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シビルの子  作者: 健人


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45/48

45.「あなたもきっと、喜ぶわ」

 光線は俺が移動していたら立っていたであろう場所を貫き、そのまま最後衛――ドナホゥへと向かう。まずい。あれはおそらく、『光壁』でも防げない。

 それはドナホゥにも本能的に理解できたが、近づく光線から目が離せず、動けなかった。


 ダメ! やられる!


 観念して目をつぶろうとしたその瞬間、視界の端から別の光体が飛び込んできたかと思うと、正面からの光線を殴り飛ばした。


「〜〜ギルド長ぉっ!」


 光線を殴って曲げるなんて、何て無茶な。腰が抜けて崩れ落ちそうになるのを、なんとか堪える。


「やってみれば、できるものだな。……大丈夫か?」


 ミルサークは視線をシビルから外す事無く訊ねる。その拳を見たドナホゥは息をのんだ。拳の形は保っているが、殴ったところはアルクァ・バルトごと肉が削がれて骨が見えている。拳だけでなく、腕自体にもダメージがあるに違い無い。


「あ、ありがとう、ございます」


 ドナホゥは慌てて回復魔法をかける。


「気にするな。これが私の役目だ」

「で、でも――」


 魔法は肉体の回復はできても、武器の修復まではできない。と――回復したミルサークの拳に沿うように一瞬で金属が復活し、ドナホゥは目を丸くした。


「理屈は分からんが、こういうものなんだよ、こいつは」


 ミルサークは半分だけ顔を向けて白い歯を見せた。

 そんな二人の姿を見て、シビルは鼻を鳴らした。


「――やるじゃないの。でも、いつまで続くかしらね」

「続けさせないから、心配無用さ」


 不意にかけられた背後からの声に、シビルも一瞬硬直する。いつの間に――。


 振り下ろされるリドワンの魔素剣。だがシビルは振り返る事無く、背後に『光壁』を発する。一瞬でも押し留められればそれでいい。


 そういえば、もう1人は――?


 脳裏によぎったと同時に横合いから飛び込んで来る影。『爆裂』で迎え撃とうと動かしかけた腕を空間を疾走(はし)る光が切断する。その勢いを利用して、俺は斜め下からシビルの胴体を斬り上げた。

 シビルが放った光線の行方を見ていた俺の視界の端に、シビルに向って飛び出すリドワンが見えた。――そうか。光線が飛んでいるという事は、さっきあった壁は今は無い! 俺も瞬時に意識を切り替える。示し合わせた訳では無いが、リドワンはシビルの背後、俺は正面からの挟撃。俺の魔素剣は間違い無く、シビルの胴体を切り裂いた――筈だ。だが、駄目だ。手応えが無い。

 斬り落とした腕が、黒い粒子を発して崩れるのが見えた。そして次の瞬間、シビルが口元に笑みを浮かべると、弾けるようにその身も霧散した。


「やったのか?」


 ミルサーク達が駆けてくる。


「いや、駄目だ。これは違う。……そうだよな?」


 俺の言葉にリドワンは苦々しい表情を浮かべて頷く。


「魔素で造った身代わり――人形だな」

「じゃあ、魔女は何処に……?」


 言いつつドナホゥが向けた視線の先に、全員の視線が集まる。小屋の扉――。一番近くに居たドナホゥがゆっくりと、何かに魅入られたかのようにその取っ手に手を伸ばす。


「おい、よせ!」

 俺は慌ててその手を掴む。「ワナって可能性も――」


「いや、それはどうだろうな」


 そう言って、俺とドナホゥを押しのけるように扉の前に立ったのは、ミルサークだった。


「どういう事だ?」

「さっき、斬られる瞬間の表情は演技には見えなかったと言う事さ。――人形だとしても、な!」


 言うなり、アルクァ・バルトの拳を扉に叩きつける。本来外に開く筈の扉が蝶番ごと内側に吹っ飛んだ。

 リドワンが苦笑しながら俺の方を向く。


「……お前さんのパーティー(とこ)は、皆脳筋なのか」

「失礼な事を言うな。コイツだけだ」

「あ、あたしは違いますよぉ」


 俺達の抗議を聞き流して、リドワンは中を覗く。俺も一度唾を飲み込んで、首を伸ばした。……暗い。さほど大きな小屋でないが、奥が全く見えない。明らかに室内の暗さでは無く、小屋の中に全く別の暗い空間が広がっているのだ。


「先頭、行くぜ」


 迷っていても仕方が無い。俺は一歩踏み出す。――この空間には、何となく覚えがあった。5年前アキルと、ファティを取り戻そうと戦った空間。その時の空気に似ている……いや、そのものだ。

 入った瞬間、周囲を闇に包まれる。いや、闇ではない。魔素粒子だ。あの時と同じ、黒い魔素粒子が充満している。凄まじい魔素濃度だ。だが不思議と体の不調は感じない。慣れてしまったのか、それとも――。


 俺は一度立ち止まり、後ろを振り返る。後続の姿は見えない。魔素剣の刃を発する。魔素粒子を斬れるこの光なら、もしかしたら後ろから見えるかもしれない。無駄かもしれないが、念の為だ。分断されたとは、思いたく無い。

 俺はしばらく歩き続けた。距離は小屋の大きさをとうに越えている筈だが、先は見えない。魔素剣を発し続けているにも関わらず、魔素切れの予兆すら感じない。異常な空間。


 ――思い出したわ。


 突然シビルの声がして、俺は立ち止まった。どこからかは分からない。強いて言うなら全方位から聞こえたような気がした。


 ――あなた、前に会っているわね。


 ……憶えていたのか。俺は無意識に唇を噛んで力んでいる自分に気付き、ゆっくりと息を吐く。


 ――ここまで来られる冒険者は滅多にいないからね。憶えているわよ。確か、3人組だったわね。――2人は死んだのよね。


「……お前が、殺したんだろう」


 俺は声を張り上げる事無く、隣に話しかけるように言葉を発する。必死に。


 ――そうね。でも仕方ないでしょう? あたしも、死にたくないもの。殺しに来られたら、殺すしかないじゃない。


「お前が、ファティを!」

 思わず叫び声を上げて、俺は何とかそこで言葉を止める。「……ファティを殺さなければ、俺達だって、」


 ――引き上げたって? 知らないわよ、そんなの。あなた達が悪いのよ。あたしに期待させたから。ここまで辿り着いた魔法使いなら、期待するじゃあない? でも、違った。()()()()()()だった。


 思い出した。5年前、瀕死の俺の耳に聞こえてきた声。


 ――お()()()()()()


 あれは――そういう事か。


 ――ま、いいわ。せっかく5年振りに、ここまで辿り着いたのだもの。ご褒美をあげましょう。


「褒美だと? ふざけているのか?」


 ――そう邪険にするものじゃあ、ないわよ。あなたもきっと、喜ぶわ。……それじゃ、楽しんでね。


 声が途切れるなり、視界が晴れた。


 ……闘技場?


 瞬間、そう思った。周囲を石壁に囲まれた、円形の広場。俺はその端に立っていた。後ろを振り返ると、そこにも石壁が立ちはだかっていた。……完全に、分断させられたか。いや、転移させられたような感覚は無かった。この闘技場も、幻影だろう。後続とそう距離は離れていない筈。とはいえ――。俺は石壁に触れ、軽く叩いてみる。本物の石としか思えない感触。だが、分かる。この石壁は、本物じゃあない。魔力で構成された紛いものだ。そして、結界としての壁も兼ねている。分断させられた事には変わらない、という事だな。


 ――さて、何が出るんだ?


 俺は改めて振り返り、魔素剣を構えると同時に柄の魔石カートリッジを交換する。空のそれを腰のホルダーに戻すと、自動的に粉末になった魔石が補充される仕組みだ。こんな所で無駄な消費は避けたいところだが――無駄になるかどうかは、相手次第だな。あの口ぶりからして、まさか本人がご登場という事はあるまいが果たして――。


 ふと、シビルの言葉を思い返した。


 ――()()()()()()()()()()()


 喜ぶ? だと? 俺が?


 その時だった。俺の正面、反対側の石壁の前に黒い粒子が湧いた。……お出ましか。粒子の中から何かが出てくるのか、それとも粒子そのものが襲ってくるのか。いずれにしてもこんなもので何故俺が喜ぶと思ったのか。

 と――粒子が2つに割れた。左右に分かれたそれは激しく渦を巻きながら、それぞれの中心に向かって凝縮を続けている。そして――最終的に形作られたものを見て、俺は目を見張った。人? いや、これは――。


「……マジかよ。悪趣味が過ぎるぜ」


 思わず呟いていた。形作られた2つの人影。両方とも、見覚えがあった。右側の人影。スラッとした長身の男性……()()()。そして左側。ローブを纏い、両手で杖を構えるその姿。


「……()()()()


 俺のつぶやきに反応したかのように、杖の先が光る。反射的に避けた俺のすぐ脇を、極太の火炎が通過する。地面を転がりつつ目をやった俺の視界の中には、すでにアキルの影の姿が無い。ハッとして顔を向けると、そこに飛び込んできた影が振るう、剣の切っ先があった。俺は咄嗟に魔素剣で振り払い後退しようとしたが、すぐ背後には石壁がある。左右どちらに行く? しかし予感があった。ファティの影はそれを予測して、再び火炎を放ってくるだろう、と。ならば――。


 突進してくる切っ先を払うとしっかり金属音が鳴り、手に伝わる感覚も本物のそれだ。わずかだが体勢が揺らいだ影に、思い切り体当たりする。が、衝撃は無く俺は影を突き抜けて前に出る形になった。少し予想外だったが、好都合だ! 俺はそのままファティの影へと突進する。

 振り下ろした魔素剣を『光壁』が防ぐ。一瞬止まった俺の背後から、復活したアキルの影が襲ってくる。俺は右手で短剣を抜いて剣撃を受けると、勢いを利用して前方へ放り投げてその結果を確認することなく距離をとった。


 俺は短剣をしまい、改めて魔素剣を両手で握る。短時間なら耐えられるが、両手で魔力を送り込まなければ刃を維持できない。柄を握る手に残る衝撃と痺れ。かつて味わった感触。それに、あの『火炎』の威力。単に、形を真似ただけではない。


「……まいったね」


 俺は背中に冷たいものを感じつつ、唇を舐めた。

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