第128話:【128日目】資源の独占と、公平な貿易の幕開け
隣町ログウッドの救済的買収と、スマートシティによる環境防衛の稼働から一夜明けた、128日目の朝。
ホワイト株式会社の代表取締役執務室。俺――タクトは、窓の外で自律的に動くドローン輸送網を眺めながら、手元の魔導端末に流れる情報を精査していた。
「……やはり来たか。典型的な嫌がらせの次の一手だ」
最高情報責任者のシオンが提示したデータには、深刻な供給網の遮断が記録されていた。聖王国の「ブラックギルド連合」が、周辺の資源産出地に対して圧力をかけ、我が社への原材料の供給を停止させたのだ。
「報告します。敵は、鋼材や魔導回路の素材となる希少鉱石を買い占めし、我が社との取引を継続する商会には経済的な報復を示唆しています」
シオンの声には、隠しきれない怒りが混じっている。彼らは武力で勝てないと悟るや否や、原材料の独占による兵糧攻めに切り替えたというわけだ。
「目先の利益を盾に、生産者を脅して市場を歪めるか。……古臭いやり方だが、実体経済には効く。だが、彼らは一つ致命的なミスを犯している」
俺は立ち上がり、壁に設置されたクリスタルUIのカレンダーに向き合った。
「彼らは、生産者を単なる『駒』だと思っている。だが、真に価値を生み出すのは現場の人間だ。俺たちはその『信頼の架け橋』を再構築する」
俺は指先で魔導シートをスワイプし、残り日数を更新する。
「残り237日」から「残り236日」へ。
パネルから溢れ出した白銀の粒子が、世界中の商流を映し出す複雑なホログラム・マップへと形を変え、俺の手元に一台の洗練された魔導端末を具現化させた。
SSR【魔導・公平貿易端末】
『※生産者と消費者を直接接続し、中抜きの阻害や不当な価格調整を無効化する貿易プラットフォームです。この端末を通じた取引には、魔導的な保証が付与されます』
「キタ……。これこそが、ブラックな中間搾取を駆逐する、公平な貿易の鍵だ」
俺は即座に、最高財務責任者のグレイシアを招集した。
「グレイシア、この端末をベースに、周辺の小規模な農家や鉱山主たちと直接契約を結ぶプロジェクトを開始しろ。ギルドの仲介を介さず、俺たちが直接、適正価格で買い取る」
「……了解しましたわ。コタツの中から、ギルドの不当な利ざやをすべて消失させて差し上げますわよ」
グレイシアが冷徹な笑みを浮かべ、端末を叩く。
俺たちは、ブラックギルドに脅されている生産者たちに対し、ギルドの提示額の1.5倍の買取価格と、ホワイト株式会社の福利厚生への一部アクセス権を提示した。
「……ギルドに従えば搾取されるだけだが、ホワイト株式会社と組めば、生活の質まで保証されるだと!?」
「あんな強欲なギルドの顔色を伺う必要なんて、最初からなかったんだ!」
周辺の村々の生産者たちは、瞬く間にブラックギルドから離反し、我が社の貿易基盤へと流れ込んできた。中間搾取を排除したことで、我が社は調達コストを抑えつつ、生産者は利益を増やすという、完璧な相互利益が成立したのだ。
その様子を、廊下をピカピカに磨きながら眺めていた見習い清掃員の黒崎が、フンと鼻を鳴らした。
「……ハッ。信頼という資本を軽視したのが、奴らの敗因だな。恐怖で縛った供給網など、より高い価値の提示によって容易に上書きされる。……かつての私なら、もっと狡猾にやったものを」
黒崎は毒づきながらも、自分が磨き上げた床に映る、活気ある村の様子を満足げに見ていた。彼もまた、誠実な労働がもたらす「確かな手応え」を理解し始めているのだろう。
夕暮れ時。執務室のモニターには、ブラックギルド連合の株価指数が暴落する様子が映し出されていた。
「タクト様。敵のギルド長たちが、資金繰りの悪化でパニックに陥っているようですわ」
シルフィが嬉しそうに報告する。俺は静かに頷いた。
「市場の不透明さを利用して私腹を肥やす時代は終わった。これからは、誰もが公平な分配を受けられるホワイトな市場が、この世界を塗り替えていく」
ブラックギルドの経済封鎖を、公平な貿易という名の圧倒的な正義の論理で粉砕した。
だが、追い詰められた連中は、最後には「経済」ではなく「物理的な暴力」に訴えてくる可能性がある。残り236日。魔王が目覚める前に、この世界の商流をすべて白く染め上げる。
(残り236日。明日は何が出る?)




