第109話:【109日目】機能停止と、村人たちの自律駆動
そして、運命の109日目の朝。
俺は重い足取りでリビングに向かい、カレンダーの紙をめくった。
表示された文字は「残り256日」。
『システム・アップデート中(1日目/3日)……アイテムはドロップされません』
虚しいアラートだけが空中に浮かび、光の粒子は出ない。
ついに、最大の武器が沈黙してしまった。ブラック騎士団は、明日の夜には村の結界に到達するだろう。
「……俺がもっと前に、武器や防衛設備をストックしておけば……」
PMとしての自分の見通しの甘さ(無力さ)に、ギリッと唇を噛みしめる。
重い扉を開け、俺は村の広場へと出た。
みんな、カレンダーが使えないと知って不安に怯えているに違いない。そう思っていた。
しかし。
広場に広がっていたのは、俺の予想を完全に裏切る光景だった。
「おうルナ! 結界の外縁部に、無限箱の石材で二重の防壁を積んでおくぞ! 俺様のハンマーについてきな!」
「はいっ、ガルドさん! アタシたち警備部隊は、防壁の前に落とし穴トラップを再構築しておきます!」
「セシル殿! 前線で戦う者たちのために、片手で食べられる高栄養の携帯まかないを量産しますわよ!」
「ありがとう、グレイシアさん! どんどん作ります!」
誰一人、怯えてなどいなかった。
俺の指示(タスク割り当て)を待つまでもなく、各部門のリーダーたちが自発的に連携し、今あるリソースを最大限に活用して防衛網を構築していたのだ。
「みんな……」
立ち尽くす俺の前に、ガルドが肩にハンマーを担いで歩み寄ってきた。
「村長。そんなシケた顔すんな。俺たちは知ってるぜ、カレンダーが出ねえからって、アンタが自分を責めてることをな」
「ガルド……でも、俺の力がなければ……」
「馬鹿野郎」
ガルドはニッと笑い、俺の背中をバンッと力強く叩いた。
「俺たちは今まで、村長に美味い飯と安全な家を貰ってばかりだった。たまには、俺たちが村長を助ける番だろうが! 俺たちを誰だと思ってやがる。アンタが育てた『最強のチーム』だぞ!」
「タクト村長」
有給休暇から復帰したアーサーが、聖剣を構えて微笑んだ。
「俺の剣は、魔王を倒すためではなく、この村の皆の笑顔を守るためにあります。一万の軍勢が来ようが、一歩も通しませんよ」
目頭が熱くなった。
俺がこの村で作ってきたものは、「便利な魔導具」だけではなかった。
指示を待つだけの労働者ではない。自らの意思で考え、仲間のために動き、共に困難を乗り越えようとする『自律駆動型の組織』。
俺が育ててきたチームは、もう俺の想像を遥かに超えて、強くなっていたのだ。
「……ありがとう、みんな。俺たちの力で、あのブラック騎士団を叩き潰そう!」
村中から、地鳴りのような歓声が上がった。
システムがダウンしても、俺たちのプロジェクトは絶対に止まらない。
(残り255日。明日は何が出る?)




