第16話:【16日目】迷子のスライムと、清掃局の設立
絶対防御の結界を張った翌日。
村はかつてないほどの平穏に包まれていた。魔物の侵入を気にする必要がなくなったため、ルナたち警備部隊も、農作業のサポートや村内のパトロールという軽作業に切り替わっていた。
「村長ーっ! ちょっと来てください!」
朝食後、村の入り口付近をパトロールしていたルナから声がかかった。
駆けつけてみると、ルナと数人の獣人が、地面をじっと見つめている。
「どうした? 結界に何か不具合でもあったか?」
「いえ、そうじゃないんです。結界を『通り抜けて』きたやつがいるんです」
ルナが指差した先。
そこには、半透明の水色をした、ぷるぷると震えるゼリー状の生き物がいた。
ファンタジー世界最弱の代名詞、スライムだ。
「結界を通り抜けた……? だが、あの結界は『敵意を持たない者』なら通過できる仕様だぞ」
「はい。たぶんこの子、ただ村の温泉の匂いか何かに釣られて、ぼーっと入ってきちゃったみたいで。攻撃してくる様子は全くありません」
ぽよん、ぽよん。
スライムは俺の足元まで転がってくると、そのまま俺の靴の横に落ちていた「野菜の切れ端(昨日の夕食のゴミ)」を、体内に取り込んで溶かし始めた。
「……ほう。ゴミを食べてくれるのか」
「スライムは雑食ですからね。有機物ならなんでも溶かして消化しちゃいますよ」とシルフィが補足する。
俺のPMとしての脳裏に、またしても新たなソリューションが閃いた。
「ルナ。この村の人口が三十人を超えて、そろそろ『生ゴミ』や『不用品』の処理がタスクとして重くなってきたところだった」
「あ、はい。今は広場の隅に穴を掘って埋めていますが……」
「このスライムを、村の『清掃局(ゴミ処理班)』として採用しよう」
「ええっ!? 魔物をですか!?」
俺はスライムの前にしゃがみ込み、話しかけた。
「おい、スライム。お前、毎日お腹いっぱいゴミ(餌)を食べたくないか?」
「ぷるっ?」
「うちの村で清掃員として働けば、毎日大量の生ゴミを支給する。外で腹をすかせて魔物に怯える必要もない。どうだ?」
ぽよよんっ!
スライムは嬉しそうに跳ねた。言葉は通じなくても、なんとなく意思疎通はできているらしい。
「よし、採用だ。名前は……『スイーパー(清掃者)』をもじって『スー』でどうだ」
「ぷるるっ!」
こうして、村に初めての「魔物」の社員が誕生した。
スーの働きぶりは完璧だった。各家庭の前に置かれたゴミ箱(ガルド作)を毎朝ぽよぽよと巡回し、生ゴミや木くずを綺麗に消化してくれるのだ。
おまけに、スーが通った後の地面はなぜかピカピカに磨き上げられており、村の景観維持にも一役買っていた。
「適材適所。どんな存在にも、輝けるポジションがあるってことだな」
ピカピカになった広場で、俺は満足げに頷いた。
カレンダーのドロップ(今日はSSRの高級ベッドセットだった)と、住人たちの協力により、ホワイト村は着実に「完全な自律都市」へと近づいている。
魔王復活まで、残り349日。
準備は、あまりにも順調すぎた。
(残り349日。明日は何が出る?)




