第17話:【17日目】SSR「引退聖女」のドロップと、ブラック教会からの脱却
スライムのスーを清掃局として採用した翌日。
村の人口は三十人を超え、食糧(世界樹の野菜)の生産量も莫大なものになっていた。
ここでPMとして直面する新たな課題が、「調理」だった。
三十人以上の三食を、シルフィとルナが交代で作ってくれているが、さすがに負担が大きい。それに、毎日同じような焼き芋やトマトスープでは、いくら素材が美味しくても福利厚生として満点とは言えない。
「食」の充実は、社員のモチベーションに直結する。
「今日は、調理の専門家か、加工ツールが欲しいところだな」
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り349日」の紙をめくった。
カレンダーはいつだって、俺の隠れたニーズを完璧に満たしてくれる。
黄金の光が収束し、そこに現れたのは――純白の修道服に身を包んだ、銀髪の美しい女性だった。
しかし、彼女の様子はおかしい。目の下に濃いクマを作り、フラフラと足元をおぼつかせながら、虚ろな目で宙を見つめている。
「あ、ああ……神よ……。もう三徹です……。祈りの力も、底を突きました……」
バタリ。
女性は俺の目の前で、顔から地面に倒れ伏した。
『SSR人材【引退した元・聖女セシル】を獲得しました』
『※国家の筆頭聖女として酷使され、過労で限界を迎えた治癒と浄化のスペシャリスト。実は料理がプロ級です』
「また過労死寸前のブラック被害者か!!」
俺は慌てて彼女を抱き起こし、ルナに指示を出して救護テント(最近ガルドが広場の横に建てた休憩所)へと運んだ。
シルフィが治癒魔法をかけようとするが、彼女自身が強力な聖女であるためか、ただの「極度の睡眠不足と栄養失調」であることが判明した。
「……はっ!?」
数時間後、休憩所のベッドで跳ね起きたセシルは、周囲を見回してパニックに陥った。
「わ、私は……っ! いけない、勇者様たちのポーション作りと、王都の浄化結界の維持をやらなくては! 大司教様にまた怒られてしまうっ!」
「落ち着け、セシル」
俺は彼女に、温かい果実水を入れたコップを差し出した。
「君はもう、王都の教会にはいない。俺が引いた『日めくりカレンダー』の力で、この村にやってきたんだ。もう祈らなくていいし、結界の維持もやらなくていい」
「え……? そんな、私は聖女ですよ? 祈り、癒やし続けるのが私の使命……」
「前職の肩書きは関係ない。この村では、君が『やりたいこと』を仕事にしてほしい」
カレンダーの補足説明(実は料理がプロ級)を思い出しながら、俺は尋ねた。
「セシル。君は本当は、何をするのが好きだったんだ?」
「私が……やりたいこと……」
セシルは呆然とコップを見つめ、やがてポツリとこぼした。
「……本当は、料理が好きでした。孤児院にいた頃、みんなに温かいスープを作って、笑顔を見てもらうのが一番好きだったんです。でも、聖なる魔力が見つかって、教会に連れて行かれて……『料理などという下賤な真似はするな。ただ祈れ』と、一日二十時間、地下室で祈り続ける毎日で……っ」
彼女の目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
前世の俺のトラウマが、またしてもチクチクと痛んだ。現場の声を無視し、適性のない仕事を強要するブラック経営。許せない。
「よし、決まりだ」
俺はメモ帳を取り出し、新たな役職を書き込んだ。
「セシル。今日から君は、このホワイト村の『総料理長』だ。聖女なんて辞めてしまえ。君の好きな料理で、この村の三十人の胃袋を満たしてくれ」
「りょうり、ちょう……? 私が、料理をしていいのですか?」
「ああ。食材は世界樹の野菜が山ほどある。好きなだけ腕を振るってくれ。ただし――」
俺は彼女の目を見て、はっきりと告げた。
「労働時間は1日8時間。週休二日は絶対だ。徹夜で仕込みなんて絶対に許さないからな」
セシルは信じられないものを見るような目で俺を見つめた後、やがて花がほころぶような、本当に美しい笑顔を見せた。
「はい……っ! 私、とびっきりの料理を作りますっ!」
こうして、村に最強の「胃袋の管理者」が誕生した。
(残り348日。明日は何が出る?)




