急タスクがポップアップした。
『【緊急最優先タスク】:ベルゼリカ姫へ最高級のお菓子とおもちゃを今すぐ献上せよ』
「うおぉぉぉっ!? 体が勝手に動き出すぞぉぉっ!」
メガホンの強力な強制タスク付与により、人々がパンやお菓子を抱えて本社ビルへ大殺到し始めた!
「社長! 本社ビルの前に数千人が大殺到していますの!」 シルフィがモニターを見て悲鳴を上げる。
「おーほほほっ! わたくしのカリスマにひれ伏して集まってきますわ!」高笑いするベルゼリカ。
「笑ってる場合かバカ妹! 業務が完全停止してんだろぉがッ!」叫ぶリオン。
「タクト、強制的なタスクオーバーロード状態よ。どう処理するの?」レイカ姉さんが尋ねてくる。
俺は深呼吸し、タスク管理スキルをフルドライブさせた。
「パニックになる必要はない! 押しかけてきたみんなのエネルギーとお菓子を、正しく『整理・分配』すればいいんだ!」
俺はインカムを装着し、的確な指示を飛ばした!
「ザンギュラCSO、本社ビル前に『全自動誘導レーン』を設置! 3列に安全整理してくれ!」 「任せろ! 『安全第一』の誘導柵、デプロイするぞ!」
「ネクロディアCDO、シオンCIO! タスクを『お菓子交換フェスティバルへの参加』へ書き換えてくれ!」 「了解ですぞ! 3秒で書き換えます!」
「グレイシアCFO、集まったお菓子を『特別おやつプール』として全部署へ再分配するスキームを!」 「お任せくださいませ、最高の満足度ポートフォリオを構築いたしますわ」
「黒崎さん、スー局長! 本社ロビーにお菓子検品ラインを立ち上げだ!」 「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」「元ブラックの検品スピードを見せてやるぜ!」
俺の指示のもと、ホワイト村の組織力が一瞬にして爆発した。
大殺到した群衆はザンギュラの誘導柵で整列され、ネクロディアとシオンのデータ書き換えで正気を取り戻した。
「ハッ!? 俺はなんでパンを……」「おお! 『お菓子交換フェスティバル』か! 珍しいお菓子と交換できるんだな!」
混乱は一瞬にして大賑わいの「全社おやつ交換イベント」へ昇華され、集まったスイーツはグレイシアの手でフェアに配給され、現場の満足度は急上昇した。
*
夕方。イベントが無事に終わり、静かになった社長室。
ソファでは、ベルゼリカが特製スイーツを食べながら呆然としていた。
「な……なんですの、今の連携は……。大混乱を一瞬で楽しいイベントに変えてしまうなんて……」
「これがホワイト株式会社の現場力とPMだよ、ベルちゃん」 俺は微笑み、ベルゼリカの目線に合わせてかがんだ。
「ベルちゃんは注目を集める才能がすごいね。メガホンの使い方は少し強引だったけど、ベルちゃんのおかげで、みんなが美味しいお菓子を食べて笑顔になれた」
「えっ……? わ、わたくしを褒めていますの……?」照れるベルゼリカ。
「ああ。だからさ、ただ暴れるだけじゃもったいない。ベルちゃんのアピール力、うちの『広報・イベント企画部』で活かしてみないか?」
「ええっ!? スカウトですの!?」
驚くベルゼリカに、リオンがニッと笑う。「良かったなベル! 俺の下で『イベント見習い』として働けば、毎日美味いもん食べながら目立てるぞ!」
「誰が愚兄の下になんて就きますのよッ! わたくしは特別インターンとして、お兄様より上を目指しますわッ!」
ぷいっと横を向くベルゼリカだったが、手にはタクトの『イベント企画メモ』を固く握りしめていた。
レイカ姉さんも目を細める。「フフ……人の強みを活かす見事な人材配置ね、タクト」
こうして、わがまま姫ベルゼリカを巻き込み、ホワイト株式会社のさらに賑やかな日常が幕を開けたのだった。
(残り193日。明日は何が出る?)
【171日目時点の主要キャラクター紹介】
■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:ベルゼリカの乱入とメガホンの大混乱を、即座のタスクアサインとお菓子交換イベント化で見事に解決。彼女の才能を評価しイベント企画へスカウトした。
■ ベルゼリカ(魔王城のわがまま姫) 状況:兄リオンを追ってホワイト村へ突撃。カレンダーを奪ってメガホンを起動し大騒動を起こすも、タクトの神対応に感服しイベント企画の特別インターンへ。
■ リオン(広報・エンタメ事業部見習い(元・魔王の息子)) 状況:突如現れた妹ベルゼリカと不毛な兄妹喧嘩を展開。妹がホワイト会社の仲間に加わり、口では文句を言いながらも少し嬉しそうにしている。
■ シルフィ(社長秘書) 状況:突如押し寄せた群衆に驚きつつも、タクトの指示に従ってイベントの運営サポートを完璧にこなした。
■ レイカ(ホワイト株式会社 最高投資責任者(元・魔王軍臨時CEO)) 状況:タクトのトラブルシューティング力と柔軟な人材活用を「見事な組織管理」と高く評価している。
■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:『安全第一』の誘導柵を展開し、本社ビル前に大殺到した数千人の群衆を怪我人ゼロで安全に誘導・整理した。
■ ネクロディア(CDO(最高デジタル責任者)) 状況:「〜ですぞ!」の技術者魂でメガホンの思考ジャックプロトコルを即座に書き換え、混乱をイベント参加タスクへ変還させた。
■ グレイシア(CFO(最高財務責任者)) 状況:集まった膨大な献上品のお菓子を全社員の福利厚生・おやつプールとして最適分配し、社員満足度を爆上げさせた。
■ シオン(CIO(最高情報責任者)) 状況:ネクロディアと連携し、全村への緊急通知プログラムを安全なイベント案内に上書き・正常化させた。
■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:元ブラックCEOの眼光で膨大なお菓子の検品・仕分けラインを主導し、迅速なイベント運営に貢献した。
■ スー(清掃局長) 状況:言葉は話さず「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」と元気に跳ねながら、お菓子の仕分けとイベント後の清掃をピカピカに仕上げた。




