49.「分かりやすいんだよ、お前らは」
ジオン・マンシー。一言で説明するならば【動く石像】というところか。上階層にも時々出現する事があり、ミルサークも戦った経験がある。フリムスルス程巨大では無いが、それでも人間を遥かに凌駕する体躯と破壊力は脅威で、かつ石の体であるにも関わらずかなり素早く動く為、命を落とした冒険者は数知れない。だが――。
ミルサークは振り下ろされた拳を避けて、地面に打ち込まれたその腕を足場に背後に回る。
「核の位置は、分かってるんだよっ!」
首の付け根、人間で言えば脊髄にあたる部分にアルクァ・バルトの拳を叩きつける。ガラスが砕けるような音と共に深々と打ち込まれたその拳は確実に核を捉えて、敵は崩れ落ちた。が、
不穏な気配を感じて振り向くと、石壁からさらにもう1体が全身を現そうとしていた。怒りの形相に固定されたその眼が、ミルサークを見据えている。
……そうだろうな。1体で終わるわけが無い。ならば、何体でもやってやるまでだ。
先程叩き込んだ拳が、少し痺れているのを感じる。だがアルクァ・バルト自体はいつもと変わらない輝きを放っている。安心と信頼を感じさせてくれる輝き。
石像が両掌を組んで、振り上げた。――攻撃が単調なのは、助かるな! 横っ飛びに避けて、背後に回ろうとした。その瞬間、ミルサークは眼を見張った。石像が脚を蹴り上げて攻撃してきたのだ。距離を詰めていなかったのが幸いし、ギリギリでそれを避ける。間髪入れず、残った脚を伝って背中に登った。
脊髄に拳を叩き込もうとしたその時、ミルサークはぎょっとした。石像の首が180度回転し、こちらを睨みつけた――ように感じた。一瞬硬直しかけた体を無理矢理動かし、核を破壊する。
……1体目と、反応が違う?
まるでこちらが核を狙っている事を、予め知っていたかのような……。
「いや考え過ぎ、だな」
奴らとて、自身の急所を守る事位はするだろう。それだけの事だ。
崩れる魔物の背中から飛び降りる。どうせ次が来るのだろうと壁の方を向いたミルサークの表情が凍り付いた。次の石像が壁から生まれていたのは想定通りだった。――2体同時に、であることを除けば。
……落ち着け。ジオン・マンシーが複数で行動するなど聞いたことが無い。各個撃破すればいいのだ。
2体の両の目がミルサークを捉え、地響きを立てて向かってくる。ちらりとドナホゥを振り返るが、線の太さは殆ど変わっていないように見える。ドナホゥを守る事。それが今の最優先だ。ならば――。
1体目の横合いからの初撃を避ける。が、反撃はしない。2体目が腕を振り上げるのを確認し、移動する。〜〜付いて来い! そうだ! 上げた腕が振り下ろされ――たその場所には、1体目の頭があった。想像以上に澄んだ音が空間に響く。今のところ、この2体以上の発生はしないようだ。倒すたびに新手が発生するのであれば、むしろ倒さずにあしらって、時間を稼ぐ!
殴られた1体目が地面に倒れるのを乗り越えて、2体目が迫る。
「レディに対して、そうがっつくもんじゃあないぞ? 自分の脚を良く確かめるんだな」
言った瞬間2体目の脛にヒビが走り、地面に着くと同時に爆発音のような大音響と共に砕け折れた。2体目はそのまま地面に倒れ込む。しかしその間に1体目が立ち上がろうと、首をもたげていた。
「大人しくしていろ!」
S.H.F.Pを放ち、その頭の半分を粉々にする。……何とかなる、か?
しかし直ぐにその考えは甘いと思い知らされた。壁から新たに生えてくる、巨体。
「〜〜上等だよ。何体でも、やってやる」
ミルサークは改めて、自分の頰を叩いた。
◇ ◇ ◇
攻撃をしのぎながら、俺は考え続けていた。こいつらはどうすれば倒せるのかと。魔素剣で体を構成する粒子を消すことは出来る。が、それは直ぐに補充されて戻ってしまう。無限に補充される事は無いと思いたいが、その前に俺の方が保たないのは、考えるまでもなく確実だ。
ヒントはある。アキルの影に突っ込んだ時だ。跳ね返される事無く、突き抜けた。ならば他の魔物と同様、核があるのではないか。それを中心に、粒子を形造っている。そうなのではないか。
では、その核は何処にあるのか? ――分からない。突っ込んだ時には、その存在を感じなかった。体内――というのも変だが――を自由に移動しているのか、それとも極端に小さなものなのか。
「……考えても仕方ない、か」
分からないものは分からないのだ。――ならば!
アキルの影が発した触手を受け流し、ファティの影の方へ走る。すると――ファティの影は後退し、アキルの影は光線を発しつつ、接近戦を挑もうとする。何度も繰り返した動きだ。俺が動きが変えると、それに対して反応してくる。改めて思い知ったのは、奴らに感情は無い、という事だ。慌てず、騒がず、淡々と。マニュアル通りに――というか、最も効率的な対処をしてくる。だから、
「……分かりやすいんだよ、お前らは」
後方へ飛び退いたファティの影の足元から発した爆発。予め仕掛けておいた魔符だ。下半身と、ついでに下側2本の触手の粒子が吹き飛ぶ。が、倒すには至らない。残った2本を脚代わりにして体を支え、さらに後退しようとする。俺はさらに追撃を――。
「すると思ったか?」
俺はカートリッジを交換した魔素剣にさらに魔力を込めると、振り向きざまに横に振った。そこには、飛び込んで来たアキルの影があった。
「あいつなら、見抜いてたよ。本命は、お前だってな」
俺の横からの一撃を相手は剣で受け止める。……だが、その剣だって、粒子だろうが!
魔素剣の刃の形状が変わる。先端が扇を開くように広がる。もはや剣とは言えないような形だが――これでいい。広がった刃は徐々に相手の剣を侵食して、アキルの影の上半身を、触手ごと消滅させた。
〜〜まだだっ!
俺は視線を外さず、残った下半身を狙う。――叩き潰してやる! 広げた魔素剣を上から振り下ろした。が、その刃が粒子を蒸発させながら地面へと接触する直前に、残滓のような粒子が飛び出し、凄まじい速度で宙を翔んだ。あれが、核か!
振り返ると、そこには2つの影があった。下半身を失ったファティ、核だけとなったアキル、それぞれの影。
「復活させるかよ!」
核の周りに粒子が集まる前に――と思った時だった。ファティの影がアキルの核を掴み、自身の中に取り込んだ。想定外の行動に、俺も一瞬動きを止める。
次の瞬間、無くなった下半身から大量の粒子が噴き出した。単に下半身を復活させるならそこまでの量は要らない。粒子は背後に集まり、何かを形造っていく。爆発音と共に、新たに2本の触手が生え、元からの2本と同様脚のように地面を掴む。さらに4本。最終的にそこにあったのは、8本の脚を持つ、蜘蛛を思わせる巨大な魔物。――いや、魔物としても異形過ぎる。もはや、化け物、だ。
ファティの影の上半身だけが、辛うじて人型の名残を残している。その両腕が振り上げられたかと思うと、新たに生まれた部分に巨大な口――という他思いつかない――が開き、その中が光った。
光線!
俺は咄嗟に魔素剣を振り、地面をこそげ取ると投げ出すようにそこに身を隠す。同時に、これまでに無い数の光線が発射された。盲滅法と言っていい。俺を狙っているとは思えない程全方位に向けてだ。破壊された地面が噴き上がり、崩れた壁が大音響と共に土埃をたてる。
〜〜移動しないとヤバいっ!
思いはするが、光線が途切れない。瓦礫が絶え間なく降り注ぐが、それがいつ光線に変わってもおかしくない。と――直前に命中した一本が俺がいる場所ごと地面をえぐり取り、吹き飛ばした。――僥倖! ロープを伸ばして横に飛ぶと同時に、吹き飛ばされた地面は四散した。
奴の懐に飛び込む。それが考えられる唯一の活路だ。それを分かっているのだろう。光線は化け物の至近に着弾し、壁や地面をこそげ落としながら奴は前進を開始する。
ここは、距離を取るしかない。が、後退してもいずれ追い詰められるのは目に見えている。魔符を投げても、発動する前に撃ち落とされてしまうだろう。八方塞がりだ。
〜〜どうする? どうすればいい?
瓦礫の影に隠れつつ、俺は必死に考えを巡らせた。




