第116話:【116日目】ブラックCEOの末路と、新人清掃員
激動の夜が明け、116日目の朝。
タクトは日めくりカレンダーの「残り249日」の紙をめくった。
空中のアラートは『システムアップデート中(最終調整・99.9%)』と表示され、まだアイテムはドロップしない。だが、タクトの顔に焦りはなかった。
洗脳が解け、正気に戻った数千の王国兵たちは、完全に戦意を喪失し、村の広場で大人しく武装解除に応じていた。
そして彼らの中心には、手足を縛られ、地面に膝をつかされた恰幅の良い中年男――ブラック社長の姿があった。
「くそっ……! 私の、私の完璧な組織が……! たかが平社員風情に、この私が負けるだと!?」
血走った目でタクトを睨みつける社長。
タクトは静かに彼の前に立ち、見下ろした。かつては、この男の怒声を聞くだけで胃が縮み上がり、冷や汗が止まらなかった。だが今は、不思議なほど心が凪いでいた。
「殺せ! 勝者の権利だ、私を嬲り殺しにするがいい!」
社長が叫ぶと、ザンギュラやアーサーが武器に手をかけようとした。しかしタクトはそれを手で制した。
「殺す? そんな無駄なリソースの消費はしないさ。あんたには、一から『労働の価値』を学んでもらう」
「な、なんだと?」
タクトは、ぽよんぽよんと跳ねながら近づいてきた水色のスライム――清掃局長のスーを指差した。
「今日からあんたは、うちの村の『見習い清掃員』だ。上司はこのスー局長。村中のトイレ掃除とゴミ拾いを担当してもらう」
「私が!? この大企業の最高責任者だった私が、魔物の下働きだと!?」
「ここでは過去の肩書きは関係ない。労働時間は1日8時間。残業は禁止だ。真面目に働けば、温かい三食の飯とふかふかのベッドを用意してやる」
屈強な獣人たちに両脇を抱えられ、社長はモップとバケツを持たされた。
ぽよよんっ! とスーが厳しく(?)指導するように飛び跳ねる。
「ふざけるなああああっ!」
社長の情けない絶叫が、朝の村に響き渡る。
恐怖で支配する組織は、一度崩れれば脆い。タクトの長年のトラウマは、モップを握らされてスライムに怒られる元上司の背中を見て、完全に消え去った。
(残り248日。明日は何が出る?)




