広げすぎた(震え)
第49話です!
是非楽しんでください!
「さて、どのような遺物なのでしょうか?」
第二司教が、興味深そうに首を傾げる。
「見ていれば、わかる」
自分は一歩、足を踏み出した。
チリン
鈴が鳴る。
それと同時に漆黒の獣が、消え、次の瞬間。
ガァンッ!!
重い衝撃音。
第二司教の後頭部へ、漆黒の爪が振り抜かれた。
そのまま第二司教の後頭部を削ぎ落とすが第二司教は再生を始めて何事もなかったかのように攻撃を仕掛ける。
チリン、チリン、チリン、
「おや?」
漆黒の獣の姿が、また消えたと思ったら今度は第二司教の右側に現れてその前脚で第二司教を思いっきり飛ばす。
チリン
鈴の音が鳴り響くと共に漆黒の獣は再び姿を消し、第二司教が飛んだ先に現れ、そのまま真上に飛ばす。
自分は結果いないで鈴を鳴らし続ける。
チリン、チリン
周囲に投げた針についた鈴が、一斉に鳴り出す。
チリン、チリン
共鳴。
チリン、チリン、チリン
反響。
チリン、チリン、チリン、チリン
増幅。
音が、空間を満たす。
そして私はこの鈴の音に合わせて舞を踊る。
シャン!シャン!シャン!
音が少し変わる。
絶えず鳴り響く音、そしてその音に呼応するように漆黒の獣、いや、ベルグラウスは第二司教に攻撃し続ける。
「なるほど、なるほど、なるほど、先程から姿を消したり現れたりするのは転移しているからでしょうか?でなければ私の第3の目が見失うはずがありません。そして先程からしきりに鳴らしている鈴の音、そして薄くこの空間に広がっている静鈴花の闘気。ここから導き出されることはそちらのベルグラウスさんは音の波、いわゆる音波に乗って転移しているのですね。」
第二司教はベルグラウスの猛攻を受けながら平然とベルグラウスの能力を考察してくる。
そして第二司教の考察は正しい。けれどそんなものは関係ない。
例え能力がわかったところで対象のしようがない!
再生はすれども分裂増殖しないために打撃と切断しないレベルのひっかきに留めている。
自分には第二司教を倒す術はないが第二司教にもこの猛攻を抜ける手段はない。
これで時間を稼ぎ、ミレーナ隊長、もしくは別の隊長が来るまで時間を稼げば自分の勝ちなのだ。
そのために今、自分が行なっている舞は気息の舞。
静鈴花は舞によってそれぞれのバフをかけることができる遺物である。
静鈴花は召喚の儀による異界の怪物の召喚と舞による様々なバフの付与など異なる2つの特性を持つ珍しい遺物なのである。
普段なら舞を踊り仲間にバフをかけるだけで何とかなるが今回はソーマネクルの司教が相手の上に隊長たちの助けがいつになるかわからない。
だからこそ、召喚の儀でベルグラウスを呼び出し、その体力を回復させながらの持久戦をとっている。
これを続けるのが正解のはず、なのに自分は今、ものすごく胸騒ぎがする。
「正直に申しますとこの攻撃を避けるのは無理そうですね。なのでこうしました。」
その宣言と共にベルグラウスが動きを止める。
ベルグラウスを見れば第二司教が押さえつけている。
第二司教が2人、いつ分裂した?
「おや、おや、おや、どうやら私がいつ分裂したか疑問に思っているようですね。簡単な話です。ベルグラウスさんが私に攻撃している最中に右手で掴みその右手を切り落としただけです。音速で転移しながらの猛攻、貴方自身は舞を踊っている。その状態では右手がついていることに気づかなかったのでしょう。そこから右手の再生を終えるまで貴方に見えないようにしつつ、新たな私ができるまでこの攻撃を受け続ける。そして転移したところでそれに付随する私が生まれたのです。そこまでは良かったのですがこちらのベルグラウスさん。非常に硬い毛皮ですね。この毛皮だけで鎧ができますね。しがみついた状態でこの防御を突破するのは至難の技です。なので…」
そういって第二司教はベルグラウスの頬に手を当ててそのまま力いっぱいに握る。
それによりベルグラウスの口は僅かに開かれ、その隙間に第二司教は指を入れてそれを噛み切らせる。
自分はすぐに何をしようとしているのかを理解した。
理解と同時にベルグラウスの腹が引き裂かれ、多数の知肉をばら撒きながら血にふす。
そしてベルグラウスの亡骸の中から新たな第二司教が出てきた。
「外側がダメなら内側から。古来よりよくある手法ですね。体格差のある敵と相対した時一度食べられて内部から攻撃する。よく童謡で使われる手ですね。まぁ、今回は少し違いますが結果が同じならばいいとしましょう。さて、今出した2人の私は別の現場へと向かっていただきましょう。」
自分は呆然としていたが第二司教の言葉で意識を取り戻す。
別の現場?
「あぁ〜。そうそうそう、フィオラさんは隊長さんたちの助け援軍がくるまで時間稼ぎをするためにあのような戦法をとったのでしたね。ですが、それはだいぶ先になると思いますよ?なにしろ私がイサリさんとミレーナさんの勝負に邪魔が入らないように警戒したのはその隊長さんたちです。そのためその隊長さんたちがこの場に来れない状況を作る必要がありました。それが別の現場。一つはあなた方不滅ノ翼の本部。そしてもう一つはこの国の中枢もとい遺物の実質的管理をしているタルマカ王国、その王城に他の私と他の司教が攻め入っているところです。」
自分は第二司教の言葉に言葉を失う。
不滅ノ翼の本部だったらいくら崩壊しようが隊長たちが生き残っていれば再建はできる。
しかし、今、王城が崩壊、ましてタルマカ王国の国王が死亡したとなれば隣国どころか様々の国が遺物の恩恵を得られるヒュベルを自国のものにするために攻め入ってくるだろう。
遺物で得られる恩恵は大きい。軍事だけではなく生活の基盤にもなっている。
その管理している国が揺らいだとなればそれは絶好の好機。
それは第二司教、アニマ・フェルマータが新国王を惨殺して以来になるヒュベルを求めた世界対戦の幕引きを意味する。
「それを、それを!それを!お前はたかが勝負に邪魔が入らないようにするためだけに。そんな!そんな!くだらないことをするために!行うというのか!?」
「えぇ、そうですよ。それと人によってその事柄がくだらないかどうかは変わります。貴方にとってイサリさんの戦いはくだらないことでしょう。ですがイサリさん、そして主に身を捧げ、これから主のために動くものの望みを叶えることは私にとって価値のあるものです。反対に貴方にとって重要なタルマカ王国による遺物の管理による秩序。これは私にとってどうでも良いことなのです。ただ、それだけのことです。」
狂っている。
自分は理解した。
第二司教が真に恐ろしいのは無限に増える再生し続ける軍団でもその策謀でもない。
真におそろしいのはその精神性なのだ。
冷や汗が止まらない。
援軍は期待できない。
自分は今、王城が無事なことを祈るしかない。
*
「クルス様?こちらを全員お相手なさるおつもりでいらっしゃいますの?」
「やるしかないだろう。幸い、ここには第七番隊と第九番隊が揃っている。不滅ノ翼でも一二を戦力数だ。これで押し切る。」
七番隊隊長・クルス・リヴェットと九番隊隊長・ヴェロニカ・フィンブリアは眼前に広がる無数のアニマ・フェルマータを見て少々愚痴をこぼす。
「リリからの報告だ。本部も襲撃を受けている。リリにはこちらへの合流より、各隊への連絡と指揮を優先させている。現状、ミレーナとシオンはそれぞれ第八司教、第六司教と交戦中。いずれも苦戦しているとのことだ。」
「お二人が手こずっていらっしゃる時点で、状況は容易ではございませんわ。わたくしたちも油断は禁物ですわね。」
隊長2人が会話しているとブロンドの髪色にこれでもかと森に持った装飾品をつけている少女が駆けてきた。
「ヴェロニカちゃん〜!近衛兵と遺物管理局との協力体制が結ばれたよ〜!これでうちらは城の防衛を考えずに前線で戦えるよ〜!」
「エルミナちゃん!よくやりましたわ!これで城を守りながら戦うなんていうまどろっこしいことをしなくて良くなりましたわ!お手柄ですわ!早速攻め込みましょう!」
「待て、ヴェロニカ。まだこちらの準備が整っていない。それと、先ほどからゲシュッツを部下に使用させようとしているが、作動していない。
故障の可能性もあるが、第二司教の能力によって封じられている可能性も考慮すべきだ。ここは人工遺物に頼らず、遺物の力で押す。九番隊副隊長エルミナ、頼めるか?」
「了解!うちにお任せ!爆盛極彩!アゲてこ⭐︎フィールド!」
九番隊副隊長であるエルミナの遺物の名は爆盛極彩。
光る板状の遺物である。
能力は未だによくわかっていない。
能力自体は光る板状のものを操作して行うようだが使っている本人も感覚でやっているためよくわかっていない。
アゲてこ⭐︎フィールドとは周囲にいるエルミナが仲間だと感じたものの身体能力と反応速度を向上させる。エルミナ本人のテンションが高いほど効果が上がる。逆にエルミナのテンションが低い場合はデバフになる時がある。
「上出来だ、感謝する。ミノス、直ちに号令をかけろ。これから伝える私の指示を、全員に徹底させろ!」
「了解しました隊長!全軍!気をつけ!」
ミノスの張り裂けるような号令によって全軍は気をつけの姿勢をとる。
ミノスの遺物はメガホン型の遺物である。名を号令喇叭という。
能力は号令。
メガホンで拡散された指示に従わせるというもの。自分の部下には無条件で発動。相手には自分との力量差によって効き目が変わる。
これにより数秒の誤差なく作戦を実行できる。
「次は私だ。武装転送!兵装配備!」
その掛け声と共に自軍の全ての兵にサーベルが配備される。
これはただのサーベルではない。配備されたサーベル、一つ一つが遺物なのである。
「全軍!今配備された武器をとれ!その後合図があるまで待機だ!」
数百を超える軍勢に遺物が与えられる。
「流石不滅ノ翼の方々ですね。感服致します。」
後ろからメガネをかけた黒いスーツの男が話しかけてくる。
「これは遺物管理局局長、マーベル殿。ご無沙汰しております。遺物管理局が本件に参加されるとは聞いておりましたが、まさか局長自らが出陣なさるとは思いませんでした。」
「いえ、私どもは国王陛下に仕える身です。その国王陛下から徴兵のご命令、ましてやソーマネクル案件となれば私が出るのは必然のことでしょう。私自身に戦う力はありませんが私の遺物ならお役に立てると思いましたので手伝わせていただきます。では早速。」
マーベルが指を鳴らすと王城は透明な膜で覆われる。
「こちらは弾力の結界。私の遺物はあらゆるものに弾力を与えるものです。今は王城周辺の空気に弾力を与えて固めました。この結界があれば多少無茶しても大丈夫でしょう。」
カツカツと音を鳴らしながら1人の男がやってくる。
「多少では困るのですよマーベル卿。この城には国王陛下がいらっしゃるのだ。そのため絶対のものにする必要があるのです。」
「これは申し訳ありません、クライ・リヴェット殿。流石近衛騎士団団長様であらせられる。陛下の身をそこまで案じておりますとは。感服いたしました。私も陛下に仕える身でありますのでリヴェット卿のように粉骨砕身に尽くして参ります。ですが私ではこれ以上の守りを施すことができませんのでご協力いただけると幸いです。」
「仕方あるまい。来い!機械兵!」
クライの声と共に何百体もの機械の兵隊が現れた。
「姉上、全軍に伝えろ。今出現した機械兵は今城を覆っている膜に近づくものを迎撃するようにプログラムしてある。そのため我が近衛騎士団以外が近づいた場合攻撃される恐れがある。」
「近衛騎士団団長殿、ここは公の場です。そのような場で姉上とお呼びになるのは、お控えいただきたい。この場では、クルス、もしくは不滅ノ翼七番隊隊長としてお呼びください。それと自軍の者が近づけない現状は、問題ではありませんか。」
「それについてだが、俺は不滅ノ翼の隊員および遺物管理局員全員の身元を完全に把握しているわけではない。とりわけ不滅ノ翼は、不特定多数が所属する組織だ。
そもそも今回の防衛もだ。タルマカ王国の二大貴族、リヴェット家とフィンブリア家の者が隊長を務めているからこそ、王城防衛の要請を出したのだ。
疑うようで心苦しいが、ソーマネクルの間者が紛れ込んでいる可能性は否定できん。陛下の御身がかかっている以上、軽率な判断は許されない。慎重を期すべきだ。
その点、近衛兵はすべて俺が自ら選抜した者たちだ。身元は完全に保証されている。結界の内外における連絡は、近衛騎士団が一手に引き受ける。
それと、俺にとって姉上は姉上だ。呼び方を変えるつもりはない。そもそも、姉上が不滅ノ翼に入団しなければ、その地位は本来、姉上のものだったはずだ。
……今からでも遅くはない。リヴェット家を継がないか。」
「事情は承知いたしました。
それとリヴェット家を継ぐ意思はございません。私は、国王陛下ではなく、レオン団長殿をお支えしたいと考え、この道を選びました。
そのような者が家を継ぐことは、相応しくないと判断しております。
それに家は代々、嫡男が継ぐ家でございましょう。」
「姉上は相変わらず頭が硬いな。そんな古いしきたり、捨ててしまえばいいものを。
時代が進めば技術が発展する。だが技術だけ進んで古い風習に従った価値観だけが取り残されていては、先へは進めん。
少なくとも家は嫡男ではなく、相応しい者が継ぐべきだ。俺はそう考えている。
……まあ、これ以上は言わん。姉上の意思は理解した。
ただな、その他人行儀な態度はやめてくれ。少し……傷つく。」
「クルス様!なんて素敵な弟様でいらっしゃいますの!わたくし、感動してしまいましたわ!
クルス様も、もう少し弟様にフランクにお話しになってもよろしいのではございませんこと?」
「……ヴェロニカ、今は戦時中だ。余計な話は後にしろ。」
「わたくしクルス様のそういう真面目なところも素敵だと思いますわ!でもでも、仲良しは大事ですのよ?士気が上がりますもの!」
「……」
「難しいことはよくわかりませんけれど!
とにかく元気で勢いがあればなんとかなりますわ!」
「それでここまで来たのが恐ろしいな……」
「流石フィンブリア家のご令嬢だ!話がわかるな!このままもう少し話しておきたかったが……雑談は終わりのようだ。」
眼前には複数人のアニマと囚人服を着たものたちと看守の格好をしたゾンビの群れが進行を開始していた。
クライは空に手をかざす。
次の瞬間
重低音と共に機械が現れる。
「来い、機動兵装。」
宙に浮かぶバイクが何百と出現する。
近衛兵たちが一斉に搭乗する。
「近衛兵、搭乗完了。いつでも出れるぞ。」
クライが短く告げる。
そしてヴェロニカに視線を向ける。
「ヴェロニカ嬢も乗るか?いい話ができた礼に一騎かすぞ?」
「まぁ!空飛ぶ乗り物ですの!?」
ヴェロニカが目を輝かせる。
だがすぐに胸を張る。
「でも大丈夫ですわ!わたくし、自分のがございますもの!」
パチン、と指を鳴らす。
空間に穴が開く。
そこから現れるのは――
巨大な鋼鉄の馬。
それが空を駆けながら現れる。
「いらっしゃいませですわ!マイお馬さん!」
ヴェロニカが勢いよく飛び乗る。
馬がヒヒンと鳴き?空中を駆ける。
「どうですの!速そうでしょう!?」
「確かに速いだろうな。俺と似た遺物か?」
「ええ!速いですわ!とっても速いですの!
あと強いですわ!いっぱい蹴れますの!」
「説明が雑すぎる……」
クルスが呟く。
だがヴェロニカは気にしない。
「細かいことはどうでもいいですわ!
強い!速い!楽しい!これで十分ですの!それと!これも出しておきますわ!」
そういってまたヴェロニカは指を鳴らし空間に穴を開ける。
そしてヴェロニカの身の丈よりも大きい巨大な鋼鉄のハンマーを取り出す。
「これでぶちのめしてやりますわ!っと、その前にエルミナちゃん!この子にあれ、お願いですわ〜!」
「任せて!ヴェロニカちゃん!デコ盛りワールド!」
エルミナが光る板でヴェロニカのハンマーをスキャンしたと同時にヴェロニカのハンマーが2回り大きくなる。
「ありがとうですわ!エルミナちゃん!やっぱり大きいイコール正義ですわ!」
「流石ヴェロニカちゃん!わかってる〜!」
クルスが剣を構え視線を前方へ。
アニマの群れが、明確に距離を詰めてきている。
「数が多いな。」
「面倒ですわね!でも!まとめて叩けば同じですわ!」
ヴェロニカがハンマーを軽く振る。
空気が唸る。
「……お前は本当にシンプルでいいな。」
「褒め言葉として受け取りますわ!」
「みんな準備いいー!?今めっちゃバフかかってるよー!テンションMAXでいこー!!」
ミノスがメガホンを構える。
「全軍、最終確認!隊長の指示を待て!」
声が響く。
数百の兵が、一斉に静止する。
張り詰める空気。
「……統率は取れているな。」
クライが満足げに言う。
「当然だ。こちらは不滅ノ翼だ。」
クルスが短く返す。
「来るぞ。」
低い声。
ミノスが叫ぶ。
「全軍――構え!」
ザッ――
一斉に武器が構えられる。
空では近衛兵が旋回。
地上では隊列が整う。
ヴェロニカが笑う。
「さぁさぁさぁ!楽しい時間の始まりですわよー!」
エルミナも叫ぶ。
「テンションぶち上げていこーー!!」
クライが前へ出る。
クルスが一歩踏み出す。
そして
「全軍、突撃!!」
その号令と同時に、
空と地上、すべての戦力が一斉に動き出した。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回もお楽しみください




