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シビルの子  作者: 健人


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47/48

47.「……いくぜ」

「ねぇファティ。カレシ結構攻め込まれてるけど、大丈夫なの? ……って、訊くまでもないか。全然、心配してない感じ?」

「彼氏なんかじゃないわよ。パーティーを組んでるってだけ」


 友人との毎度の掛け合いをいなしつつ、ファティは2人の戦いから視線を外すことは無い。一見、ネジドの双剣の攻撃にアキルは防戦一方のように見える。確かに、ネジドの双剣の扱いは見事だ。先程の、剣の具合を確かめる僅かな所作で、全員の視線を惹き付けてしまった。

 だが冒険者として重要なのは、そこでは無い筈だ。それを確かめてみる、とアキルは言っていた。その結果次第で仲間に誘うと。


 ……だから、私も外からきちんと見極めなければならない。


 真剣な眼差しで勝負を見つめるファティの様子に友人は怪訝な表情を浮かべたが、次の瞬間攻勢に転じたアキルに歓声を上げた。


 ◇ ◇ ◇


 〜〜余裕かよっ!


 一瞬の隙を付かれて弾き飛ばされた俺は、これ幸いと距離を取る。これしきで息を切らすようなヤワな鍛え方はしていない。が、少し息を吐こうと口を開けようとした瞬間、鋼のような肉体が撃ち出された弾丸のように迫ってくる。何とか受け止めるが、見た目からはかけ離れた重さが全身にのしかかる。『身体強化』をかけていなければ、骨の何本かがイッていてもおかしくない。俺には無い、重量感。


 ――まともに受けたらダメだ!


 骨が軋み始めるのが分かる。俺はわずかに上体をズラし、力を逃がそうとする。と――アキルの片手が柄から離れた。


 ヤバいっ!


 腰の骨が砕けるのではと思いつつ、動かしかけた上半身を無理矢理その場に押し留める。何とか止まったその肩口を、アキルの発した衝撃波がかすめる。それだけで、俺は最初に動こうとしたのとは反対方向に吹き飛ばされた。さらなる追撃を警戒したが、幸いそこで間が空いた。……幸い? 馬鹿を言え、単なるアキルの気まぐれだ。もし追撃されていたら、対処できていたか分からない。

 衝撃波がかすめた肩の感覚が無い。とりあえず動かす事はできる事に安堵する。俺は改めて、アキルの方を見た。構えを解いてこそいないが、伝わってくる余裕。決して、思い込みや勘ぐりではない。


「……追撃しないのか?」

「しても良かったけどな」

 アキルは口元の微笑みを絶やさず、剣先を僅かに動かす。「もう少し、お前と戦いたいって思ったのさ。……自惚れじゃあないぜ? ここまでまともに俺と戦えた奴は、いなかったんだ」


 ……戦えているのかね。


 自虐的にそう思ったが、ここまでのアキルの戦いは、ほぼ一撃で決着が着いたと聞いている。それに比べたら確かに、か。


「さあ、続けようぜ。まだそっちも、本気を出してはいないんだろ?」


 そのアキルの言葉に、俺は唇を噛む。剣を合わせて分かった事がある。おそらく剣技そのものは俺とアキルは同等、もしくは俺の方が若干上だ。だがアキルにはその差を埋めて余りあるものがある。――魔法だ。俺自身が『身体強化』を使っているように、剣技大会とはいえ魔法の使用を禁じられている訳ではない。無論、剣を無視して魔法攻撃をバカスカやるのはご法度だが。


 さっきのアキルが放った衝撃波のような、剣と魔法の連携。それができてこそ一人前の前衛冒険者(アタッカー)。それがこの世界の常識で、俺が自身の能力不足を呪う原因だった。俺が人並みの威力を持つ魔法を使うには、魔符を使わなければならない。魔符は使い捨て。そして何より、手に入れるのにカネがかかる。ただでさえ貴重な魔符を、実戦でもないこの場で使う訳にはいかない。――と、思っていたのだが。


「……そうも、言ってらんないな」


 俺はぼそりと独りごちつつ、仕込んだ魔符の位置と種類を頭の中で再確認する。使うかどうかは決めていなかったが、準備は怠っていない。いずれにしても、ここで優勝しなければ俺は無一文どころか借金生活なのだ。


 一度深呼吸をして、再び双剣を構えた。


「……いくぜ」


 ◇ ◇ ◇


 ネジドの雰囲気が少し変わった事を、アキルは察知していた。魔法が苦手である事は知っている。それを補う為に常に魔符を身に忍ばせている事も。アキルも魔符を使う事はある。魔力が高いといっても使える魔法の種類は決して多く無い。それを補う為だ。だからこそ、魔符使う際の弱点を知っている。

 まず魔法を発動させるまでの手順が多い。「取り出し」て、「狙いを定め」、「発動させる」。この「取り出す」というのが決定的な差だ。ワンテンポの遅れ。場合によっては、命取りともなる。さらに「狙いを定め」るのが難しい。誤って自分に向けて発動させた、という話は枚挙に暇がない程だ。だが当然その事はネジドも先刻承知で、何らかの対策はしている筈。


 ……さて。どうやってくる?


 ネジドの体が僅かに発光する。自分のものと比べて、明らかに小さな輝き。それでも、突進するスピードは侮れない。体術の訓練の賜物、という事か。右の一撃を跳ね飛ばすと同時に左に備えて剣の位置を調整する。それに吸い寄せられたかのように、ネジドの剣が衝突する。

 確かに、手数の多さは特筆ものだ。アキルとて、決して余裕しゃくしゃくという訳では無い。だが、軽い。それを補う為の手数なのだろうが――それだけじゃあ、なっ! 


 魔符を使わないなら、ここまでだ。アキルは『身体強化』を強める。ネジドの倍以上はあろうかという発光量。相手の次の一撃に合わせて剣を振る。武器を砕いてしまえば。その時点で試合終了だ。ネジドの剣が飛んで来る。ベストのタイミング! これで終わり――と思った瞬間、ネジドの剣が()()()。アキルの剣に沿って流れるように横へ移動する。


 ――受け流し!


 アキルは目を見張り、蹴りを放とうと体を回転させる。それが幸いした。背後で激しい光の瞬き。観客席から悲鳴が起こる。『閃光』か! 魔符? いつ準備をしていたのか。だが、ツイてなかったな。よりによって俺が後ろを向いた瞬間に発動させるとは。


 蹴りの動作を中断し、剣を振るう事を選択する。一瞬の判断。俺の眼を塞いだとして、あいつが飛び込んでくるのは――ここだ! 

 しかし、想定外の事が起こった。必中を期して振り上げた剣に手応えは無く、切り裂いたのは虚空のみだったのだ。~~後ろか? いや、違う。さらに次の瞬間、アキルの周囲で数回の爆発が起こる。追加の目くらまし? それにしても速い! 爆発の数だけ魔符を使っている筈だ。どうやったらここまで連続で発動できるんだ? 


 ……焦って移動するのは悪手だ。視界が効かないなら、魔素を探知する。『探知』を発動して――アキルは愕然とした。魔素が周囲を漂い、『探知』が効かない。あの爆発で魔素が散ったっていうのか? そんな事が――。

 突然、足を払われた。あえて立ち上がらず、倒れたまま地面を転がる。耳元を剣先がかすめる音がする。それも一度ではなく二度、三度。ネジドには、見えている。その事実に、背筋が寒くなる。『光壁』で防ぐか? いや、どこか一方にしか張れないそれは、この状況では意味が無い。


 結局、迎え撃つしか無いよな。


 回転を止め、膝立ちになって身構える。と――その足元に違和感を感じた。視線をやり、自身が踏みつけているものを確認して、アキルは目を見張った。


 ――『爆裂』の魔符!


 魔符は発動させると消滅する。残っているという事は……。


「足を離した瞬間、爆発するぜ」

「〜〜だと思ったよ」


 何処からかするネジドの声に、苦笑しながら答える。土埃が晴れた時、正面に立ったネジドが剣先をこちらに向けていた。アキルは剣を地面に置くと、両手を上げながらゆっくりと立ち上がった。


「……降参するよ。俺の負けだ」


 アキルはそう言うと、何が起きたのか分からずに戸惑っている審判に向かってそういう事です、と頷いた。


「と、言う訳だから、爆発しないようにしてくれないか。負けた挙句に片足を奪われるのは、流石に割りに合わな過ぎだからな」


 周囲も状況が分からずに静まり返る中、ネジドは頷くと、無造作に魔符を引き抜いた。目を丸くするアキルに向かってそれをひらひらと振りながら、ニヤリとする。


「……ブラフかよ」

「そんな便利には、使えないさ」


 ネジドはそう言うと、魔符を仕舞った。


「し、勝者、ネジド!」


 審判が手を挙げて宣言する。しばしの静寂の後、ブーイングと歓声が入り交じった、嵐のような叫声がその場を支配した。


「――やられたな」


 アキルはファティがいる観客席の壁にもたれかかる。


「まだ、やれそうに見えるけど?」


 含み笑いを浮かべながらのファティの言葉に首を横に振る。決定的だったのは、魔符の使い方ではない。その前の攻撃を受け流された時点で、剣技大会としては終わっていた。


「どう思う?」


 アキルの問いに、ファティは向いの花道を引き上げて行くネジドを見やる。ふと彼が振り返り、目が合ったような気がした。


「……ズルい人ね」

「ああ。だがそれが良い、だろ?」


 ファティは頷く。ずる賢い戦い方等、普通の魔物相手には必要無い。あるとしたら対人戦向けか――下層の、知恵を持つという魔物と戦う時、だ。勿論、魔女も含めて。


「誘うの?」

「ああ。でも、今すぐじゃあない、かな」

「どうして? 早い方がいいんじゃない?」


 アキルは振り向いて苦笑いを浮かべる。


「――あいつが素直に、受けてくれると思うか?」

「思わない」

「だろ? ま、機会はいくらでもあるさ。焦るこた無い。それに――」

「それに?」


 アキルは答えずに軽く手だけを振った。何となくだが、今のネジドの気持ちが分かるような気がした。

 表向きの性格は違えども、根元では俺とあいつは同じ人種だ。それが分かったのは、大きな収穫だった。


「ま、いいわ。とりあえず、飲みに行きましょ。あなたの奢りで」


 ファティが肩をポン、と叩く。……またか。アキルは大きくため息をついた。

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