黒よ覆え
第47話です!
是非楽しんでください!
私は息を整える。
私の剣術では拮抗することで精一杯だ。
なら手札を増やす。
この城下町全部を、私の武器にする。
私は廃墟の壁に片足をかける。
崩れかけた窓枠
割れた石材
転がる瓦礫
ツタ
砂利
死体
全部使って勝利する。
狼獣人が再び来る。
速い。
だけど、動きが単調。
速いだけなら読める。
「……直線的」
私はさっき回収したツタを右手に巻きつけ、倒れた死体の腕に引っ掛ける。
そのまま死体ごと投げる。
狼獣人は反射で爪を振るう。
死体が裂ける。
その一瞬、狼獣人の視界が塞がる。
私はその死角に飛び込むように横へ跳ぶ。
同時に、鎧の男が踏み込んでくる。
突き。
やっぱり速い。
でも、距離を詰めるために走ったまま突きをしたのか若干、右足に重心がかかっている。
そこが起点。
なら
私は廃材の木片を蹴り上げる。
木片が刀身にぶつかる。
ほんのわずか。
それだけで十分。
突きの軌道が数センチ逸れる。
剣先が私の頬を掠めるだけで終わる。
私はそのまま男の懐に潜り込み、ナイフを逆手で握り直す。
喉を狙う、と見せて、脇腹。
甲冑の継ぎ目。
浅い。
でも、男の意識が一瞬そこに向く。
その瞬間、私は左手で包帯を投げる。
鎧の男の柄と手首に、くるりと巻きつく。
「……っ!?」
そのまま包帯を下に引く。
もちろん、これで武器を奪えるとは思ってない。
目的は一つ。
視線を下げさせること。
男の目線が、巻き付いた包帯により地面に落ちる。
私はその一瞬に、足元の砂利を蹴り上げる。
砂利が甲冑の隙間、目元、口元に散る。
完全な目潰しにはならない。
でも十分。
その間に私は動揺している取り巻き3人の首を刎ねる。
*
ありえない。
ありえない、ありえない、ありえない。
楽な仕事のはずだ!安全な仕事のはずだ!
なのになんだ!
足元の瓦礫がいきなり飛んでくる。
崩れた壁を背にしたら、その壁を蹴って軌道を変えてくる。
ツタが足首に絡み、同胞の死体が盾になり、砂利が目に刺さる。
まるでここにある環境全てが俺たちに牙を剥いているみたいだ。
「ガイム!挟め!」
俺は叫ぶ。
ガイムが視界の悪い中でも踏み込む。
こいつの剣はまだあの女に通じる。
だから二人で詰めれば仕留められる!
そう思った。
なのに。
「っ……どこだ……!」
視界が悪い。
砂利が目に入り、涙で輪郭が滲む。
だが、俺にはまだ鼻がある。
匂いは消えない。
血、汗、鉄
あの女の位置は、はっきりと“分かる”。
右。
いや違う、壁際、上。
「そこだァッ!!」
俺は迷わず地を蹴る。
視界がなくとも俺の遺物なら嗅覚だけで相手の位置がわかる。
これが俺の強みだ。
見えなくても関係ない!
捉えた!
腕を振るう。
確信の一撃。
だが。
「……軽い?」
手応えがない?
なんだこれは?布か?
…っ!
あの女の匂いが、急に散る。
匂いが、複数に分かれる。
そこら中に“あの女の匂い”がしてくる。
どう言うことだ?
「ウルフ!急にあの女の上着に攻撃するなんてどうしたんだ?」
上着?
「チッ……!そういうことか!」
完全にしてやられた!
あいつは自分の臭いが染み付いた衣服を囮に使ったんだ!
更に移動中に自分の血が染み付いたものを配置していくことにより自分の位置を誤認させたのか。
しかもこの匂いの感じ、あいつ上着以外の何かしらの衣服を刀で微塵切りにしたな!
血と空中に散った衣服の匂いのせいで女の位置が絞れない!
最悪だ。
視界はまだ回復しない。頼みの嗅覚も使えない。
ここは癪だが一度体勢を立てなおさなきゃな。
「ガイム!一度距離を――」
ドス黒い殺気が俺の身体に突き刺さる。
すぐ横。
「っ!?」
その殺気の方に振り向く。
そこでボヤけながらであるが女を確認する。
近い。
近すぎる。
「――ッ!!」
俺は反射で爪を振るう。
だが、その攻撃は虚しく空を切る。
「……っ!」
殺気が消えた?諦めたのか?
いや!違う!
ターゲットを変えたんだ!
ガイムに危険を知らせるために声を出そうとした時。
俺は視界の端で捉える。
あいつの身体が、わずかに“止まる”ところを。
「ガイム……?」
一瞬の違和感。
「貴様、それでも剣士か?」
ガイムが女に語りかけた直後。
ガイムから血が噴き出す。
「っ!?」
首?
斬られている?
ガイムの?
いつ?
どこで?
見えなかった。
気配も、匂いも。
ガイムの身体が、崩れる。
刀を握ったまま、その場に倒れ込む。
「……は?」
理解が追いつかない。
いや、理解をしたくないのだろう。
あのガイムが。
剣の腕ならこの国でも有数の実力者であるあのガイムが。
こんな一瞬で。
「……っ、てめぇ――!」
俺は吠える。
怒りで、いや、恐怖を少しでも紛らわすためになんでもいいから何かで思考を塗り潰したいのだろう。
「殺すァッ!!」
怯える自分を振り払うように一直線に、全力で、突進していく。
俺の爪が当たれば少なくともダメージは与えられる。
どんなに強くても所詮はガキだ今度こそ当ててやる!
「……遅い」
その言葉が耳に届いたとき、女が視界から消える。
消えた?
透明化の遺物でも使ったのか?
いや、違う!それならかなり前に使用しているはず、ならこれは!
俺の死角に入ったのか!
俺は肘を振るおうとする。
だが、それは空を切るどころか放つことすらできなかった。
「……あ?」
視界が、傾いている。
「……え?」
身体も動かない。どうなっている?
そして俺の視界は逆さまとなり。
動かなくなった俺の身体をとらえる。
「……あぁ」
そこで理解する。
遅すぎる理解。
俺は。
首を。
はねられた。
そんな首だけになった俺が最後に見えたのは。
女、いや、ミノリ・テンドウ。
あいつが、静かに刀を納刀している姿だった。
*
よかった。なんとか目の前の敵を片付けることができた!
にしてもそれでも剣士か、か。自分たちは集団で襲っといてよくいうよ。
そもそも私、剣士じゃないし。お父さんが教えてくれたものの中でたまたま刀が多いだけだからそれよりも有用なものがあったらすぐにそっちにうつるよ。
っと!
こんなことを考えてる場合じゃない!
ユキちゃんは大丈夫なの?
私はユキちゃんの方を確認する。
「ユキちゃん!」
私の目はアニマによってお腹を貫かれていたユキちゃんを捉えた。
「おやおやおやおやおや、司教ではないとはいえ教徒たちも一流探索者たちに引けを取らないレベルだったにも関わらずそれを1人で8人倒すなんて実に素晴らしい!ですが、ですが、ですが!なんたる悲劇!なんたる惨劇!ミノリさん、あなたが私の提案をのまずにその8人と遊んでいる間にミノリさんの大切なお仲間が1人減ってしまいましたよ。私はミノリさんが成長できる子だと信じています!この失敗を糧にもう一度冷静になって考えましょう!あなたはソーマネクルに入るべきです!あなたのお仲間の命を無駄にしないためにここは聡明な決断を使用ではありませんか!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
アニマが何か言っているけどその言葉は私の耳には届かない。
私は目の前のユキちゃんの姿を見て視界も思考も全て黒く染まる。
目の前のあの害獣がユキちゃんをあんなめにした。
駆除しなければ。
一刻も早くあの害獣を駆除しなければ。
私は黒に身を委ねる。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
また来週から水曜日投稿に戻ります。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回もお楽しみください




