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第166話:【166日目】牢獄の『安全第一』と、CSO電撃救出作戦

「キタキタキタァァァッ! 166日目の日めくり完了だッ! 今日こそ、俺のためにポテチとゲームを運んでくれる最強の全自動ぐうたら執事をドロップしてくれぇぇッ!」


 魔王城の地下司令部。 ニートの息子リオンは、昨日届いたという不穏な『ノイズアラート』を気にするレイカの横で、クリスタルカレンダーへと飛びついた。 隣では、黒いストライプスーツを完璧に着こなしたレイカが、眼鏡の奥の瞳を険しく光らせながらコンソールを操作している。


「さあ、めくるぞ!」


 リオンが166日目の魔導シートを勢いよくスワイプした。


 残り199日 → 198日


 シートから溢れ出した白銀の光の中から現れたのは、小さな商店や施設で使われるような、掌サイズの素朴な真鍮製の鍵束だった。


 SSR【魔導・鍵束(マナ・キー)】


『※多数のドアや保管庫の鍵を整理し、魔力伝達によってスムーズに一括管理するための高品質な魔導鍵束です』


「……はあ!? ランタンの次は、ただの鍵束ぁぁぁ!? 鍵っ子にでもなれってのかよッ!」


 リオンが頭を抱えて叫ぶが、レイカはその鍵束を細い指先でつまみ上げ、冷徹な笑みを浮かべた。


「ただの鍵束? 違うわ、リオン。これは占領地全域の自動ドア、ゲート、探知柵、そして地下牢獄の全ロックを中央から強制制御・一括封鎖する、完璧な『全域統括鍵(マスター・キー)』よ」


 レイカは流れるような手つきで鍵束を制御コンソールへと組み込み、占領地全域のセキュリティレベルを最高ランクに引き上げた。


「シオンのアクセス遮断ノイズの解析と並行して、全施設の鍵プロトコルを更新しなさい。ネクロディアのシステム、グレイシアの財務、そしてこの統括鍵があれば、ネズミ一匹の侵入すら不可能な絶対要塞が完成するわ」


「……御意に……レイカお姉様……」


 司令部の影で、シオン、ネクロディア、グレイシアの三人は、静かに、そして深く頭を下げた。


 *


 同じ頃、魔王城の地下深くに存在する、冷たく暗い地下牢獄。


 カチャン、カチャンと重い鉄格子の音が響く深層の石牢で、手足を巨大な魔導鎖で拘束された最高安全責任者(CSO)ザンギュラは、床の上に胡坐をかいていた。


「……おい、小僧。そこの見張り」


 ザンギュラが低く掠れた声で呼びかけると、鉄格子の外で槍を構えていた若き魔物兵が、びくっと肩を揺らした。


「な、なんだ囚人! 命乞いでもする気か!?」


「バカ言え。お前、さっきから脚がガタガタ震えてんぞ。冷えと不眠は集中力を奪う最大の事故要因だ。お前のその槍の構え、重心がブレてて万が一の時に手元が滑る。安全配慮義務違反だ」


「な、なにを言っているんだ……!? 俺たちは魔王軍の正規兵だぞ!」


「兵士だろうが労働者だろうが、命の重さに違いはねえ。ほら、このスープの残りだ。温かい内に飲んどけ」


 ザンギュラは、昨夜グレイシアが差し入れてくれた保温容器の温かいポタージュスープと毛布を、鉄格子の隙間から見張りの魔物兵へと押し出した。


「え……? で、でも、あなたは敵で、囚人で……」


「怪我や病気を出さずに無事故で一日を終える。それが俺の『安全第一』の流儀だ。腹が減ってちゃ、良い警備もできねえ。いいから食え」


 見張りの魔物兵たちは、自分たちに不眠不休の超過酷ノルマを課すレイカよりも、囚人でありながら自分たちの体を心から気遣ってくれるザンギュラの男気に感涙し、深々と頭を下げてスープを飲み干した。


「ザンギュラ様……! あんた、本当の『上司』だよ……!」


「ハッ、当然だ。職場環境の維持は、責任者の最低限の義務だからな」


 ザンギュラが不敵に笑った、その瞬間――。


 パツンッ……!


 突然、地下牢獄を照らしていた魔導照明が一瞬だけ明滅し、壁の防衛魔導陣が青いスパークを散らして沈黙した。


「な、なんだ!? 停電か!?」


 見張りの魔物兵たちが狼狽える中、天井の換気ダクトから、水色のぷるぷるした物体が勢いよく飛び出してきた。


「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」


 清掃局長のスーだった。スーは水色の体を弾ませると、換気口のロックを内部から解除し、奥の闇に向かって短く鳴いた。


 次の瞬間、換気ダクトから影が躍り出た。 黒い作業服に身を包んだタクト、勇者アーサー、元ブラックCEOの黒崎、そして白馬の騎士ギルドの精鋭たちが、一切の音を立てずに牢獄内へ着地した。


「タクト……! アナタたち、なぜここに……!?」


 見張りの魔物兵が驚愕して槍を構えようとするが、アーサーが素早く剣の柄で首筋を打ち、気絶させた。


「タクト社長! ザンギュラ殿の身柄、確保します!」


「ああ! 頼む、アーサー!」


 タクトは急いでザンギュラの牢格子へと駆け寄った。


「タクト……! お前、本当に来やがったのか……!」


 ザンギュラが目を見開く。タクトは胸を熱くしながら、ポケットから端末を取り出した。


「待たせたな、ザンギュラ! 今、助ける!」


 タクトが端末を牢城のメイン錠前にかざした瞬間、ネクロディアがシステム深層に仕込んでおいた【隠し緊急安全装置(バックドア・コード)】が、レイカの『全域統括鍵』の認証プロトコルを一瞬だけ誤作動《オーバーライド》させた。


 カチリ……ガチャンッ!


 極限のセキュリティを誇っていたはずの鉄鎖と牢城が、まるで最初から解錠を待っていたかのように、滑らかに解け落ちた。


「よし……! バックドアが完璧に作動した!」


 タクトが叫ぶと、ザンギュラは拘束から解放された巨体を起こし、力強く立ち上がった。 そして、壁際に立てかけられていた愛用の巨大な大盾を軽々と拾い上げると、豪快に笑い声を上げた。


「ガハハハッ! さすがは俺たちのPMだ! システムのバグを突いた鮮やかなレスキューじゃねえか!」


「ザンギュラさん! 怪我はありませんか!?」


 シルフィが心配そうに駆け寄ると、ザンギュラは太い腕で自分の胸をドンと叩いた。


「擦り傷一つねえよ! 見張りの小僧どもに『安全第一』を叩き込んでやったところだ! ……社長、待たせやがって。CSOとして、現場に復帰するぜ!」


「ああ! お帰り、ザンギュラ!」


 タクトとザンギュラは、力強く固い握手を交わした。


「ぷるるっ! ぷるぷるっ!」


 スーが歓喜するように水色の体を弾ませ、黒崎も不敵に口角を上げた。


「へっ、これで防衛の要《CSO》が戻ったな。敵のセキュリティは穴だらけ、現場の士気は最高潮だ。タクト、一気にホワイト村の奪還へ向かうぞ!」


「ああ! プロジェクト『白馬の騎士(ホワイトナイト)・リターンズ』、フェーズ2へ移行する! 仲間を全員取り戻し、俺たちの温かい職場を奪還するぞッ!」


「「「オオオオオッッ!!」」」


 ザンギュラ電撃救出の成功により、反撃の炎はついに抑えきれぬ猛火となって燃え上がり始めた。


(残り198日。明日は何が出る?)

【166日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:ネクロディアのバックドアを活用し、地下牢獄からCSOザンギュラを鮮やかに救出。ホワイト村奪還へ向けて一気に進撃を開始する。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:ザンギュラの無事な救出に涙を流して喜び、脱出と奪還作戦の進行を秘書として完璧にサポートする。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:牢獄内でも『安全第一』で看守たちを感化させていた。タクトたちに救出され、CSOとして現場に堂々復帰した。


■ アーサー(勇者) 状況:白馬の騎士ギルドの精鋭を率いて牢獄侵入をエスコート。卓越した剣技で無血での救出作戦を成功させた。


■ ネクロディア(魔王軍 最高技術責任者(元・ホワイト会社CDO)) 状況:仕込んでおいた『隠しバックドア』が完璧に作動し、ザンギュラ救出を影からアシストした。


■ グレイシア(魔王軍 最高財務責任者(元・ホワイト会社CFO)) 状況:差し入れた温かいスープと物資がザンギュラの体力を維持させ、無事な救出へと繋がった。


■ シオン(魔王軍 最高情報責任者(元・ホワイト会社CIO)) 状況:『情報遮断封印』で監視網を目隠しし、タクトたちの牢獄潜入ルートを完全に秘匿し続けた。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:救出成功を受け、元ブラックCEOの勝負勘で村奪還と現場ストライキの誘発戦術を組み立てる。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:言葉は喋らず「ぷるるっ!」と鳴きながら、隠しダクトからの潜入と案内を完璧に遂行した。


■ レイカ(魔王軍 臨時最高経営責任者(元外資系金融MD)) 状況:鍵束を『全域統括鍵』へ魔改造するも、ネクロディアのバックドアによって解錠を許したことにまだ気づいていない。

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