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第141話:【141日目】「くだらない」ドロップと、お姉様の超有効活用

「キタキタキタァァァッ! 141日目のアップデート完了! 今日こそ、俺のためにポテチとゲームを運んでくれる最強の全自動ぐうたら執事をドロップしてやるッ!」


 魔王城の薄暗い自室。ニートの息子リオンは、昨夜のレイカの衝撃的な降臨から一夜明け、カレンダーのシステムロックが解除されるやいなやクリスタルカレンダーへと飛びついた。


 隣では、ピンストライプのスーツを完璧に着こなしたレイカが、腕を組んで冷徹な視線をカレンダーに注いでいる。


「さあ、めくるぞ!」


 リオンが興奮に目を血走らせ、141日目の魔導シートを勢いよくスワイプした。


 残り224日 → 223日


 シートから溢れ出した白銀の光。リオンは「執事! 執事来い!」と祈りながら光の収束を見守った。


 しかし、光の霧が晴れた後に床に転がっていたのは、執事の影形すらなく、ただの一本の透明なガラス瓶だった。


 SSR【ただの炭酸水(ソーダ・ウォーター)】


『※魔力の残滓がごく微量に溶け込んだ、冷たくて喉越しの良い、ごくありふれた炭酸水です』


「……は? 炭酸水? 嘘だろ、ただのソーダじゃん! なんでクリスタルカレンダーをめくって、こんなゴミを引き当てなきゃいけないんだよッ!」


 リオンが頭を抱えてソファに転がり、不満を爆発させる。


 だが、その炭酸水の瓶を滑らかな手つきで拾い上げたレイカは、眼鏡の奥の切れ長の瞳を妖しく輝かせ、冷徹に微笑んだ。


「ただの炭酸水? 違うわ、リオン。これは完璧な『付加価値(バリューアップ)』の素材よ」


「え……? ソーダが?」


「ええ。これに、魔王軍の地下に無限に眠っている『魔界の毒草や生薬』を数滴ブレンドしなさい。そして――」


 レイカはビジネスバッグから、スタイリッシュな黒い缶の3Dホログラムを空間に展開した。


「これを『一時的に魔力を極限まで活性化させ、タスク処理能力を二百パーセントに引き上げるプレミアムエナジー飲料』として、他国の過酷なブラック労働者に向けて高額で売り出すのよ。商品名は『限界突破炭酸(マナ・ブースター)』。価格は原価の五十倍。他国の搾取されている労働者たちは、これに依存してさらに不眠不休で働き、その労働の成果とマナが、売上《キャッシュ》として我が社に還流する。完璧な『還流構造(スキーム)』の完成よ」


「す、すげえ……! ただの炭酸水が、一瞬で莫大なキャッシュを生み出すドル箱商品に化けた……!」


 リオンはレイカの圧倒的なビジネス知略に再び言葉を失い、ただただ感嘆した。


「よし、商品開発と流通網のデプロイは、昨日私が再編成したプロフェッショナルたちにやらせましょう」


 レイカは部屋を出て、隣の「玉座の間」へと向かった。リオンも慌ててその後に続く。


 玉座の間では、昨日レイカによって「残業禁止・成果主義」をデプロイされたゾンビ兵たちが、すでに一糸乱れぬ自律的な高速動作で、驚異的な『限界突破炭酸』の生産ラインを構築していた。


 かつての「恐怖のデスマーチ」による疲弊はない。だが、タクトのホワイト会社にあるような「ぬるま湯の平穏」とも違う。「やればやるだけ、ダイレクトに豊かになる」という、レイカの提示した桁外れのインセンティブに魂を焼かれた魔物たちが、ギラギラとした欲望の目で自律駆動しているのだ。


「おい! そこの充填ライン、魔力制御が0.2秒遅れているわよ。その遅延は1日あたり150万ゴールドの機会損失に繋がるの。即座に負荷分散しなさい」


 レイカが冷徹に指示を飛ばすと、ゾンビ兵たちは青い目を輝かせて「ハイ、CEO!」と応じ、魔力バルブを完璧にチューニングした。


「素晴らしいわ。この『限界突破炭酸』を、まずは他国の過酷な炭鉱やギルドの末端労働者たちに向けて大規模に投入《デプロイ》しなさい。ホワイト株式会社の甘っちょろい『温泉やマッサージ』といった生ぬるい価値の提示(ソリューション)など、この爆発的な魔力ブーストの前には一瞬で駆逐されるわ。労働者は皆、一時的な万能感のためにこの炭酸水を買い求め、そのマナは全自動で我が社のバランスシートを美しく飾る。これこそが、市場を支配する最強の駆動論理よ」


 レイカの眼鏡の奥で、冷徹な勝利の光が怪しく明滅していた。


 その後、他国の過酷な鉱山やブラックギルドの作業場へと放たれた『限界突破炭酸』は、瞬く間に労働者たちの間に爆発的な熱狂を巻き起こした。


 過労で倒れかけていた鉱夫がその黒い液体を一口飲むだけで、目が血走り、疲労を忘れて狂ったようにピッケルを振るい出す。


「おおおっ、力がみなぎる! まだ働ける、休む必要なんてないぞ!」


 一時的な全能感と魔力ブースト。その心地よさに囚われた労働者たちは、自ら進んでエナジードリンクを買い求め、さらに自らを使い潰して働き続ける。


 そして彼らが心身を削って生み出した富とマナは、完璧にデザインされた還流経路を通り、驚異的なスピードで魔王軍の財務バランスシートへと吸い上げられていく。


「さあタクト……。甘い汁《福利厚生》で人を骨抜きにするあなたの楽園が、この完璧な資本の前にどこまで耐えられるか、見せてもらうわよ」


 他国のブラックな過酷労働者を合法的に使い潰しながら、魔王軍へと富を全自動還流させる『マナ・ブースター』の経済侵略システムが、ここに静かに、そして恐るべき牙を剥いて起動した。


(残り223日。明日は何が出る?)

【人物紹介】


■ タクト(代表取締役兼PM)

状況:周辺地域の100%ホワイト化を達成した矢先、魔王軍にクリスタルカレンダーを強奪されるというインシデントに直面中。奪還に向けたセキュリティログ解析を進める中、外部の市場で不気味な黒い缶のエナジードリンク『限界突破炭酸』が出回り始めたという微かな噂を耳にし、不穏な気配を感じ取っている。


■ シルフィ(社長秘書)

状況:奪われたカレンダーを取り戻すべく、魔王城周辺のセキュリティログの解析をシオンと共に急いでいる。市場での不審な商流の報告書をまとめつつ、タクトを支えるために気丈に振る舞う。


■ リオン(魔王の息子/共同経営者)

状況:カレンダーから引き当てた「ただの炭酸水」が、レイカの手によってエナジードリンク『限界突破炭酸』に化けたことに感動。お姉様の手腕を信じ、不労所得の甘い夢を謳歌している。


■ レイカ(魔王軍 臨時最高経営責任者)

状況:タクトの実の姉(元外資系金融MD)。140日目にリオンがカレンダーをめくったことで召喚された。カレンダーのドロップ『ただの炭酸水』をビジネス知略で最強のエナジードリンク『限界突破炭酸』へとバリューアップし、市場支配の第一歩を踏み出す。


■ 黒崎(見習い清掃員)

状況:カレンダー強奪事件に強い危機感を抱いている。本社の床をピカピカに磨きつつ、タクトに対し「……泥棒は、我々の持っていない『ハングリー精神』という名の毒を持っているぞ」と、現場の経験から不穏なアドバイスを送っている。

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