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シビルの子  作者: 健人


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48/48

48.「かかって来い。戦ってやる!」

 花道を引き揚げながらふと振り返った時、アキルの側に立つファティと目が合った、ような気がした。……気の所為だろう。見ていた事を気付かれたく無かった俺は、慌てて踵を返す。

 勝った。優勝した。これで借金を返す事が出来る。その事には心底ホッとしたが――正直、全く勝った気にはならなかった。

 俺がしたのは誰がどう見ても、邪道の戦い方。ブーイングの激しさがそれを証明している。全く俺らしい戦い方だと言えば、それだけの事なのだが。


 ……だが、俺の中にはどうしようもない敗北感が残っていた。


 敗北感? 違うな。妬みや嫉み、羨みに近いもの――いや、それらそのものだ。おそらくアキルに対してどんな勝ち方をしたとしても、同じ感情を抱くに違い無い。

 そう確信した俺は、2度と剣技大会に出ることは無く、アキルと剣を交える事は無かったのだ。


 ◇ ◇ ◇


 まさかその後、パーティーを組む事になるとは思わなかったな。そして、このような形で戦う事も。

 いや――落ち着け。あれは、彼らそのものでは無い。魔素粒子で形造られた、ニセモノだ。だが能力は、本物そのもの。アキル一人でも厳しい所に、ファティという後衛が控えている。どう戦うか。俺は必死に思考を巡らせる。――考えろ、考えろ。

 だが相手は、俺の都合など知った事ではない。再び放たれる複数の火炎。その隙間を縫うように、アキルの影が迫る。


 同じ手が――。


 そう思った瞬間、火炎とは違う閃光が走った。『爆裂』! アキルの影が放ったのだ。土埃が舞い上がり、視界を塞ぐ。……過去の意匠返しって事はあるまいが。しかし、理由は分からないが、()()()()()()()()()()。魔素剣を伸ばし、横一文字に振り抜く。一瞬で視界が晴れるが、アキルの影はそこにはない。


 だろうな!


 瞬時に刃を短くし、上方へ振った。そこに、アキルの影があった。剣を握った影の両手首を切断し、斬り落とされた先が霧散するのを視界の端に捉えながら、俺は前方へ向かって駆け出す。2対一で戦う時は、どちらか片方を集中して倒す。これが定石だ。まずは――後衛! 

 連射される火炎を避けつつ、ファティの影へと吶喊する。先刻と同じだ。だが今回は、追撃までの時間は稼げた筈! 俺は『爆裂』の魔符を発動する。が、当然『光壁』で防がれる。ファティは、周囲全体を球のように囲む『光壁』が得意だった。だが今は、正面だけだ!


 俺は壁を飛び越え、魔素剣を振り被る。これで――。


 その時感じた横からのプレッシャーに、俺は反射的に上半身を仰け反らせた。と、その場所を黒い魔素粒子の柱が凄まじい勢いで通り過ぎた。柱? ……そうではない。腕だ。触手のような、魔素の腕。5年前に見たもの。それが4本、ファティの背中から生えていた。いや、ファティの「影」の、だな。

 成程、接近戦にも対応可能という訳か。だが俺だって、5年前とは違う。

 俺は再び飛び出す。4本の触手が蠢きながら進路を妨害しようとするが、横合いから来た一本を魔素剣で払うと、殆ど抵抗感を感じる事無く霧散した。


 ――いける!


 そう思った次の瞬間、後方から圧を感じた。正体を考える暇は無い。咄嗟に『光壁』を張ると、そこに飛んできた光の束が殺到した。


 〜〜シビルが口から出したものと同じ?


 それは一瞬で『光壁』突き破る。ロープを使って距離をとっていなければヤバかった。見ると、アキルの影からも触手が生えていた。その先に光が残っているのをみると、そこから発射したのだろう。


 ……良いコンビだよ、お前らは。〜〜全く!


 斬り落とされた手首に粒子が集まり、新たな手首と剣を形成する。ファティには近づけさせない。その意志を影から感じる。だが――。


「……安心したよ」

 前後から8本の触手に挟まれて、俺は1つ息をつく。「やはりお前らは、アキルとファティじゃあない」


 何を今更、とドナホゥなどは笑うかもしれない。見た目はともかく、戦い方は彼らそのものだった。細かいクセさえ含めて。懐かしささえ感じるほどに。だが今、背中から生えている触手――異形のもの。こいつ等は間違い無く、魔物だ。魔物の戦い方だ。魔物なら、倒せるさ。

 俺はゆっくりと後退する。アキルの影は近づく事無く、その場で触手を振り上げた。その先端に、光が灯る。ファティの影のものにも。


 ……遠距離からのなぶり殺しに切り替えたか? 


 俺は腕に巻き付けたロープに魔力を流す。次の瞬間、再び光が発射された。


 ◇ ◇ ◇


 既に何体の魔物を倒したのか、憶えていない。ミルサークは一つ息をつくが、その間を狙うかのように猿型の魔物の爪が襲いかかる。それをアルクァ・バルトで砕き、そのままの勢いで敵の頭部を粉砕する。正面から体液を浴びるが、拭う余裕など無い。

 地面には倒した魔物の死骸が幾重にも重なり、流れた血や油もあって足元は最悪の状況だ。だが、移動するわけにはいかない。横目でドナホゥを見ると、彼女も浴びせられる血糊に構う事なく、俯いたまま集中を切らしていない。


 〜〜まだか、という言葉を出したくなるのを必死で堪えて、ミルサークは再び前を向く。


「いけるか?」

 背後から言葉と同時に、回復薬が差し出される。「飲んどけ。喉を乾かさないようにな」


 リドワンの言葉に初めて、喉がカラカラな事に気付く。


「すまん」

「無理もないさ。魔素濃度もかなり濃い。その影響もあるだろう」


 ……何となく体が重い気がしていたが、そのせいか。一瞬目が霞んだような気がして、ミルサークは自分の頬を叩く。〜〜よし。改めて、こちらに向けられた無数の瞳を睨み返す。


「さあ、次は誰だ? かかって来い。戦ってやる!」


 その一喝に、魔物達は何となくたじろいだように見えた。言葉が通じたとは思えないが。

 ふと、ドナホゥが顔を上げた。


「見えた、かも」


 二人は同時にドナホゥの方を向く。


「何処だ?」

「あっちの――壁の方です。壁そのものじゃあなくて、その手前」


 疑う事はしない。


「行くぞ」


 3人は視線を合わせて頷くと、移動を開始する。リドワンが魔素剣で地面の死骸を払い除ける。もはや、出し惜しみをしている場合では無い。進行方向にいる魔物を横に一閃し、片付ける。


「ち、ちょっと、行き過ぎですぅ!」


 ドナホゥの声に、リドワンは慌てて足を止めた。……ここ? 横壁からは少し距離がある、何もない空間。魔素剣を振ってみるが、やはり手応えは無い。

 ドナホゥは両掌に魔素を集めて魔力を集中させる。発光するそれで、一見では何も無い空間に震える手を伸ばす。


 ……お願いっ!


 ミルサークは眼を見張った。反応があった。ドナホゥの指先から、水面に水滴が落ちたかのように金色の粒子の波紋が広がる。これが――結界の壁か。


「触れるのか」


 その問いにドナホゥは首を振る。


「今みたいに見えるようにするだけで、精一杯ですぅ」


 掌の発光は消えて、肩で息をしている。相当消耗しているようだ。


「でも――何とかします。人ひとりがくぐれる位のサイズなら、何とか」

「それでいい。それで、どうやるんだ」


 リドワンの言葉にドナホゥは再び、今度は指先だけを光らせると空間に四角を描いた。


「ここに魔力を注いで、壁を実体化させます」

「実体化さえすれば、破壊できる。そういう事だな?」

「た――多分、ですけど」

「了解だ。やってくれ」


 言われる前に、手が動いていた。描いた四角の線に触れ、魔力を流し込む。すると、ミルサークの目には四方から中央に向かって、光の線が太くなっていくように見えた。なるほど、光が中央まで届けばそこが壁になる、という事か。


「……おい」


 リドワンの言葉に視線を上げる。次の瞬間、ミルサークは思わず拳を握り締めた。ドナホゥが作業しているその先の石壁。そこから何かが生えていた。腕だ。巨大な、太い腕。次いで脚。


ジオン・マンシー(石の精霊)か。……こんな時に」


 敵が全身を現した。全身が石でできた、背丈がミルサークの倍もあろうかという巨大な魔物。


「……こっちも、また来るぜ」


 背後でリドワンが呟く。


「了解だ。こっちは私がやる。そっちは任せたぞ」

「はいよ」

「私は前に出るぞ。あいつを近づけさせるのは危険過ぎる」


 返事の代わりに魔素剣が発動する音がした。

 いつまでこれが続くのか。考えても仕方が無い。今はただ、目の前の敵を叩くのみ! 魔物が一歩踏み出すと同時に、ミルサークは飛び出した。

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