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第165話:【165日目】荒野の緊急会議と、届いた『救援物資』

「キタキタキタァァァッ! 165日目の日めくり完了! 今日こそ、俺のためにポテチとゲームを運んでくれる最強の全自動ぐうたら執事をドロップして、この面倒な戦いを終わらせてやるッ!」


 魔王城の地下司令部。 ニートの息子リオンは、成果主義のログが超高速で流れる監視モニターの前で、クリスタルカレンダーへ勢いよく飛びついた。 隣では、黒いストライプスーツを着こなしたレイカが、昨日シオンが構築した『ログ消去機』の稼働状況を冷徹にチェックしている。


「さあ、めくるぞ!」


 リオンが165日目の魔導シートをスワイプした。


 残り200日 → 199日


 シートから溢れ出した白銀の光の中から現れたのは、暗闇を優しく照らすような、素朴で小さな魔法のランタンだった。


 SSR【魔導・ランタン(マナ・ランタン)】


『※広範囲の暗闇を柔らかい光で照らし、周囲の魔力視界を確保するための高品質な卓上魔導ランタンです』


「……はあ!? シュレッダーの次は、ただのランタンかよッ! キャンプでも始めろってのか!?」


 リオンが頭を抱えて叫ぶが、レイカはそのランタンを手にとり、眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせた。


「ただのランタン? 違うわ、リオン。これは逃亡者や不審者の魔力反応を遠距離から感知し、ハイパワーの魔光で自動追跡・照射する、完璧な『強制哨戒灯(サーチ・スポット)』よ」


 レイカは流れるような手つきで『広域盗聴網』のアレイへと接続した。


「シオン。この哨戒灯を大陸全域の監視網に組み込みなさい。荒野に逃げ延びたタクトたち残党の潜伏ポイントを即座に炙り出し、我が魔王軍の討伐隊を叩き込むのよ」


「……御意に……レイカお姉様……」


 影の中に立つ最高情報責任者(CIO)のシオンは、静かに深く頭を下げた。 シオンはコンソールに手を触れ、哨戒灯の強力な魔光を荒野全域へ向けて照射した。


 だが――光が荒野を舐めるように照らし出したその瞬間、シオンは密かにキーボードを叩いた。 前日に仕込んでおいた【情報遮断封印(アクセス_ブロック)】のノイズアルゴリズムを起動させる。


 ビカンッ!


 強力なサーチライトの光は、タクトたちが潜む荒野の一角だけを『ただの落雷による暗雲の影』として自動的に回避し、空しく通り過ぎていった。


「……レイカお姉様。荒野エリアの魔光スキャン完了。タクトたちの生体反応は検出されず。すでに他国へ逃亡した可能性が高いと推測されます」


「……そう。ネズミのようにすばしっこい男ね。だが良いわ、ホワイト村さえ手に入れば、奴らはただの放浪者に過ぎないわ」


 レイカは冷笑を浮かべ、モニターから目を切った。 シオンは影の中で、静かに胸を撫で下ろした。


(タクト様……。僕が作ったこの『光の死角』の中に……僕の願いが届いていますように……)


 *


 同じ頃。ホワイト村から数キロ離れた、冷たい風が吹き荒れる荒野の岩かげ。


「ハァ……ハァ……っ。寒いな……」


 タクト、シルフィ、黒崎、そしてスーたちは、冷え込む岩穴の中に身を寄せ合っていた。 本社ビルを追われ、衣服もろくに持たずに脱出したため、寒さと空腹がじわじわと体力を奪っていた。


「タクト様……お体は大丈夫ですか……?」


 シルフィが自分の上着をタクトにかけようとするが、タクトは首を振った。


「ダメだ、シルフィ。君こそ寒さに震えているじゃないか。俺なら大丈夫だ……」


 そう言ったものの、タクトの口唇は青ざめ、息は白く乱れていた。 元ブラックCEOの黒崎も、地面にへたり込み、悔しそうに拳を握りしめている。


「チクショウ……。食料も防寒具もねえ。このままじゃ、魔王軍に攻め込まれる前に、全員凍死か餓死だぞ……」


「スー……スライム隊に野草を探させていますが……この寒さじゃ……っ」


 清掃局長のスーも、小さな体を震わせていた。 絶望的な沈黙が岩穴を支配しようとした、その時――。


 ピコンッ!


 タクトのポケットの中で、かつて社長端末として使っていた古い魔導通信機が、突然甲高い電子音を鳴らした。


「え……? 通信機能は完全に切断されたはずじゃ……?」


 タクトが震える手で端末を取り出すと、画面にはレイカのハッキングをすり抜けた『緊急救済口座』からの入金通知が点滅していた。


『口座残金:10,000,000G(特別予備費迂回処理《オフバランス・マネー》より自動送金完了)』 『メッセージ:タクト様、温かいお食事と防寒具を。私は二度と、あなたを裏切りません。――CFOグレイシア』


「グレイシア……!?」


 タクトが息をのんだ瞬間、端末の緊急購買インターフェースが自動起動し、隠れ家の目の前に光の転送陣が広がった。


 ドサッ! ドササッ!


 光の中から現れたのは、湯気を立てる極上のポタージュスープが入った寸胴鍋、厚手のウール毛布、魔法ヒーター、そして高栄養の戦闘食料の山だった!


「これは……! 温かいスープに毛布……!?」


 シルフィが口元を覆って大粒の涙をこぼした。 黒崎も目を丸くし、スープの入った木製カップを抱え込んだ。


「う、うめえええっ! 温かい……! 身体の芯から温まりやがる……っ!」


「グレイシアさんだ……! グレイシアさんが、裏で俺たちに資金を送ってくれたんだ……!」


 タクトの目から、あふれ出る涙が止まらなかった。 三幹部は自分たちを裏切ったのではなかった。レイカの成果主義の脅威からホワイト会社を守るため、そしてタクトを生かすために、密かに裏で戦っていたのだ。


「さらに……見てください、タクト様!」


 シルフィが指さした端末の画面には、シオンがノイズで偽装した荒野の『安全ルートマップ』が表示されていた。 そして、ネクロディアが残したメッセージ――『本社ビルシステム深層に、タクト様の管理者権限でのみ起動するバックドア・コードを埋め込みました』というコード記述が、暗号化されて届いていた。


「ネクロディア……グレイシア……シオン……っ!」


 タクトは胸の前で強く拳を握りしめた。


「あいつらは……あの三人は、一度だって俺たちを捨ててなんていなかった! 成果主義の冷たい数式の中で……命がけで俺たちに『反撃の隙』を作ってくれていたんだ……!」


 その時、岩穴の奥からスライムのスーが、「ぷるるっ! ぷるるっ!」と必死に鳴き声を上げ、水色の触手を地下水路の奥へと激しく振りかざした。


「スー……? 地下水路から……誰かが来るのか!?」


 岩の割れ目が開き、水滴に濡れた人影が次々と姿を現した。 先頭に立っていたのは、黄金の髪をなびかせた青年――勇者アーサーだった!


「タクト殿! ご無事でしたかッ!」


「アーサー……!? なぜここが分かったんだ!?」


 タクトが驚愕して立ち上がると、アーサーは爽やかに笑った。


「シオン殿から届いた『暗号ノイズ』の中に、この隠れ家の座標が埋め込まれていたのです! 『タクト様を救出せよ』という極密メッセージと共にね!」


 アーサーの後ろからは、かつてホワイト株式会社が救済買収した「白馬の騎士」ギルドの志願兵たちや、セシル総料理長率いるキッチンスタッフたちが、武器や調理道具を手に続々と姿を現した。


「タクト社長! 私たちも駆けつけましたぞ! 白馬の騎士ギルド、全戦力をもってあなた様をお支えします!」


「セシルさんまで……!」


「当然です! 社長に温かいご飯を食べてもらうのが、私の仕事ですからね!」


 岩穴の中は、一瞬にして温かい熱気と、固い絆の熱気に満ちあふれた。


 グレイシアが届けた資金と救援物資。 ネクロディアが仕込んだ無敵のバックドア。 シオンが張り巡らせた絶対の目隠しと誘導。 そして、タクトのホワイト経営に救われた仲間たちの結集。


 すべての点が、一本の完璧な反撃の線として繋がった瞬間だった。


 タクトは溢れる涙を力強く拭い、仲間たちに向かってはっきりと宣言した。


「みんな……ありがとう。俺たちのホワイト株式会社は、何一つ失われていなかった!」


 タクトは岩の上に立ち、強く熱い瞳で全員を見渡した。


「これより、プロジェクト『白馬の騎士(ホワイトナイト)・リターンズ』を開始する! ターゲットは――CSOザンギュラの電撃救出、そして、俺たちの愛するホワイト村の完全奪還だッ!」


「オオォォォォォォッ!!」


 荒野の岩穴に、割れんばかりの歓声が響き渡った。 泥を啜り、どん底から立ち上がったホワイト株式会社の本格的な逆襲が、今ここに幕を開けた。


(残り199日。明日は何が出る?)

【165日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:荒野の隠れ家で三幹部の裏工作に気づき感涙。アーサーたち合流を受け、ザンギュラ救出と村奪還プロジェクトを立ち上げた。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:届いた救援物資とアーサーたちの合流に希望を取り戻し、タクトの決意を秘書として支える。


■ アーサー(勇者) 状況:シオンの誘導ノイズを解読し、白馬の騎士ギルドの志願兵を率いて荒野のタクトのもとへ救援に駆けつけた。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:魔王城地下牢獄に拘束中。持ち前の『安全第一』で看守たちを感化しつつ、タクトたちの救出を待っている。


■ ネクロディア(魔王軍 最高技術責任者(元・ホワイト会社CDO)) 状況:レイカのシステム深層に仕込んだ『隠しバックドア』が作動準備完了。タクトのコード実行を待っている。


■ グレイシア(魔王軍 最高財務責任者(元・ホワイト会社CFO)) 状況:特別予備費の裏送金を成功させ、荒野のタクトたちへ物資調達資金を届け続ける。


■ シオン(魔王軍 最高情報責任者(元・ホワイト会社CIO)) 状況:『情報遮断封印』でタクトたちの位置を影として隠し通し、アーサーたちを秘めて誘導した。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:届いた物資と兵力を検分し、元ブラックCEOの勝負勘で電撃作戦の戦術を構築中。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:スライム地下水路網を駆使し、アーサーたちの潜入と物資の搬入を完全にエスコートした。


■ レイカ(魔王軍 臨時最高経営責任者(元外資系金融MD)) 状況:強制哨戒灯を稼働させるも、シオンの仕掛けたノイズによりタクトたちの潜伏地を見抜けずにいる。

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