第10話:【10日目】三十人の獣人と、一瞬で建つ集合住宅(タスクフォース)
獣人たちを乗せたキャリッジが村に到着したのは、翌朝のことだった。
「おおおっ……これが、噂の……!」
「畑が自動で水を撒いているぞ!?」
初めて見る魔導スプリンクラーや巨大氷室、そしてシルフィやガルドの生み出したインフラに、獣人たちは目を丸くして驚愕していた。
そんな彼らを前に、俺は拡声器代わりに手を作って宣言した。
「全員、よく聞いてくれ! 今日から君たちはこの村の正式な『社員』だ! だが、今のままでは君たちが住む家がない!」
「そ、そうですね。我々は外で野宿でも構いませんが……」
「ダメだ。劣悪な居住環境は健康を損なう。というわけで、今日の最優先タスクは『全員分の住居の建設』だ!」
三十人分の家を一日で建てる。
普通に考えれば正気の沙汰ではないスケジュールだが、俺には秘策があった。
俺は『日めくりカレンダー』の前に立ち、「残り355日」の紙をめくる。
光の粒子と共に現れたのは、小さな木箱に入った大量の「ブロック」のようなおもちゃだった。
『SSRアイテム【魔導ユニットハウス展開キット(×30)】を獲得しました』
『※平らな地面に置いて魔力を込めるだけで、家具・空調完備の快適なログハウスが瞬時に展開されます』
「……来た! 超高効率のプレハブ住宅!」
これでガルドの作業をさらに極限まで圧縮できる。
俺はメモ帳を取り出し、即席のタスクフォース(特別チーム)を編成した。
「族長、あんたの名前は?」
「ガロ、と申します」
「よし、ガロ。あんたたち獣人三十人の身体能力を見込んで頼みがある。ガルドの指示に従って、家の『基礎』となる地面の整地と、ブロックの配置作業をやってくれ」
「整地と配置、ですね。承知いたしました!」
「シルフィは彼らの体力が切れないよう、適度な魔法サポートと給水係だ。ガルドは全体の監督と、最終的な魔力注入による『展開』を頼む」
俺の号令で、三十人の獣人たちによる怒涛の建築ラッシュが始まった。
「そこの地面をもっと踏み固めろ! 獣人の脚力を見せてみやがれ!」
「おおおっ! 任せろドワーフの旦那ァ!」
ガルドの的確な指示のもと、獣人たちは驚異的なスピードで荒野を整地していく。重機も真っ青の馬力だ。
整地された場所に、先ほどのブロックが等間隔で置かれていく。
「よし、配置完了だ! シルフィ嬢ちゃん、魔力注入!」
「はいっ! 【魔力充填】!」
シルフィが杖を振るうと、置かれたブロックが次々と光を放ち、ズズズッという音と共に、瞬く間に立派な一軒家へと変形・展開していった。
「うおおおおっ!? 家が、家が生えてきたぞ!」
「すげええぇぇぇ!」
自分たちが少し地面をならしただけで、あっという間に家が建っていく様に、獣人たちは大興奮だ。
彼らの士気は最高潮に達し、午後には三十棟の真新しい住宅が綺麗に立ち並ぶ『居住区』が完成してしまった。
「終わった……」
夕陽に照らされた新興住宅地を見つめ、ガロ族長が震える声で呟いた。
「どうだ、自分の家を持った気分は?」
「信じられません……。今まで、雨風をしのぐためだけに洞窟で震えていた我々が、こんな立派な家に……。しかも、中には柔らかいベッドまで……!」
ガロは俺の前に膝をつき、深い感謝の意を示した。
「タクト村長。我々一族は、命に代えてもこの村のために尽くします! どんな過酷な労働でも命じてください!」
「だから、過酷な労働はさせないって言ってるだろ。労働は1日8時間、今は17時だ。今日の業務は終了(定時退社)!」
俺がそう宣言すると、シルフィとルナが巨大なお盆を持って走ってきた。
「タクト様! 豊穣祭のプレイベントとして、大宴会の準備が整いました!」
「村長! お肉はないけど、世界樹のお芋のホクホク焼き、最高です!」
村の広場には、三十棟の家を囲むように焚き火が焚かれ、冷えた湧き水と山盛りの料理が用意されていた。
俺は湧き水の入った木杯を高く掲げた。
「新しい仲間たちへ。そして、誰も過労死しない、最高のホワイト村の未来に……乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
獣人たちの歓声が、夕暮れの荒野に響き渡る。
1日1歩の確実な前進は、今や大きなうねりとなって、この世界を塗り替えようとしていた。
この調子なら、魔王が復活したところで、コタツでお茶でも飲ませて大人しくさせられるかもしれない。
春の陣の終わり。俺のホワイト村経営は、最高のスタートダッシュを決めていた。
(残り356日。明日は何が出る?)




