隊長vs司教
第51話です!
是非楽しんでください!
不滅ノ翼本部
・シオン視点
「ダリル捨てようか」
カプシドがそのような発言をしたのを僕は聞き逃さなかった。
ダリルという盾を失うならそれはカプシドを倒す絶対的なチャンスだと判断した。
今思えばこの考えが間違っていたのかもしれない。
「シオン隊長。そろそろ終わりにしたいから僕から攻撃を仕掛けるね。そこで君には是非ともオレンジガールを守って欲しい。オレンジガールをコレクションに加えたい僕と部下を守りたい君、どちらも目的は同じだ。君はただの部下なら必要最低限の犠牲として切り捨てるかもしれないがオレンジガールは君にとって切り捨てられないもののようだ。だから僕は君がオレンジガールを守りきって君だけが死亡するシチュエーションを願うよ。では、さようなら。」
自分勝手にペラペラ喋ったと思ったらダリルと呼ばれる死体人形が大きく膨れ上がる。
やばそうな気配を感じたためすぐにシャボン玉でダリルを閉じ込めて封印しようとする。
ダリルはドンドン膨張していくのとその度に武器が生成されていく。
これ、このシャボン玉だけでダリルを閉じ込められるのか?
すでに膨張のしすぎてシャボン内でみちみちになっており所々武器が飛び出して球体の形を保てていない。
「さぁ!ダリル!お前の真価を見せてあげなさい!咲き乱れろ僕のコレクション!」
その声と共にダリルと呼ばれる死体人形が爆発する。
爆発と共に無数の武器がその爆発の勢いで発射される。
ダリルを閉じ込めていたシャボン玉は割れ、僕とヤツカちゃんに襲いかかる。
*
爆発。
轟音が空間を引き裂き、視界が白に塗り潰される。
遅れて、鉄と肉と石の破片が嵐のように吹き荒れた。
無数の武器が、弾丸のように空間を走る。
床を抉り、柱を砕き、壁を貫通する。
その余波で煙が立ち込める。
視界はほとんど奪われる。
「……はは」
カプシドが、静かに笑う。
煙の向こうはそこに無数のシャボン玉が重なり合い、一つの巨大な防壁があった。
その中心に、ヤツカが無傷で倒れていた。
「やっぱりそっちは守るんだね。」
愉快そうに呟く。
カプシドは辺りを見渡すがシオンの姿はない。
「……ああ、なるほど」
カプシドは納得したように頷く。
「オレンジガールを守って、死んだ」
嬉しそうに、頷く。
「いいねぇ。すごくいい終わり方だよそれ!まさに僕が願っていた終わり方!いいね!自己犠牲ってやつでしょ?僕はそういうの嫌いだから絶対にやらないけど!楽に終わるならなんでもいいよ!」
カプシドはヤツカへ向かって歩き出す。
「じゃあ回収しよっか。オレンジガール、シオン隊長が命をかけて守った君はその頑張りが無駄にならないようにちゃんと綺麗に保存してあげるから安心してね。」
瞬間。
パン。
乾いた音。
カプシドの左肩が、内側から爆ぜた。
「――っ?」
黒い粒子が弾け飛ぶ。
カプシドが反射的に後退する。
「なに……?」
視線を、上へ。
空を、見上げる。
そこにあった。
シャボン玉。
空を埋め尽くすほどの量のシャボン玉が静かにゆらゆらと浮かんでいる。
その中心にシオンが立っていた。
足元には、二つのシャボン玉。
それを踏み、滑らせるように空中を移動している。
「……はは」
カプシドが、笑う。
「なにそれ。空飛んでるじゃん。そのシャボン玉、足場にもできるの?ずるくない?」
シオンは、何も答えない。
ただ、冷たい視線だけが落ちる。
静かな殺意。
「いやいやいや、いいねそれ。すごくいい!」
カプシドが、拍手する。
パチ、パチ、パチ。
場違いなほど軽い音。
「さっき死んだと思ったのにさ。こうやって上から出てくるの。しつこいと正直思ったけど。よく考えると苦労して手に入れたものほど大切なものになるからね。オレンジガールをより素晴らしいものにするための演出として完璧だよ!」
シオンの足元のシャボンが動く。
2個のシャボン玉がシオンを乗せたまま加速しカプシドの方へ向かう。
それに合わせて周囲のシャボンも連動する。
シャボン玉は常に死角を埋め射線を確保する。
防御と攻撃、どちらも万全な構えだ。
「なるほどねぇ……足場と移動を二つのシャボン玉で管理して、残り全部を戦闘に回すのか。すごい精密な操作を同時並行で行っているのかな?それともオート?どちらにしてもすごくいい!やっぱり君、足が義足なのがもったいないなぁ。」
カプシドが、ゆっくりと息を吐く。
「でもさ」
手を、伸ばす。
黒い粒子が、集まる。
「それ、届かなきゃいみないよね?」
カプシドが1つのケースを取り出す。
その中からゆっくりと“それ”が現れる。
白い整いすぎた顔。
生きているのではないかと思うほど美しすぎる死体。
それを見た瞬間、シオンの身体が硬直する。
「これは今僕の中で一番のお気に入りのコレクションのトワ。これを出させたことは誇ってもいいよ。」
カプシドが、トワを優しく撫でる。
「おい、その死体をどこで手に入れた?」
「おや!シオン隊長自らが話しかけてくれた!そんなにトワが気になるのかな?」
そういってカプシドはトワを見せびらかしながら何処にこだわりを入れたかを話し始める。
「いいから答えろ!その人を何処で手に入れた!」
「おや?シオン隊長、ひょっとしてトワの知り合い?なんだ早くいってよそういうの!これを何処で手に入れたかは言えないかな。この死体はアニマさんが持ってきてくれたものだから。けど、トワを知っているならこの子が同化した遺物の能力“永遠”も知っているよね?」
トワの光がなく何も映していない瞳が開かれる。
「させない!」
シオンが踏み込む。
踏み込みと同時に足場にしているシャボンに義足からブレッシャーを放ちその勢いに乗って一瞬で間合いを詰め、カプシドに攻撃を仕掛ける…はずだった。
だが。
届かない。
どれだけ進んでも。
どれだけ速くても。
カプシドとの距離を一向に縮めることはできない。
「今ね、僕と君の距離をいじった。」
カプシドが笑う。
「僕とシオン隊長の届く距離を永遠にした。」
カプシドが両手を広げる。
「もうわかってんだろう?もうシオン隊長がどんなに速くともどんなに大量に攻撃しようとも僕には届かない。そうだ!これも試してみよう。」
ダリルの爆発で散乱した武器が黒い粒子によって浮かび上がる。
数百いや、数千はくだらない量の武器。
「これ全部にさ、“シオン隊長に当たるまで永遠に止まらない”って永遠をつけたらどうなると思う?」
にやり、と笑う。
そして無数の武器が放たれる。
空を裂き、地を抉り、軌道を変えながらシオンへと向かう。
シオンがシャボンを展開する。
防ぐ。
弾く。
シャボンでいくら防いでも武器はシオンを追い続ける。
数千もの対象を捌く技術はシオンにはある。しかしそれを長時間維持し続けるかとなると別の話である。
半オートではあるものの細かいものはマニュアルでやらなければいけない。
今回は防いだり弾いたりしただけでは変わらず襲ってくる。
シャボンで包んで封じてもそこに固定することを維持しなければシャボンごと突撃してくる。
必然的にマニュアルでやらなければいけないことが増えていく。
そんな超精密操作を並行処理しているシオンの脳は限界に近かった。
そして
「……っ!」
血が舞う。
だが終わらない。
武器は追い続ける。
どこまでも。
永遠に。
「ねぇ、シオン隊長」
カプシドの声が、やけに近くに聞こえる。
「自分の攻撃は一切届かないのに相手の攻撃だけは届くのはどんな気持ち?しかもそれが自分の大切な人の攻撃って。」
シオンは、踏み込む。
何度も。
何度も。
だが。
届かない。
その一歩が、永遠に
「無駄だよ」
カプシドが笑う。
武器が突き刺さる。
肩。脚。脇腹。
痛みが走る。
そして痛みが消えない。
「その痛みと傷は消えないよ。これもトワの能力で傷の永遠化をしているからその傷は永遠に残るよ。」
シオンの動きが、僅かに鈍る。
その一瞬。
さらに武器が刺さる。
「いいねぇ」
カプシドが、うっとりと呟く。
シオンは負けじとシャボンを展開する。
「……まだ、やるんだ」
カプシドが、少しだけ驚いたように笑う。
「ほんと、しつこいね。そろそろ飽きてきたんだけど。」
トワの手が、さらに開く。
カプシドが囁く。
「そうだ!シオン隊長にはこっちの方が効くよね!」
指を鳴らす。
武器が、再び放たれる。
しかし今度の攻撃はシオンの方に向かってこない。
その攻撃の先を見るとそこにはシャボンで覆われて倒れているヤツカがいた。
シオンは今のシャボンの防壁でもあの攻撃は防ぎ切れると頭では理解している。
しかしその防壁も完璧ではない。
あれだけの攻撃を受けたとき100%壊れないとは言いきれない。
そしてこれはカプシドの罠であることも理解している。
あの防壁なら高い可能性で守れる。それに助けに行くこと自体がカプシドの罠。何度もいうが頭ではシオン自身も理解している。
しかしほんの少し1%にも満たない確率でヤツカが死ぬ可能性があることが頭をよぎった瞬間、
シオンはヤツカに向かう攻撃をその身で庇った。
飛んでくる武器はシャボンより早い。そのためシオンはその身を使ってヤツカを守ることにしたのだ。
遅れてシャボンがシオンの周りに集まり飛んでくる武器を迎撃するが、その前に受けた武器はかなりの数である。
しかもその傷と痛みは永遠に消えない。
そして攻撃が止む。
シオンは自分の身体を貫いているもの達を見たのちヤツカを見る。
ヤツカには傷はなく守り切れたことを確認する。
シオンの周りのシャボンとヤツカのシャボンが消える。
「……あぁ」
カプシドが、満足そうに笑う。
「シオン隊長、君は本当に最高だよ。ありがとう!僕のコレクションを守ってくれて。この礼に彼女をコレクションに加えたら真っ先に君に見せるよ。それが僕にできる君への感謝の形だ。そしてコレクションとしてではないが君の死体をオレンジガールの死体の装飾品として飾り付けてあげるよ。死後も一緒になれて本望だろう。」
満足そうに。
ゆっくりと。
カプシドはヤツカへと歩み出す。
*遺物犯罪者収監所
ミレーナとイサリの勝負は熾烈を極めていた。
互いに互いの攻撃をギリギリでかわしては反撃。それをギリギリでかわして反撃。
それを永遠とも言える時間繰り返される。その戦いは何も知らぬものから見れば約束組み手のような構図である。
しかし本人たちからしたら少しでも相手の攻撃を交わし損ねれば追撃のチャンスを与え、それはそのまま自分の命の終わりを意味する。
そのため両者は自身が勝利するために少しでも最小限の動作で攻撃を交わして相手に攻撃を打ち込む。
これがほんの少しでも遅ければその分相手に威力の高い攻撃を撃つための溜めの時間を与えてしまう。
そのため先程から攻撃範囲の1cm以下ともいえるギリギリでかわしたうえで1秒もかけずに反撃する。
このような攻防を繰り広げられるものは不滅ノ翼の隊長格でもそういない。
そんな芸当を可能にしているのは両者が持つ神凪一族の究極の瞳。魂魄眼のなせる技である。
魂魄眼は相手の感情なども色でみることができる。これを両者は戦闘に応用している。
人は何か行動するとき脳から動かすところに電気信号で命令をくだす。
このとき他者を攻撃するのだから少なからず殺意、そこまでいかなくとも何かしらの負の感情が現れる。
それは攻撃しようと思案した段階で既に攻撃しようとする軌道にそのものの負の感情が現れる。
それを魂魄眼で読み取ることにより相手の攻撃する場所の特定をしているのである。
いうなれば未来予知にも近しい目を持つもの同士の勝負。このまま続けば千日手になるであろう。
そのままいけばの話だが、
ここは遺物が広がっている世界。
今までの2人の攻防はあくまで遺物を使用せずに行われていたもの。
言うなれば基礎スペックで殴りあっていただけなのである。
そのためギリギリ均衡を保っていた勝負、その均衡が崩れようとしている。
「さて、ミレーナ、準備運動はこの辺にしておこう。ここからは遺物の力も使わせてもらおう。」
イサリが軽く手を振るとミレーナに不可視の斬撃が襲いかかる。
いや、この表現は適切でないのかもしれない。
確かに普通の人間には見えない攻撃だが神凪一族、とりわけ魂魄眼まで至っているミレーナになら見えるであろう。
イサリの右手から伸び、剣のように鋭く形づけられた闘気を、
ミレーナはギリギリで交わして距離を詰めることが無理と判断して斬撃を発生させる拳圧を放つ。
しかしその斬撃はイサリにダメージを与えることなく吸収される。
そしてイサリの闘気の刃から先程ミレーナが放った拳圧がミレーナへと襲いかかる。
ミレーナは大きく回避をして致命傷を避ける。
イサリは追撃するでもなく自身が何をできるか試すように動く。
「ふむ、これもできそうだな。」
イサリの掌に収束した闘気が、脈打つ。
本来、闘気とは身体強化の延長だ。
拳に纏わせて威力を高める。
脚に流すして移動速度を上げる。
攻撃を受ける部位に集めて防御力を上げる。
どれも闘気を体内で循環させて使用する
それが一般的な使い方である。
だがイサリは違う。
闘気を圧縮し、形成し、射出する。
それは長く闘気を使用しているミレーナにとって異常であった。
これは神凪一族の中でも異常なのである。
「行くぞ。」
闘気弾が放たれる。
空気を裂きながらミレーナの顔面へ迫る。
ミレーナは首を傾ける。
頬を掠めるギリギリの距離。
交わした次の瞬間には、その場で踏み込んで闘気を纏った正拳突き。
「はぁッ!」
拳の先端に圧縮した闘気を集中させ、正拳突きを完了した瞬間に解放することにより拳圧を飛ばし斬撃を放つ技。
まともに受ければ人体など容易く砕ける。
その拳圧が、イサリへ触れる。
瞬間、消えた。
まるで水に沈んだ火のように。
音もなく。跡形もなく。
「っ!」
ミレーナは即座に後退する。
広範囲に広がる殺意の色をミレーナの魂魄眼はとらえたのだ。
だが遅い。
イサリの右腕が振られる。
すると先ほど消えたミレーナの拳圧がミレーナ自身を襲う。
斬撃。
ミレーナは身体を捻り、少しでも攻撃を受ける面積を少なくしてその面を闘気で固める。
それでも無傷とはいかなかった。
ミレーナの脇腹が裂け、血が舞う。
「……そういうことですか。厄介な身体になりましたね。」
ミレーナが低く呟く。
イサリは静かに笑う。
「理解が早いな。」
彼は一歩踏み出す。
ミレーナは察する。
今のイサリは”空転ノ巻”そのものだと。
遺物と完全に同化したことで、その肉体自体が一冊の巻物へと変貌している。
故に、イサリへ触れるという行為は、そのまま空転ノ巻に触れることと同義。
封印の条件は、それだけで成立する。
さらに、彼の全身を巡る血液は、巻物に垂らしていた媒介の血そのものへと変質していた。
触れた瞬間に封じ、
望んだ瞬間に解き放つ。
巻物を広げる動作も。
血を垂らす手順も。
その一切が不要になった。
だが、ミレーナが本当に警戒しているのは、その利便性ではない。
もし。
イサリの肉体内部にも、この封印判定が適用されているとしたら。
神凪一族だけが知覚できる、闘気までも封じることができるとしたら。
答えは、すでに目の前にある。
先ほどから放たれている異常な攻撃、そのすべてが証明だった。
何度もいうがそもそも闘気とは、本来そんな使い方をする力ではない。
拳に纏わせ、打撃を重くする。
脚へ巡らせ、疾走力を高める。
受ける部位へ集め、防御を固める。
肉体を循環し、肉体を強化する。
それが闘気という力の常識だった。
しかしイサリは、その常識をねじ曲げる。
身体を巡る闘気を、自らの肉体という空転ノ巻へ封印し、必要な瞬間、その封印を解く。
体内から切り離された闘気は、もはや肉体に縛られない。
自由に空間へ解き放たれる。
そして空転ノ巻には、封じたものを任意の方向へ射出する性質も持つ。
剣なら剣のまま。
岩なら岩のまま。
一直線に撃ち出される。
だが、闘気には決まった形が存在しない。
決まった形がないからこそどんな形にもなる。
イサリは放出の瞬間、自らの意思で闘気の形を形成する。
そして闘気は剣となって敵を切り裂き、弾丸となって敵を穿つ。
身体の中だけを巡るはずの闘気を、自在に”武器”へ変える。
では、闘気を身体の外へ放つことに、どれほどの意味があるのか。
答えは単純だ。
攻撃に、すべてを注ぎ込める。
闘気とは本来、身体を巡らせて使う力。
拳に纏わせれば威力は増す。
脚に流せば速度は上がる。
だが、それは同時に、自らの肉体へ莫大な負荷を与える諸刃の剣でもある。
例えば、腕に闘気を集中させて拳を振るうとしよう。
攻撃だけを考えれば、とてつもない破壊力を生み出せる。
しかし、その衝撃を最初に受けるのは相手ではない。
自分自身だ。
骨は砕け、筋肉は裂け、血管は弾ける。
闘気の威力に、肉体が耐えきれない。
だから神凪一族は、その対策としてもう一つの技術を磨いてきた。
それは、闘気で自らを守ること。
攻撃する部位に闘気を巡らせ、内部から補強し、破壊に耐える。
それが闘気術の絶対条件だった。
つまり一撃に込めた闘気は、半分が敵を壊すため。
残る半分は、自分が壊れないため。
攻撃と防御は、常に一対だった。
ゆえに歴代の神凪一族は夢見た。
闘気を百パーセント攻撃へ回す方法を。
数百年。
幾人もの天才が挑み、
幾人もの達人が研究し、
そして誰一人として辿り着けなかった理想。
それを。
イサリは、あまりにも簡単に踏み越えた。
身体を巡る闘気を、自らの肉体という空転ノ巻へ封じる。
そして体外へ解き放つ。
肉体を経由しない闘気は、自らを傷つけることがない。
だから守る必要もない。
抑える必要もない。
遠慮する必要もない。
一撃、そのすべてが純粋な破壊へ変わる。
神凪一族が数百年追い求めながら届かなかった理想。
それを実現した男は、皮肉にも神凪の闘気術を極めた者ではなく、ついこの前まで闘気を知覚することしかできなかったもの。
空転ノ巻と同化した異端イサリだった。
ミレーナは静かに息を吐く。
脇腹から滴る血が床を濡らす。
しかし、それを気にしている猶予はない。
その目に映る世界は、殺意の色で埋め尽くされる。
「シュロート」
先程の殺意の色をなぞるように大量の闘気のエネルギー弾がミレーナに襲いかかる。
軌道はわかる、だが、
その未来を知ってなお、回避が間に合わない。
「一か八か試して見ますか。」
ミレーナは身体を沈め、一発目を躱す。
二発目を肘に纏わせた闘気で弾く。
三発目は踏み込みながら闘気を纏った正拳で砕く。
以降も当たる部位に瞬時に己の闘気を集中させて闘気弾を弾いていく。
土煙がその場を覆う。
その煙を切り裂き、ミレーナは一直線に突っ込んだ。
そこから正拳突きを繰り出す。
「ッ!!」
轟音。
しかし。
イサリはその拳を流した。
拳の軌道がわずか数センチ逸れる。
その数センチが致命的だった。
ミレーナの拳は空を切る。
その瞬間。
イサリの掌がミレーナの手首へ触れる。
柔らかく押された。
ただ、それだけ。
なのにミレーナの身体が地面へ叩きつけられる。
「……っ!」
即座に受け身を取り跳ね起きる。
その瞬間にはイサリの蹴りが迫っていた。
ミレーナは腕で受ける。
受け止めた次の瞬間、腕で受け止めたイサリの足から闘気弾が発射される。
「!!」
ミレーナは腕に闘気を集中させながら少しでも威力を下げるために後方へ飛ぶ。
闘気弾を防ぎ切ってイサリをみる。
イサリは右手を軽く振る。
その右手からは巨大な闘気の刃を形成してミレーナを襲う。
ミレーナは身体を捻るものの肩が裂け血が舞う。
ミレーナは反撃に出るために回避してから間髪入れずに踏み込む。
今度は連打。
一撃一撃が命を刈り取るには十分な威力を持つ。
だが、イサリはすべてを流す。
ただ僅かに触れ、軌道を逸らし、勢いだけを殺す。
「どうした?」
イサリが静かに問う。
「里を飛び出したお前の拳は、その程度か?ヒュベルでの時の拳の方が幾分か強かった気がするぞ?何を躊躇っている?ミレーナ、お前も使え。お前自身の遺物を。」
ミレーナは一瞬躊躇するもののすぐに意を決して懐から面を取り出す。
「これはできる限り使いたくありませんでしたが貴方に対抗できる手段はこれしかありませんね。」
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回もお楽しみください




