第110話:【110日目】徹夜のエンジニアと、やりがいの本質
110日目。
カレンダーの表示は『システム・アップデート中(2日目/3日)』。残り日数は254日となった。
ドローンの映像によれば、ブラック騎士団は村の数キロ先まで迫っている。彼らはクロサキの洗脳により、文字通り「不眠不休」で進軍を続けていた。
夜。俺が村の最終点検を見回っていると、タワーマンションの一角、最高技術責任者のクロエの研究室から、煌々とした魔力の光が漏れているのに気づいた。
中に入ると、クロエと最高デジタル責任者のネクロディアが、床いっぱいに既存の魔導具の部品を広げ、基盤(魔力回路)と格闘していた。
「クロエ! ネクロディア! 何をしているんだ、今は夜中の二時だぞ!」
「あ、村長。ごめんごめん、ちょっと手が離せなくてさ!」
クロエはゴーグルを額に押し上げ、顔を煤だらけにして笑った。
「実はね、シオンが集めてくれた情報をもとに、クロサキの【絶対的やりがい搾取】の魔力波長を解析してたんだ。これ、特殊な周波数で脳を麻痺させてるだけだから、逆位相の魔力波をぶつければ洗脳を解除できるはずなんだよ!」
「今、村にある不用品(ノーマル魔導具)の部品をかき集めて、『広域魔力ジャマー(洗脳解除装置)』を組み上げているところだ。カッカッカ、久々に血が騒ぐぞ」
骸骨のネクロディアが、カタカタと顎を鳴らしてキーボード(魔力盤)を叩く。
「洗脳解除装置……! それができれば、あの一万の軍勢を救えるのか!」
「うん! でも、出力調整が難しくてね。朝までに仕上げるには、どうしても徹夜になっちゃうんだ」
俺は息を呑んだ。
俺がこの村で絶対に守らせてきたルール。それは「1日8時間労働」と「徹夜の禁止」だ。それを破らせるわけにはいかない。
「ダメだ! 今すぐ休め! 徹夜なんて、俺が一番嫌悪するブラック労働だ!」
俺が止めようとすると、クロエは真剣な目で俺を見つめ返した。
「村長。これは『やらされてる仕事』じゃないよ」
「え……?」
「ボクが、この村を守りたいから、ボクの意志で『やりたい』からやってるんだ。自分の大切なものを守るために、技術者が全力で徹夜するのを、ブラックなんて言わせないよ」
ネクロディアも、俺に同意するように頷いた。
「魔王軍時代の上司からの無茶振りとは違う。これは、我々自身の希望のための開発だ。タクト村長、我々の技術を信じてくれ」
彼らの熱意に、俺は言葉を失った。
やらされる労働ではなく、自律的な熱意(真のやりがい)から生まれる集中力。それは、ルールで縛るべきものではないのかもしれない。
「……わかった。明日には必ず完成させろ。それまで、前線の防衛は俺たちが絶対に持たせる!」
「任せてよ、村長!」
明日はいよいよ、クロサキ率いるブラック騎士団との直接対決だ。
俺は二人の最高のエンジニアに希望を託し、決戦の夜明けを待った。
(残り254日。明日は何が出る?)
【キャラクター紹介(110日目時点)】
タクト
元PMの村長。前世のトラウマであるブラック社長の襲来とカレンダーのシステムダウンに心が折れかけるが、自律的に動く村人たちの姿に「真のリーダー」として覚醒する。
シルフィ
エルフの秘書。タクトの異変にいち早く気づき、献身的に彼を支える。
ガルド
ドワーフの建築リーダー。カレンダーがなくても、自らの腕と仲間を信じて防壁を構築する頼れる兄貴分。
クロエ
最高技術責任者。徹夜禁止のルールを自ら破り、「やりたいからやる」という本物の熱意で洗脳解除装置の開発に挑む天才錬金術師。
ネクロディア
最高デジタル責任者。クロエと共に、かつてのデスマーチとは違う「希望のための徹夜」を楽しむ骸骨大魔導士。
アーサー
元勇者。ブラック騎士団を一歩も通さないため,、再び聖剣を握り最前線に立つ。
黒崎
タクトの前世のブラック企業社長。異世界に召喚され、固有スキル【絶対的やりがい搾取】で王国軍を一万の狂戦士(ブラック騎士団)に変えて進軍してくる最悪の敵。




