第102話:【102日目】心理的安全性と、魔導1on1カフェ
フリーアドレス制により、村人たちは思い思いの場所で仕事を楽しんでいた。
しかし、102日目の朝。俺は最高情報責任者のシオンから、一つの懸念を報告された。
「タクト様。王国軍から寝返ってウチの村に正式採用された元兵士たちの一部が、どうも周囲に馴染めず、孤立しているようです」
「孤立? 待遇に不満があるのか?」
「いえ。あまりにも待遇が良すぎるため、『自分のような下っ端が、こんな贅沢をしていいのか』と萎縮してしまい、古参のメンバーに本音を言えずにいるのです」
なるほど。500人規模の組織ともなれば、全員が全員、積極的に発言できるわけではない。
特にブラック企業(王国軍)出身者は、「上司に意見を言う=罰則」という呪縛に囚われていることが多い。彼らに必要なのは、絶対に否定されないという「心理的安全性」だ。
「よし、上司と部下の対話の場(1on1ミーティング)を設けよう」
俺は「残り263日」の紙をめくった。
現れたのは、温かいオレンジ色の照明に包まれた、小さなカフェブースのセットだった。
『SSRアイテム【絶対安全・1on1魔導カフェ】を獲得しました』
『※この空間に入ると、一切の階級や立場の差が魔法で無効化されます。提供されるハーブティーは心の壁を取り払い、純粋な『本音の対話』を促します』
「完璧だ。これでメンター制度を機能させるぞ」
俺は村の広場の端にこのカフェブースを展開し、各部署のリーダーたち(ザンギュラやガルド、ルナなど)に、部下と一対一でお茶を飲む時間を作るよう指示した。
午後。カフェブースの中では、元王国軍の青年兵士が、ガチガチに緊張しながらザンギュラ(CSO)と向かい合っていた。
「あの、ザンギュラ様……俺みたいな新参者が、防衛のシフトについて意見を言うなんて、おこがましいのですが……」
「馬鹿野郎、ここは魔法のカフェだ。上司も部下も関係ねえ。それに、このハーブティー、すげえホッとする匂いだろう?」
ザンギュラが笑ってティーカップを傾けると、青年兵士の強張っていた肩の力が、ふわりと抜けた。
「……実は、夜の巡回ルートなんですが、東側の照明が少し暗くて、魔物の接近に気づきにくいんです。もしよければ、照明の増設を提案したくて……」
「おう! それは気づかなかったぜ。現場の生の声、大歓迎だ。すぐにガルドの部署に手配しておく」
「あ、ありがとうございます……っ! 俺の意見が、通るなんて……!」
青年兵士の目に、嬉し涙が浮かんでいる。
カフェのあちこちで、同じように「今まで言えなかった小さな悩みや提案」が、温かいお茶と共に共有されていた。
日々の業務から離れ、一対一で対話する時間(1on1)が、組織の風通しを劇的に改善していく。
ホワイト村の組織力は、強固な信頼関係によってさらに強靭なものとなった。
(残り262日。明日は何が出る?)




