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シビルの子  作者: 健人


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19.「合体しよう」

 何だって、襲撃者が顔見知りばかりなのか。自身の行いが悪いのか、と運命とやらを恨みたくなる。


「そんな顔すんなよ。せっかくまた会えたってのに」


 並行して飛びながら、タリスカは剣を担ぐ。


「味方なら、歓迎したんだがな」

 言いながら、アイシャを背中に回す。「いつから、スパイになったんだ?」


「こいつ、スパイなんかじゃあないですぅ!」


 横から口を出すドナホゥに黙ってろ、と一喝するが、止まらない。


「いつの間にか、入れ替わっていたんですよぉっ!」

「……どういう事だ?」

「迂闊だぜ、ネジド」

 タリスカは余裕の笑みを絶やさない。「2層からずっと、お前等を付け回している奴らがいる事に気付かなかったのか?」


「……気付かない訳がないだろう」


 俺より先に、アイシャが気付いていた。


「さっすがァ! なら、話は早ぇや。そいつらを、俺等がやっつけてやったんだよ」

「そして、入れ替わったって訳か」


 タリスカはペッと唾を吐く。


「最近の若ぇのは、根性が据わってネェから困る。指を一本一本削っていったら、アッサリと話をしてくれたぜ。……『シビルの子』ってか。正直、眉唾かもと思ってたんだが――どうやら、モノホンみてぇだな」

 剣の先が、こちらを向く。「と、いうわけでその子を頂くぜ」


「……どうするつもりだ?」

「決まってんだろ、その子は、高く売れるぜ。この国と隣国を天秤にかけて、景気の良い方に売ってやるさ。2人、片付けてくれて礼を言うぜ。おかげで取り分が増える」


 何を――。


 一歩踏み出そうとしたその時、再び下から黒い影が飛び出した。2人目か! 目を離した隙に、タリスカも下方に移動していた。2人がかりで回転しながら、すれ違う都度に翼竜の羽根を傷つけていく。片手だけでは、対処できない。


「わわわっ、落ちる、落ちる、落ちちゃいますぅっ!」

「~~堪えろ!」


 明らかに浮力が失われていくのが分かる。その時、羽根の上に『光壁』が発生した。


「――アイシャ!」


 マントの隙間から歯を食いしばって、手を伸ばしていた。成程、ぶつけてやろうってのか! 下から来ると羽根で隠れて見えないに違いない。が、期待に反してタリスカは『光壁』に衝突する直前で90度曲がり、上空へ飛び去った。


「無駄無駄ムダぁっ!」


 翼竜の機動力が凄いのか、タリスカの技能なのか。


「――おじさん」

 下を見ると、真剣な金色の眼差しがそこにあった。「合体しよう」


「何だって?」


 俺は思わず声を上げた。


 ◇ ◇ ◇


 上空へ舞い上がったタリスカは、徐々に高度を下げていく翼竜を眺めて喉を鳴らした。底に落ちた瞬間がチャンスだ。すり抜けながらかっさらう!


 その時、翼竜の背中から光る弾のような物が発せられた。『爆裂』か? ――そんなもの! 


 が、違った。それは急激に勢いを増して上昇すると、タリスカの正面で止まった。空中に、だ。その目が大きく見開かれる。


「――ネジド!」


 双剣を構えたネジドが、宙に浮かんでいた。魔符を使った? いや――背中から、2つの金色に光る瞳がこちらを見ていた。その光と同じものが、ネジドの全身を包んでいる。


『シビルの子』か!


 ネジドのものでない3本目の腕が上がった、と思った瞬間、至近で『爆裂』が炸裂する。反射的にのけ反り、戻った瞬間そこにネジドが居た。右の初撃を剣で受け止めるが、続けざまに左からの第二撃が来る。頭を下げてそれを避け、上方へ逃れようとする。――が、


「何だとっ?」


 ネジドは既にさらに上空へと移動していた。咄嗟に『氷針』を発動する。が、直前で『光壁』に全て弾かれる。背負った『シビルの子』が魔法での防御を担い、ネジドが本来の双剣スタイルで接近戦をかます。それに、翼竜を凌ぐ空中での機動性。これまで魔法が得意な奴は何人も見てきたが、あれほどの『飛翔』は見た事が無い。考えをまとめる間も無く、爆風がタリスカを襲う。


 ――畜生!


 爆風が発生する『爆裂』は、空中戦で最も効果的だ。破壊力も高く、それだけにこちらとしては迂闊には使えない。『シビルの子』は、あくまで生きて捕らえなければならないのだ。


「ルフーブ、合流しろ!」

 残った仲間を呼び寄せる。「挟み撃ちにする!」


 ターゲットのいない翼竜に用は無い。いかに『シビルの子』とはいえ、魔素が無尽蔵ということはないだろう。距離をとって、魔法で削ってやる!

 左右に分かれて『氷針』を掃射する。ネジドの背中からの手が左右に伸び、『光壁』でそれを防ぐ。――いつまで持つかな? こっちは予備の魔石も魔符もまだまだあるんだ。


 だが次の瞬間、タリスカは自分の認識が甘かったことを思い知らされる事になった。突然、眩い光が視界を塞いだのだ。『閃光』か! 翼竜が顔を背け、勝手にUターンする。――ルフーブは? 姿を探そうにも眼の前が白くなって何も見えない。

 ようやく視界が戻ったのは、ネジドとルフーブが交錯した瞬間だった。切断された翼が舞い上がり、振り落とされたルフーブがゴミのように落下していく。それを見送る間もなく、再び『爆裂』が襲ってくる。


 ――舐めやがって。


 回避行動を取りながら、タリスカは懐から魔符を取り出した。


 ◇ ◇ ◇


「――大丈夫か?」

「平気」


 一旦翼竜の背中に戻った俺は、背中のアイシャに声をかけるが、戻ってきたのは短い返事だけだった。言葉通りに受け取って良いのか、表情が分からないと判断できない。が、今はアイシャが頼りだ。残るは、タリスカ1人。……最も、厄介な相手だが。


「――おじさんは、何故か体に魔法が通りやすいんだよ」


 合体しよう、とよく分からない事を言い出した後にアイシャが続けた言葉だ。


「直接触れながらかけると、もっと効果が上がるんだ」


 肩車をしながらロープを降りていた時に気付いたという。確かに、違和感は俺も感じていた。他人に魔法をかけてもらうなど5年振りだったし、アイシャがかけたから効果が高いのか、と思っていたのだが。

 彼女の言う合体とは肩車の事だったのだが、それは断った。あまりにも不安定だからだ。腕の動きも阻害されそうだしな。代わりに提案したのが、()()()だったという訳だ。俺はマントの中に入るよう言ったのだが、今度はアイシャが断った。


「腕が出せないと、魔法使えないし」


 使えない事は無いが、指向性を定める為に腕の向きは確かに必須だ。言い合っている暇もなく、俺達は荷物をドナホゥに押し付――任せて、『合体』した。予備のロープで固定し、両手に双剣を構える。アイシャが『飛翔』と『身体強化』を唱えると、体がこれまで以上に軽く感じた。


「――いくぞっ!」


 俺は飛び上がり――今に至る。


「翼竜は平気か?」


 ドナホゥに尋ねる。


「〜〜このままなら、何とか。大きい分、回復力も高いみたいですぅ」

「何とか持たせてくれ」


 そして、アイシャも堪えてくれ。


 上空のタリスカは機を伺っているのか旋回を続けていて近付こうとはしない。一対一なら、こちらに分がある――筈だ。早めに、ケリをつける!


「……最後にしよう。行くぞ」


 背中に声をかけると、頷いたアイシャの顎が肩に触れた。

 俺は上空へと飛び上がった。前動作無しで上下左右、自由自在に動けるこの感覚。最初は戸惑った。自分の体が自分のものでない、まるで外から操っているかのような感覚。しかし、凄い! これまでに経験した事の無いレベルで体が動く。戦う事が楽しい。自分でも知らない内に、そんな事を思っていたのかもしれない。――だから、油断があったのだ。


「あぶないっ!」


 アイシャの声に、気付いた時は遅かった。タリスカが何かを撒いた、と思った瞬間、凄まじい風の流れに巻き込まれて飛ばされる。眼の前に崖が迫る。――アイシャを、潰すわけにはいかない! ギリギリで体を捻り、右肩から激突した。『身体強化』がなければ半身が潰れていたかもしれない。痛みを堪えつつ、何とか意識を繋いでその場に留まる。頭に浮かんだのは、崖にぶつかってから火炎の中に消えた敵だ。


 ――何をした?


 見ると、目の前には巨大な風の柱が立っていた。渦巻き――竜巻だ。それは徐々に近づいてきて、崖を削ってその欠片を下に飛ばす。……下に? 下向きの竜巻だと?

 壁伝いに移動するが『氷針』によって引き剥がされ、気が付くと三方を竜巻に囲まれていた。状況を確認する間もなく、上空からタリスカが突進してくる。――疾い! 竜巻の勢いを利用したのか!


「俺はな、風魔法が得意なんだよ!」

 鍔迫りあった瞬間、タリスカが叫ぶ。「三本とも、魔符で強化してあるぜ! 動けるなら、動いてみやがれ!」


 そのままの勢いで下へ移動する。腕が痺れている。下手をすると、剣が折れそうだ。確かに、周囲を囲まれて動けるとしたら上下の一本道しかない。だがそれはタリスカも同じ筈だ。下から来るなら、待ち受けるだけの事。

 が、タリスカが指を鳴らしたその瞬間、竜巻の向きが逆転した。下向きから、上向きへ。その風に乗り、目にも留まらぬ疾さでタリスカは俺達の上をとる。アイシャが上に『光壁』を張る。が、タリスカは先程のように直前でターンすると竜巻に飛び込み、勢いを増して横から斬り込んでくる。全方向からの連続攻撃。まるで4、5人を同時に相手しているような感覚。


 〜〜畜生!


 迂闊に飛び出した己の判断を呪いつつ、俺は必死にどうするかを考えた。

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